時代を超えて響く「データと企画力」~川上徹也『二人の蔦屋』が明かす、江戸と令和を結ぶビジネスの本質

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あなたは、データをどう活かしていますか。ITの現場にいれば、毎日のようにログやメトリクス、ユーザーの行動データと向き合っているはずです。しかし、そのデータを本当に活かせているでしょうか。データを集めるだけで満足していないでしょうか。データを武器にするには、そこから何を読み取り、どんな企画を生み出すかという視点が必要です。川上徹也氏の『二人の蔦屋 蔦屋重三郎と増田宗昭』は、江戸時代の出版プロデューサーと現代のカルチュア・インフラの創業者という、200年以上の時を超えた二人の人物を通じて、データと企画力の融合がいかに時代を切り開く力となるかを鮮やかに示す一冊です。

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江戸の版元と現代のCCC、時を超えたビジネスモデル

蔦屋重三郎と増田宗昭、一見するとまったく異なる時代に生きた二人ですが、彼らのビジネスモデルには驚くべき共通点があります。その核心にあるのが、顧客の動向を把握し、それを次の企画に活かすという、データドリブンな発想です。

重三郎は吉原大門前で貸本屋を営み、その経験から大衆の嗜好を読み取りました。江戸時代の本は高価で、庶民にとって購入はハードルが高いものでした。そこで貸本屋は重要な役割を果たし、人々は気軽に本を楽しめるようになっていました。重三郎は、どの本がよく借りられるか、どの物語が人気かという定性的なデータを日々の営業の中で集積していたのです。そして、そのデータを元に歌麿や写楽といった才能を発掘し、次々とヒット作を世に送り出しました。

一方、増田宗昭が率いるカルチュア・コンビニエンス・クラブは、貸しレコード店から始まり、やがてTカードという膨大な購買データを集める仕組みを構築しました。このデータは定量的であり、顧客一人ひとりのライフスタイルや嗜好を可視化する強力な武器となりました。増田はこのデータを駆使して、個々の顧客に最適化された体験を提供する場を次々と企画し、代官山 蔦屋書店やSHIBUYA TSUTAYAといった文化拠点を生み出しました。

レンタルという革命、所有からアクセスへの転換

二人の共通点は、ビジネスの出発点にもあります。重三郎は貸本屋、増田は貸しレコード店と、ともに「レンタル」というモデルからキャリアをスタートさせました。これは単に商品を貸し出すだけではなく、文化へのアクセスポイントを提供し、顧客との継続的な関係を築く画期的な仕組みでした。

レンタルの本質は、顧客が何を求めているかを知るための情報収集にあります。重三郎は貸本屋で得た情報を元に、大衆の需要を正確に把握し、それを自らの出版事業にフィードバックさせました。この循環こそが、次々とベストセラーを生む秘訣だったのです。増田もまた、レンタル事業で得たデータを活用し、顧客のライフスタイルそのものを提案するデータ駆動型のマーケティング帝国を築きました。

このアプローチは、現代のサブスクリプションモデルやプラットフォームビジネスの原型とも言えます。文化商品を「所有」させるのではなく、より手軽な「利用」の機会を提供することで、顧客の嗜好という最も価値ある情報を集積する仕組みを作り上げたのです。

定性と定量、データの質を問わず企画力で勝負する

蔦屋重三郎と増田宗昭のビジネスモデルを比較すると、データの種類は異なるものの、その本質は驚くほど似ています。重三郎が扱ったのは定性的なデータであり、どの本が人気か、どんな物語が話題になるかという肌感覚に近い情報でした。一方、増田が駆使したのは定量的なデータであり、Tカードによる購買履歴という数値化された膨大な情報でした。

しかし、データの形式が異なっても、二人が行ったのは同じことです。それは、顧客の動向を正確に把握し、それに基づいて次の手を打つという、データドリブンな企画力の発揮でした。増田は「企業の時代から個人の時代へ」と語り、データの時代における個人の創造性の重要性を説いています。彼は帰納法と演繹法の両方を活用することが企画で一番になる唯一の方法だと述べており、データ収集だけでなく、そこから知見を導き出す人間の役割を強調しています。

この視点は、現代のIT管理職にとって示唆に富んでいます。データを集めるだけでは意味がなく、そこから何を読み取り、どんな価値を生み出すかが問われているのです。

人を惹きつける企画力と人たらしの技術

二人の蔦屋を成功に導いたもう一つの要素が、稀代のプロデューサーであり人たらしとしての才能でした。重三郎は歌麿や写楽といった才能を発掘し、彼らの活動を全面的に支援しました。増田は代官山 蔦屋書店のような場を創出し、現代のクリエイターが集い、新たな価値が生まれる生態系を作り上げました。

彼らのプロデュース能力の核心にあったのが、人を魅了し、その才能を最大限に引き出す力でした。取材中にソファに横になりながら語る増田の姿は、相手の警戒心を解き、心を許させる人たらしの技術を垣間見せます。これは単なるコミュニケーションスキルではなく、相手の才能を瞬時に見抜き、最高の仕事をさせるカリスマ性なのです。

この能力は、部下との信頼関係に悩むあなたにとっても重要な示唆を与えてくれるでしょう。人を動かすのは命令ではなく、相手の才能を信じ、引き出すという姿勢なのです。

失敗から学び、再生する力こそが真の強さ

本書が描くのは、二人の輝かしい成功だけではありません。彼らのキャリアを根底から揺るがすほどの巨大な挫折と危機にも光を当てています。重三郎は寛政の改革により財産半減の刑に処され、増田はディレクTVの失敗で社長解任という憂き目に遭いました。

しかし、彼らはこの絶望の淵から這い上がりました。重三郎は弾圧にも屈せず出版活動を続け、増田はディレクTVの失敗から学び、後に代官山 蔦屋書店という自らのビジョンを結晶させた事業を生み出しました。本書は、ビジョナリーな起業家を定義づけるものは、失敗しないことではなく、破滅的な失敗から何を学び、いかにして再生するかにかかっているという力強いメッセージを投げかけています。

中間管理職として、プレゼンが通らない、部下との関係に悩む、そんな日々の小さな失敗に心が折れそうになることもあるでしょう。しかし、失敗は成長の糧であり、そこから何を学ぶかが重要なのです。

文化を届けることの本質とは何か

本書の根底に流れるテーマは、文化を届けるとはどういうことかという問いです。重三郎も増田も、単に商品を売るのではなく、人々の生活を豊かにする文化体験を提供しようとしました。重三郎は江戸の大衆文化を牽引し、増田は現代日本において豊かな生活のヒントや個人的楽しみを見つける場を創造してきました。

増田は「俺は平成の蔦屋重三郎と言われてきたけど、最近、蔦重じゃなく本当は歌麿だったんじゃないかなと思ってきてる」という衝撃的な自己認識の変化を語っています。これは、自らを文化のプロデューサーから、文化を体現するクリエイターへと再定義する試みであり、彼の事業哲学が新たな次元に入ったことを示唆しています。

あなた自身も、単にタスクをこなす管理職ではなく、チームに新しい価値をもたらすプロデューサーになれるはずです。そのためには、データと企画力を融合させ、人を惹きつける力を磨き、失敗から学び続けることが必要なのです。

川上徹也氏の集大成としての本書

本書は、著者である川上徹也氏のこれまでの著作活動の集大成とも言えます。コピーライターとして培った言葉の力、ストーリーブランディングというマーケティング手法、そして歴史上の商人に学ぶビジネス戦略という、彼が長年探求してきたテーマが、本書において一つの壮大な物語として結実しているのです。

川上氏の前作『江戸式マーケ』では、重三郎は数多くいる江戸の商人の一人として分析的に紹介されていました。しかし本書では、重三郎は増田と対をなす壮大な物語の主人公として、その全生涯が深く掘り下げられています。この変化は、著者の関心が個別の戦術から、それを生み出す人物そのものへ、そして普遍的な生き方へと深化していることを示しています。

著者の思索の軌跡を追うことで、本書をより立体的に理解することができます。

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