親として、子どもに「世界で起きている問題」をどう伝えればいいのか悩んだことはありませんか?児童労働、環境破壊、貧困格差…こうした深刻な社会問題を、幼い子どもたちに理解してもらうのは簡単ではありません。
でも、もし子どもたちが怖がることなく、興味を持って世界の問題に触れられる「入り口」があるとしたら?そんな理想的な教育ツールとして注目されているのが、絵本『じゅんびはいいかい?: 名もなきこざるとエシカルな冒険』です。
この記事では、複雑な世界問題を優しく伝える絵本の力と、なぜこの本が家庭での対話を生み出す特別な存在なのかをお伝えします。きっと、あなたも子どもと一緒に新しい発見をしたくなるはずです。
なぜ「名もなきこざる」が主人公なのか?
この絵本の主人公は「名もなきこざる」。なぜ、あえて名前のない動物が選ばれたのでしょうか?
実は、この設定にこそ作者の深い配慮が隠されています。名前がないことで、読んでいる子どもたちは誰でも自分を主人公に重ね合わせることができるのです。「僕も」「私も」この冒険に参加している気持ちになれるんですね。
物語は、このこざるが「地球のピンチ」を人間に知らせるための冒険に出るという設定で始まります。バナナ、チョコレート、コーヒーといった身近な食べ物を通じて、その背景にある「見えない世界」を探っていく構成になっています。
「ねぇ、知ってる?」という魔法の言葉
本書で繰り返し登場するのが、「ねぇ、知ってる? 見えない世界のほんとうのはなし きみたちとぼくが生きる地球のはなし」という問いかけです。
これは単なる説明ではありません。教訓を押し付けるのではなく、子どもたちの好奇心を刺激する巧妙な仕掛けなのです。「知っている?」と聞かれると、自然と「知りたい!」という気持ちが湧いてきますよね。
難しい問題を「怖くない」形で伝える技術
児童労働という重いテーマへのアプローチ
プランテーションで働く子どもたちの問題は、大人でも重く感じるテーマです。しかし、この絵本ではサルの視点を使って、「なぜ他のサルたち(暗に子どもたちを指す)はバナナ農園で働かなければならず、学校に行けないのだろう?」という疑問として提示されています。
この寓話的なアプローチによって、経済的搾取の過酷な詳細を描くことなく、中核にある不正義を伝えることに成功しています。子どもたちの焦点は、トラウマ的な描写ではなく、「遊んだり学んだりできないのは不公平だ」という共感に向けられるのです。
環境問題も身近な視点から
環境破壊についても、有害な農薬の使用という具体的な問題を、子どもにも分かりやすい形で描いています。作画を担当した中川学氏は、膨大な資料を読み込み、「ウソの絵は子どもにばれる」という信念のもと、リアルな描写を心がけました。
それでも、子どもたちが過度に恐怖を感じることなく、問題の本質を理解できるバランスを保っているのが素晴らしいポイントです。
日常の買い物が「学びの宝探し」に変わる
FSC認証マークという具体的な手がかり
この絵本の特徴的な点は、抽象的な理念を具体的な行動に変換することです。FSC(森林管理協議会)認証マークなどの紹介により、スーパーマーケットでの買い物が「宝探し」のような学びの場に変わります。
「エシカル消費」という難しい概念も、「ロゴを見つける」という子どもにも分かりやすい行動として提示されているのです。これにより、理論と実践の間にある大きなギャップを、見事に埋めています。
買い物という日常行為の再発見
ありふれた一本のバナナが、特定の場所、特定の人々、そして特定の環境的影響が織りなす一つの物語として描かれることで、普段の買い物に新しい意味が生まれます。
子どもたちにとって、台所にある食べ物やクローゼットの中の服が、世界のどこかで誰かが作った「物語」を持っていることを知るのは、きっと驚きの体験でしょう。
親子で一緒に学べる「共学」の効果
大人も知らなかった事実との出会い
多くの読者レビューで指摘されているのが、この絵本が大人にとっても啓発的だということです。「大人でもなかなか知らないこと」が描かれており、保護者からは認証マークの意味や日常品の生産背景について「初めて知りました」という驚きの声が上がっています。
つまり、この絵本は子どもへの一方的な教育ツールではなく、親子が一緒に学び合う「共学」の場を提供しているのです。
家庭内での対話が生まれる瞬間
想像してみてください。夕食の席で、絵本を読んだ子どもが「このチョコレートはどこから来たの?フェアトレードのマークは付いてる?」と尋ねる場面を。
これまで起こらなかったかもしれない対話の扉が開く瞬間です。受動的な消費から、親と子の両方が学習プロセスに参加する能動的で意識的な探求へと、家庭内の関係性がシフトしていきます。
子どもの純粋な好奇心が家族を変える
「絵本」という信頼できる形式の力
この絵本の最も大きなインパクトは、子ども個人に留まらず、家庭という単位全体の価値観や消費行動を変革する可能性にあります。
子どもというフィルターを通して、信頼性が高く脅威を感じさせない「絵本」という形式で、大人が普段なら手に取らないかもしれない専門的なテーマが届けられるのです。
行動変容への自然な流れ
実際に、ある30代の母親は「多少高くても、地域と人を大切にしている会社のつくる商品を買いたいなって思いました」と述べており、本書が具体的な消費行動の変化に繋がったことを証言しています。
子どもの純粋な好奇心が、親の学びの扉を開く鍵となっているのです。
今こそ必要な「優しい入り口」としての絵本
2021年度から中学校の教科書で「エシカル消費」が扱われるようになり、子どもたちが学校で得た知識を家庭で共有する機会が増えています。そんな時代だからこそ、この絵本が提供する「優しい入り口」の価値は計り知れません。
SDGs、世界的な貿易の不均衡、環境危機といった圧倒的で難解に感じられるテーマを、シンプルで脅威のない物語に昇華させるこの絵本の力は、現代の子育てにおいて非常に重要な役割を果たしています。
みなさんも、お子さんと一緒にこの「エシカルな冒険」を始めてみませんか? きっと、普段の買い物や食事の時間が、世界とつながる特別な学びの時間に変わるはずです。

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