あなたは部下の理解しがたい行動に困惑したことはありませんか?何度注意しても同じミスを繰り返す、簡単な指示が通らない、反省の色が見えない……。そんな時、つい「やる気がない」「反抗的だ」と判断してしまいがちです。
しかし、児童精神科医の宮口幸治氏が著した『ケーキの切れない非行少年たち』は、そうした見方を根底から覆す衝撃的な事実を明かしています。問題の本質は「悪意」ではなく「認知能力の欠如」にあるかもしれないのです。
本書を読むことで、部下の行動を新しい視点で理解し、より効果的なコミュニケーションの糸口を見つけることができるでしょう。

1. 衝撃の事実:「反省できない」という現実
本書の最も衝撃的な発見は、多くの非行少年が「反省以前の問題」を抱えているという事実です。
従来、非行は道徳心の欠如や悪意の表れとして捉えられてきました。しかし宮口氏が医療少年院で出会った少年たちは、そもそも反省に必要な認知能力そのものを欠いていたのです。
凶悪犯罪を犯した少年にその動機を尋ねても、問いが難しすぎて答えられない。これは単なる反抗ではなく、自己の行為を客観視し、被害者の立場に立って考え、因果関係を理解するという高度な認知活動ができないことを意味します。
この発見は、職場でも大きな示唆を与えてくれます。あなたが「理解できない」と感じる部下の行動も、実は認知的な特性の違いに起因している可能性があるのです。
2. 「ケーキが切れない」が象徴する認知の課題
本書のタイトルにもなった印象的なエピソードがあります。
医療少年院の少年が、丸いケーキを3人で公平に分けるよう求められた時のことです。普通なら中心から放射状に切って3等分するところを、その少年は縦に一本線を引いて途方に暮れてしまいました。
これは単なる知識不足ではありません。空間認知能力、抽象的思考力、全体を部分に分割する論理的思考力の困難さを示しています。
職場でも同様の場面に遭遇することがあります。プレゼンテーションの構成が理解できない、業務の優先順位が判断できない、といった問題の背景には、こうした認知的な特性が隠れている可能性があります。
3. 境界知能という見えないハンディキャップ
本書が光を当てるもう一つの重要な概念が「境界知能」です。
IQ70から84の範囲にある人々は、知的障害とは診断されないものの、平均的な知能水準には達していません。彼らは明確な障害として認定されないため、適切な支援を受けられずに誤解され続けがちです。
- 学習意欲がない
- 怠けている
- わざとやっている
こうした判断を下される中で、自己肯定感を失い、居場所をなくしていくのです。
中間管理職として、部下の中にもこのような特性を持つ方がいる可能性があります。彼らの困難を理解し、適切なサポートを提供することが、チーム全体の成果向上につながるでしょう。
4. 認知の歪みが引き起こす悪循環
著者は、認知機能の脆弱性が引き起こす悪循環について詳しく解説しています。
基礎的な認知能力の問題は、単なる学習面の困難に留まりません。
- 空間を正しく認識できない
- 計画的に物事を進められない
- 他者の感情を理解できない
- 行動の結果を予測できない
これらの困難は、社会的な失敗や孤立を招き、ストレスや情緒不安定を生み出します。そして最終的に、不適応な対処行動へと繋がっていくのです。
職場でも、部下の「問題行動」の背景には、こうした認知的な困難が潜んでいる可能性があります。表面的な指導ではなく、根本的な理解とサポートが必要です。
5. 解決への希望:コグトレという新しいアプローチ
本書の素晴らしい点は、問題を指摘するだけでなく、具体的な解決策を提示していることです。
「コグトレ(認知機能強化トレーニング)」は、認知機能の基礎となる能力を段階的に向上させるプログラムです。
- 覚える
- 数える
- 写す
- 見つける
- 想像する
これらの基本的な能力を、紙と鉛筆を使った簡単なトレーニングで鍛えることができます。
管理職として、部下の認知特性を理解し、適切なサポートを提供することは、懲罰的なアプローチよりもはるかに効果的です。一人当たり年間400万円という社会的コストを考えれば、早期の教育的介入は人道的価値と経済的合理性を両立させる優れた投資と言えるでしょう。
6. リーダーシップに活かす新しい視点
本書から得られる最大の教訓は、人間の行動を理解する新しい視点です。
部下の「問題行動」を道徳的な問題として捉えるのではなく、認知的な特性の違いとして理解することで、より効果的なマネジメントが可能になります。
- 指示の出し方を工夫する
- 視覚的な資料を活用する
- 段階的な説明を心がける
- 個人の特性に合わせたサポートを提供する
このようなアプローチは、チーム全体のパフォーマンス向上と職場環境の改善に大きく貢献するでしょう。
まとめ:理解から始まる真のコミュニケーション
『ケーキの切れない非行少年たち』は、単なる社会問題の告発書ではありません。人間理解の新しい扉を開く、すべてのリーダーにとって必読の書です。
本書が提示する「反省できない」という衝撃的な事実は、私たちの固定観念を揺さぶり、より深い人間理解へと導いてくれます。部下とのコミュニケーションに悩む中間管理職にとって、この新しい視点は必ず役立つはずです。
真の解決は、批判や叱責ではなく、理解と適切なサポートから始まるのです。


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