昇進してから部下との会話がぎこちない、会議での発言が思ったように伝わらない、上司への返答で微妙な空気になることがある。そんな経験はありませんか?実は、その原因は話す内容よりも、選んでいる言葉そのものにあるかもしれません。
明治大学文学部教授の齋藤孝氏による『大人の語彙力ノート どっちが正しい?編』は、まさにそんな悩みを持つ中間管理職のための実践的な一冊です。この本は、ビジネスシーンで失敗しないための語彙力を、クイズ形式で楽しく学べる構成になっています。今回は、特にキャリアを守るための実践的なリスク管理能力として、対人語彙力の重要性をお伝えします。
なぜ中間管理職に語彙力が必要なのか
中間管理職になると、部下への指導、上司への報告、顧客との対話など、立場の異なる人々とのコミュニケーションが格段に増えます。この多様な人間関係の中で、言葉遣い一つが評価を大きく左右することをご存知でしょうか。
齋藤孝氏は本書で、語彙を単なる知識ではなく、社会的評価を損なう致命的な失敗を回避するための実用的なスキルとして位置づけています。つまり、正しい語彙を選べることは、あなたのキャリアを守る防御壁になるのです。
特に注目すべきは、本書が網羅的な語彙増強ではなく、特定の状況下で効果を発揮する対人語彙力の養成に特化している点です。上司や顧客との対話、冠婚葬祭といったフォーマルな場など、失敗が許されにくい重要局面を想定してコンテンツが厳選されています。
知らずに使っていた失礼な言葉遣い
本書の第1章では、目上の人やかしこまった席で使える言葉を学びます。ここで取り上げられる具体例が、多くのビジネスパーソンにとって目から鱗の内容なのです。
たとえば、上司のプレゼンテーションを聞いた後、あなたはどう感想を伝えますか?もし「感心しました」と言っているなら要注意です。この表現は、評価する側から目下へのニュアンスを含んでおり、意図せず相手を見下したような印象を与えかねません。正しくは「感銘を受けました」という、敬意のこもった表現を選ぶべきなのです。
同様に、目上への返答として「了解しました」ではなく「かしこまりました」を使うことも、社会人としての基本的なマナーです。これらは些細な違いに見えますが、この一つの知識がビジネスにおける重大な失態を防ぎ、円滑な人間関係の構築に寄与します。
誤用されがちな言葉の本当の意味
第2章では、本来の意味とは異なる意味で誤用されがちな言葉を取り上げています。特に、日常会話やメディアで誤った使い方が広まっている言葉は要注意です。
例えば「破天荒」という言葉。多くの人が「豪快で大胆なこと」という意味で使っていますが、本来の意味は「前人未到の偉業を成し遂げること」なのです。本書のクイズでこの言葉に直面した読者は、自身の理解を試され、もし間違えれば即座に正しい意味を学ぶことになります。
他にも「確信犯」は信念に基づいて正しいと信じて行う犯罪を指し、「他力本願」は自らの修行ではなく阿弥陀仏の本願によって救われることを意味します。これらの言葉をメディアで流布する誤ったイメージのまま使っていると、教養を疑われる場面もあるのです。
クイズ形式で楽しく弱点を発見できる
本書の最大の魅力は、受動的な読書に終始しない、インタラクティブなクイズ形式にあります。これは単なる学習のゲーム化ではなく、学習者自身の知ったかぶりや曖昧な知識を炙り出す、効果的な診断プロセスとして機能します。
読者が能動的に正解を選ぶという行為を通じて、自身の知識の穴を即座に、かつ明確に認識することができます。このようなテスト、失敗、学習という能動的なサイクルは、単に定義リストを読むよりも遥かに記憶に定着しやすく、根深い誤解を効率的に矯正する即効性を持っているのです。
実際の読者レビューでも、「間違い易い言葉、よく似た言葉の違いをクイズ形式で解説しているので取組み易い内容」との声が上がっています。忙しい中間管理職にとって、この手軽さは大きなメリットと言えるでしょう。
漢字と読み方で差がつく文章力
第3章と第4章では、同音異義語の漢字の使い分けや、慣用的に誤読されやすい言葉の正しい読み方を学びます。
メールや報告書などの書き言葉では、漢字の使い分けが正確性を左右します。「なにものにも代えがたい」における「物」と「者」の区別や、「特徴」と「特長」のニュアンスの違いなど、細かい部分での正確性が求められる場面は多いものです。
また、読み方についても「間髪を容れず」は「かんはつをいれず」、「他人事」は「ひとごと」、「凡例」は「はんれい」が正解です。これらは会議でのプレゼンテーションや、顧客との会話で口にする機会があるかもしれません。知っているようで間違えやすい読み方をクイズ形式で確認できるのは貴重です。
フォーマルな場での言い換え力を磨く
第5章では、口語表現や若者言葉を、よりフォーマルで標準的な日本語に言い換える訓練を行います。これは、場面に応じた表現の切り替え能力を養うために重要です。
例えば「ウザい」を「うっとうしい」、「キレる」を「頭に血が上る」といった言い換えは、語彙の品位を高めます。在宅勤務が増えて家族とのコミュニケーションも増えた現代、公私の切り替えが曖昧になりがちですが、ビジネスシーンではやはりフォーマルな表現が求められます。
本書で学ぶことで、目上やフォーマルな場といった失敗が許されにくい状況において、自身の評価を損なわないための守りの語彙力を身につけることができるのです。
語彙学習の第一歩として活用する
本書を語彙学習の最終目標ではなく、不可欠な第一歩として位置づけることが重要です。自身の語彙力に漠然とした不安を抱えながらも、何から手をつければよいかわからない人にとって、本書は最適な自己診断ツールとなります。
体系的なクイズに答えていくことで、自身の基礎知識レベルを客観的に把握し、今後の学習方針を立てるための自信と具体的な課題を得ることができます。例えば、本書を終えて95パーセント以上正解できた人は、基礎が固まっているという自信を得て、齋藤氏の『語彙力こそが教養である』のような、より高度な学習へとスムーズに移行できるでしょう。
逆に、多くの問題に苦戦した人は、まずは本書で扱われる基礎的な語彙の定着に集中すべきだという明確な指針を得られます。このように、本書は学習者を語彙学習のスペクトラム上に正確に位置づけ、次の一歩を導く羅針盤としての役割を果たすのです。
部下との信頼関係構築にも役立つ
本書で学ぶ語彙力は、上司や顧客への対応だけでなく、部下との信頼関係構築にも役立ちます。正しい言葉遣いができるリーダーは、それだけで知的で信頼できる印象を与えるものです。
特に最近昇進したばかりで、部下とのコミュニケーションに悩んでいる方にとって、言葉選びの正確さは重要な武器になります。プレゼンテーションや会議での発言が思ったように相手に伝わらないという悩みも、適切な語彙を選ぶことで改善される可能性があります。
齋藤氏のコミュニケーション論では、語彙は最も基礎的な土台であり、正しい言葉を選ぶ能力を鍛えることが、対話の技術や深い教養に裏打ちされた豊かなコミュニケーションへの第一歩とされています。
今日から始められる実践的な語彙力向上
『大人の語彙力ノート どっちが正しい?編』は、30万部を超えるヒット作となった『大人の語彙力ノート』の続編として、より実践的な内容を求める読者の声に応える形で出版されました。
この本の構成は、大人が日常やビジネスシーンで直面しやすい語彙の問題を5つの章に分類して体系的に整理しており、新たな語彙を積極的に増やすというよりも、既存の知識の誤りを正し、社会的な失敗を未然に防ぐ誤用訂正に主眼が置かれています。
つまり、不適切な言葉遣いによって信頼を失うリスクを回避するという、防御的な姿勢を提供する実用書なのです。これは、キャリアの中で着実に成果を積み重ねていきたい中間管理職にとって、非常に実践的なアプローチと言えるでしょう。
本書を通じて、ビジネスシーンでの言葉選びに自信を持ち、上司からも部下からも信頼されるリーダーへと成長していくことができます。語彙力は一朝一夕には身につきませんが、本書のようなツールを活用することで、効率的に弱点を発見し、改善していくことが可能です。

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