近年、SNSでの発言が社会問題となるケースが相次いでいます。特に専門的な立場や公的な役職を持つ人物の発言は、一般の個人とは比較にならない影響力を持ちます。ハラスメント対策の専門家や大学教授といった立場の人が不適切な発言をした場合、その影響は個人の枠を超えて組織全体、さらには社会全体に及ぶ可能性があります。管理職として職場のコンプライアンスを考える上で、立場に応じた発言責任の重要性を理解することは、健全な職場環境を維持するために不可欠です。
専門的立場が持つ発言の重み
ハラスメント対策の専門家に求められる役割
ハラスメント防止の専門資格には、21世紀職業財団が認定する「ハラスメント防止コンサルタント」があります。この資格は厚生労働省の後援を受けており、現在全国で800人を超える専門家が活躍しています。これらの専門家は企業・団体のハラスメント防止対策推進、相談対応、事案解決の支援、研修講師といった重要な役割を担っています。
また、一般財団法人日本ハラスメントカウンセラー協会が認定する「ハラスメントアドバイザー」という民間資格も存在します。この資格保持者は、ハラスメント事案を未然に防ぎ、万が一の場合の危機を最小化するための極めて重要な役割を担うとされています。
これらの専門家に共通しているのは、被害者と加害者双方の話をフラットに聞き、先入観を持たずに公平に対応することが求められている点です。「それってハラスメントになるのかな?」といった自分の価値観を入り込ませてはならず、どちらの話も公平に聞くことがハラスメント対応の"肝"とされています。
大学教授という地位の社会的責任
大学教授の社会的責任についても考える必要があります。大学教員の仕事は、教育であれ研究であれ、個別機関や国の利害を超え、人類社会の知的財産を生み出し、次代に伝えるもので、本質的に公共的なものであり、社会全体に責任を負うものとされています。
科学者の社会的責任として、3つの責任が挙げられています。倫理責任(科学は真実の上に成り立つ、科学者は互いに信用できる)、説明責任(税金で研究と生活が保障されている、社会から付託されている)、そして社会的責任(科学者にしかできないことがある、専門家としての役割)です。これらの責任は、大学教授が単なる個人ではなく、社会から特別な地位と信頼を与えられた存在であることを示しています。
自治体におけるハラスメント対策と専門家の役割
地方公共団体のハラスメント対策体制
地方公共団体では、職場のセクシュアルハラスメント対策、パワーハラスメント対策等を防止するため、雇用管理上、講ずべき措置義務の適用を受けています。総務省は2025年6月にも「地方公共団体における各種ハラスメント対策の徹底について」という通知を発出し、事業主たる地方公共団体の各任命権者は、職場における各種ハラスメントのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない義務があることを強調しています。
近年では、首長等や議員によるハラスメントに関する条例を制定する自治体も増えています。大和市では、市長等、議員、職員その他本市に勤務する全ての者は、ハラスメントが個人の尊厳を不当に傷つけ、人権侵害に当たることを理解し、他者に対しハラスメントを行ってはならないとしています。
外部専門家への期待と責任
自治体のハラスメント対策において、外部の専門家が重要な役割を果たしています。明治学院大学の事例では、心理学部の教授が学生に対するハラスメントで停職180日の懲戒処分を受けましたが、この教授は都内の自治体でいじめ対策の委員を務める人物でした。大学の匿名発表により、自治体側は対処に困る状況となっています。
このような事例は、専門的な知識を持つ外部委員が自治体の政策決定に与える影響の大きさを示しています。専門家としての見識を活かしてハラスメントのない快適な職場づくりを目指す立場にある人物が、自らの発言や行動において問題を起こした場合、その影響は計り知れません。
SNS時代における発言責任とリスク管理
デジタル時代の情報拡散力
現代のSNS環境では、一度発信された情報は瞬時に拡散され、永続的に記録として残ります。特に専門的な立場にある人物の発言は、その立場ゆえに注目を集めやすく、より多くの人に影響を与える可能性があります。
ハラスメント事案について、深刻なものは社員間の問題にとどまらず、企業を巻き込んだ訴訟等に発展する可能性があります。また、昨今では事案が「SNS」などに拡散することもあり、その場合企業の信用・評判に悪影響が及び、営業活動や人材採用においても大きなマイナスの要因となります。
組織のリスクマネジメント
管理職として考えるべきは、組織内の専門家や外部委員の発言が組織全体に与えるリスクです。国立大学法人大阪大学の倫理規程では、教職員は勤務時間外においても、自らの行動が大学の信用に影響を与えることを常に認識して行動しなければならないとしています。
このような規程は、職場環境の整備だけでなく、組織の信頼性を維持するためにも重要です。特にハラスメント対策に関わる専門家については、その発言や行動が組織の取り組み全体の信頼性に直結することを理解する必要があります。
管理職として考えるべき対応策
社内体制の整備
管理職として職場のハラスメント対策を推進する際には、以下の点を考慮する必要があります。まず、相談窓口の設置と適切な運営です。大和市の例では、弁護士、臨床心理士等のハラスメント事案に係る専門的知識を有する者から選任された第三者によるハラスメント相談窓口を開設しています。
次に、研修体制の充実です。階級別のハラスメント研修やハラスメント実態把握調査の実施など、様々な取り組みによりハラスメント対策を推進することが重要です。これらの研修では、立場に応じた発言責任についても十分に説明する必要があります。
外部専門家との連携
外部の専門家と連携する際には、その専門家の資格や実績だけでなく、過去の発言や行動についても慎重に検討することが重要です。また、委員就任時には、立場に応じた発言責任について明確に説明し、組織の信頼性維持に協力してもらう体制を整える必要があります。
特に、SNSでの発言については、個人の意見であっても組織との関連性が指摘される可能性があることを説明し、適切な情報発信について指導することが求められます。
ハラスメント対策における言葉の重要性
セカンドレイプと言葉の影響
ハラスメント対策において、言葉の選択は極めて重要です。性暴力被害に関する発言では、「レイプ神話」と呼ばれる偏見に基づいた認識が問題となることがあります。これらの神話は性暴力の実状と大きく異なり、被害者に対するセカンドレイプの原因となります。
専門家の発言は、一般の人々の認識に大きな影響を与えるため、正確で配慮のある表現を使用することが求められます。特に「レイプと何が違うのか」といった表現は、被害者の心に深い傷を与える可能性があります。
適切な専門用語の使用
ハラスメント対策の専門家には、感情的な表現ではなく、正確で専門的な用語を使用することが期待されます。WHO(世界保健機関)では性暴力について広義な定義を採用していますが、これらの定義を正しく理解し、適切に使用することが重要です。
組織文化の醸成と継続的改善
風通しの良い職場環境
兵庫県芦屋市では、「風通しのよい働きやすい職場を目指して」という方針のもと、ハラスメント対応部署として法務コンプライアンス課コンプライアンス係を設置しています。このような取り組みは、組織全体でハラスメント対策に取り組む姿勢を示しています。
管理職として重要なのは、単に制度を整備するだけでなく、組織全体でハラスメント防止に取り組む文化を醸成することです。これには、立場に応じた発言責任についての継続的な啓発活動も含まれます。
継続的な教育と意識向上
ハラスメント防止は一度の取り組みで完結するものではありません。社会情勢の変化やSNSの普及など、新たな課題に対応するため、継続的な教育と意識向上が必要です。特に、専門的な立場にある職員や外部委員については、その影響力の大きさを理解してもらうための教育が重要です。
結論
専門的立場にある人の発言は、その立場ゆえに一般の個人とは桁違いの影響力を持ちます。ハラスメント対策の専門家や大学教授といった地位にある人物が不適切な発言をした場合、その影響は個人の枠を超えて組織全体、さらには社会全体に及ぶ可能性があります。
管理職として職場のコンプライアンスを推進する立場にある者は、このような専門家の発言責任の重要性を理解し、組織内外の関係者に対して適切な指導と支援を行う必要があります。また、SNS時代における情報拡散の特性を踏まえ、リスクマネジメントの観点からも発言責任について継続的に啓発していくことが求められます。
ハラスメントのない健全な職場環境を実現するためには、制度の整備だけでなく、関係者全員が立場に応じた責任を自覚し、適切な行動を取ることが不可欠です。今後は、専門的知識を持つ人材の育成と同時に、その影響力に見合った責任感の醸成に取り組んでいくことが重要です。


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