あなたは会議で資料を発表した後、「で、結局どうしたらいいの?」と聞かれたことはありませんか?丁寧に作った資料なのに、相手に伝わらない。提案書を出しても、なかなか決裁が下りない。部下への指示も、なぜか思うように動いてもらえない。
そんな悩みを抱えるあなたに朗報です。実は、多くのビジネスパーソンが陥る「伝わらない資料」には共通の問題があります。それは、資料を「報告書」として作ってしまっていることです。
この記事では、マッキンゼー出身の中川邦夫氏による『ドキュメント・コミュニケーションの全体観 下巻 技法と試合運び』から、あなたの資料を「相手を動かす行動計画書」に変える具体的な方法をお伝えします。読み終わる頃には、明日から使える実践的なテクニックが身につき、あなたの影響力は飛躍的に向上するでしょう。
なぜ質の高い資料を作っても相手が動かないのか?
多くの管理職が直面する問題があります。それは、時間をかけて作った資料が、相手の行動につながらないという現実です。
著者の中川氏は、質の悪い資料が原因で会議が30分延長した場合、年間で1,300万円もの超過コストが発生することを指摘しています。これは単なる個人のスキル不足ではなく、組織全体の生産性を左右する経営課題なのです。
問題の根本は、多くの人が資料を「過去の報告」として捉えていることにあります。しかし本書では、ドキュメントの本来の目的は「未来の行動の創出」であると断言します。
従来の「報告書」思考
- 今週はタスクAとタスクBを実施しました
- 現状の課題は〇〇です
- 以上で報告を終わります
本書が提唱する「行動計画書」思考
- 現状、プロジェクト全体の進捗率は50%です(事実)
- このままでは2週間後の納期に間に合わないリスクが80%です(解釈)
- そこで、Bのタスクを優先し、Cチームから2名のリソースを借りるべきです(行動)
- 具体的な依頼内容は別紙の通りで、明日午前中にCチームリーダーに打診します(実行計画)
この違いがわかりますか?後者は読み手に明確な次のアクションを示し、具体的な期限まで設定しています。
「解・動・早」の原則:相手を動かす資料の3つの条件
本書の核心となるのが「解・動・早」の原則です。これは、効果的なドキュメントが満たすべき3つの条件を示しています。
「解」:内容を理解し納得してもらう
人はストーリーで納得します。単に事実を羅列するのではなく、相手が腹落ちする論理的な流れを作ることが大切です。
「動」:具体的なアクションに動いてもらう
読み手に期待するアクションを明示する必要があります。「検討してください」ではなく、「来週火曜日までに承認いただき、水曜日から実行に移します」といった具体性が重要です。
「早」:そのアクションをできるだけ早く取ってもらう
実行スケジュールの提示が必要です。緊急性を伝え、相手の行動を促進させる工夫が求められます。
私自身、管理職になりたての頃は、部下への指示がうまく伝わらず苦労しました。しかし、この「解・動・早」の原則を意識するようになってから、チームの動きが格段に良くなりました。特に「動」の部分で、「誰が、いつまでに、何を」を明確にすることで、認識のズレが大幅に減少したのです。
「空・雨・傘」から「Becauseストーリー」への転換
本書が提示するもう一つの重要な概念が、思考のプロセスと伝達のプロセスを区別することです。
「空・雨・傘」の思考プロセス
- 空:事実を観察する
- 雨:そこから意味合いを解釈する
- 傘:取るべき行動を導き出す
これは自分の思考を整理する上で非常に有効です。しかし、この順序で相手に伝えても、必ずしも効果的とは限りません。
「Becauseストーリー」の伝達プロセス
- まず結論(傘)を提示
- その根拠として事実(空)と解釈(雨)を述べる
- 最後に具体的な実行計画(HTD: How To Do)を付け加える
多忙なビジネスの現場では、聞き手はまず結論を知りたがります。この「Becauseストーリー」は、受け手の心理を考慮した説得のためのフレームワークなのです。
例えば、新規事業の提案を考えてみましょう。「空・雨・傘」の順序だと、市場調査の結果から延々と説明を始めてしまいがちです。しかし「Becauseストーリー」では、「我々は新規事業Aに参入すべきです。なぜなら…」と結論から始めることで、聞き手の注意を引きつけることができます。
知的生産性を飛躍させる「仕事」と「作業」の仕分け術
本書の中でも特に印象的なのが、「仕事」と「作業」の明確な区別です。これは、ドキュメント作成の効率と質を根本から改善する強力な概念です。
「仕事」:ある成果を生み出すために「思考する」こと
- 仮説を立てる
- 手順を考える
- 因果関係を洞察する
- ストーリーを構築する
「作業」:思考のために準備する、あるいは思考したことを実行すること
- データを入力する
- 資料の体裁を整える
- グラフを作成する
- 会議を設定する
多くの人が、指示を受けるとすぐにPowerPointを開いてしまいます。しかし、これは「作業」から始めてしまっている状態です。その結果、本質的なメッセージが定まらないまま手戻りが多発し、質の低いアウトプットに時間を浪費してしまいます。
著者によると、「仕事」は1日に3 – 4時間しか集中して行えないデリケートな活動です。だからこそ、最も価値の高い思考に集中し、その骨格が固まってから「作業」に移ることが重要なのです。
私の場合、通勤電車の中で企画のストーリーラインを考える時間を「仕事」として位置づけています。この時間で全体の構成を練り上げることで、後のパソコン作業が格段に効率化されました。
個人技を組織力に変える「試合運び」の戦略
本書の独自性を最も際立たせているのが、「試合運び」という視点です。優れたスキルも、個人の能力に留まっているだけでは組織全体の力になりません。
組織的導入の4つのステップ
- 動機づけ:会社のWINと社員のWIN、すなわちWIN-WINの関係性を明確に示す
- 全社イベント化:トップは旗振り役、管理職は宣教師、一般社員は自らのステップアップの機会と捉える
- 日常化:優れた実践を評価し、ルール違反を取り締まることで好循環を生み出す
- 新風土づくり:「こうしましょう」というポジティブなスタイルを組織全体に広める
具体的な実践例として、ある部門では以下のような取り組みを行いました:
- 部門長が全メンバーに対し、「すべての会議資料において『解・動・早』を徹底する」と宣言
- 各チームリーダーが勉強会を開催し、具体的な作成方法を指導
- 月次会議で最も分かりやすい資料を作成したチームを表彰
- その貢献を人事評価にも反映
このような「試合運び」を通じて、優れたドキュメント作成は「一部の意識の高い人がやること」から、「その組織におけるできて当たり前の文化」へと変わっていくのです。
実践で差がつく具体的テクニック集
本書の下巻では、上記の原則を実践するための具体的なテクニックが数多く紹介されています。
避けるべき「4つのネガティブ定番」
- 全面禁止:「〇〇は絶対にダメ」
- 責任逃れ:「私の責任ではありませんが」
- 矮小化:「たいした問題ではありませんが」
- あら探し:「このやり方には問題がある」
これらは建設的な解決策から遠ざかる思考パターンです。代わりに、「こうすればより良くなる」という提案型の表現を心がけましょう。
論理ツールの活用
- MECE(漏れなくダブりなく)
- ロジカル因数分解
- 言葉やレイアウトの分かりやすさの追求
これらのツールは、単なるテクニックではありません。すべて「解・動・早」の原則を実践するための方法論として体系化されています。
私が実際に使って効果を感じているのは、資料の最初に「本日の決定事項」「次回までのアクション」を明記することです。これにより、会議の生産性が格段に向上しました。
まとめ:あなたの影響力を10倍にする資料作成術
『ドキュメント・コミュニケーションの全体観 下巻』は、単なる資料作成のハウツー本ではありません。それは、あなたの影響力を組織レベルで発揮するための戦略書です。
本書から得られる3つの価値
- 思考の転換:「報告書」から「行動計画書」への発想の転換
- 実践的技法:「解・動・早」「Becauseストーリー」などの具体的メソッド
- 組織変革の視点:個人技を組織力に変える「試合運び」の戦略
今後、ビジネスの世界では、情報を整理する能力よりも、人を動かす能力がより重要になってくるでしょう。AIが台頭する中、人間にしかできない「相手の心を動かし、行動を促す」スキルこそが、あなたの価値を決定づけます。
明日からの会議資料作成が変わります。あなたの提案が通りやすくなります。部下とのコミュニケーションが格段に改善されます。そして何より、あなた自身の仕事に対する自信と満足感が大きく向上するはずです。
本書は、そんな変化を起こすための実践的な指南書として、すべてのビジネスパーソンに強くお勧めします。


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