あなたの職場にも、きっといるでしょう。毎日遅くまで残業している同僚と、さっさと定時で帰る人。そんな時、「あの人は頑張っているのに、この人は…」なんて思ったことはありませんか?
でも、ちょっと待ってください。その見方、本当に正しいのでしょうか?
朱野帰子さんの『わたし、定時で帰ります。』は、そんな私たちの固定観念を根底から覆す一冊です。この本を読むと、職場で起きている問題の本質が見えてきます。そして何より、同僚への見方が180度変わるかもしれません。
職場に「悪役」は存在しない
多くの職場小説では、明確な悪役と正義の味方が登場します。ブラック上司 vs 頑張る部下、サボる同僚 vs 真面目な社員…といった具合に。
しかし『わたし、定時で帰ります。』は違います。安易なヒーローや悪役を一切設定していないのです。
主人公の東山結衣は確かに定時退社を貫きますが、彼女を完璧な正義として描くことはありません。一方で、長時間働く同僚たちも、単純に「悪い人」として扱われることもありません。
この物語の真の魅力は、それぞれの登場人物が抱える事情を丁寧に描いている点にあります。読者は最初、「なんでこの人はこんなに残業するんだろう?」と疑問に思うかもしれません。でも、その背景が明かされた瞬間、批判の気持ちが理解と共感に変わるのです。
残業の裏に隠された本当の理由
特に印象的なのが、会社に寝泊まりする同僚・吾妻徹の描写です。
最初は典型的な仕事中毒の困った同僚として登場する吾妻。しかし物語が進むにつれて、彼の本当の姿が見えてきます。
結衣に問われた彼は、こう告白するのです。家に帰っても孤独で、空虚な人生と向き合うのが怖いと。
この瞬間、読者の中で何かが変わります。吾妻は単なる「仕事の虫」から、深い孤独を抱えた一人の人間へと変貌するのです。
つまり、仕事の問題は人生の問題の裏返しだということが、この場面で鮮明に浮かび上がります。残業は必ずしも責任感や野心からではなく、時として他の何かから逃れるための手段なのかもしれません。
多様な働き方への深い理解
この本が素晴らしいのは、様々な労働倫理を提示している点です。そして、それぞれを形成した個人的な背景を掘り下げることで、読者にあらゆる登場人物の視点を理解させてくれます。
たとえば、無遅刻無欠勤を誇りとする三谷佳菜子。彼女の背景には、厳しい就職活動の経験と、自分が不要な存在と見なされることへの恐怖があります。
元婚約者で直属の上司・種田晃太郎も同様です。彼の長時間労働は、仕事への献身の表れという伝統的な価値観に基づいています。しかし同時に、その破壊的な側面にも直面し、葛藤しているのです。
このように、一人ひとりに深い事情があることを知ると、単純に「あの人は間違っている」とは言えなくなります。
職場に必要なのは「正義」ではなく「共感」
この物語が教えてくれるのは、職場における「共感」の大切さです。
結衣は同僚たちを批判することはありません。代わりに、どうすれば同僚や部下の心を動かすことができるかを常に考えています。
これこそが、現代の職場に最も必要な姿勢ではないでしょうか。相手を変えようとするのではなく、まず理解しようとすること。
働き方改革が叫ばれる現代ですが、制度を変えるだけでは不十分です。お互いの価値観や事情を理解し合う文化を作ることが、本当の意味での改革につながるのです。
あなたの職場の見方が変わる一冊
『わたし、定時で帰ります。』を読むと、明日から職場の見方が変わるでしょう。
残業している同僚を見て「あの人はやる気がある」「この人は責任感が強い」という単純な評価をするのではなく、その人なりの事情があるのかもしれないと考えるようになります。
逆に、定時で帰る人を見て「あの人は仕事への熱意が足りない」と思うのではなく、効率的に成果を出しているのかもしれないと気づくでしょう。
そして何より、自分自身の働き方についても深く考えるきっかけになるはずです。
この本は、働き方の正解を押し付けるのではありません。多様な価値観が共存できる職場のあり方を、優しく、そして力強く提示してくれるのです。
もしあなたが職場の人間関係に悩んでいるなら、この本は必読です。相手への理解が深まれば、きっと職場がもっと居心地の良い場所になるでしょう。

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