多くのビジネスパーソンが日々努力を重ねているにも関わらず、期待した成果に結びつかない現実があります。その根本的な原因は、自分の視点で物事を考えがちで、相手が本当に求めているものを見落としてしまうことにあります。真に成果を上げる人は、自分のやり方や正しさではなく、相手の望みや変化に焦点を当てた仕事を実践しています。現代のビジネス環境では、顧客中心の考え方を身につけることが、個人のキャリア価値向上と組織の成功に直結する重要なスキルとなっています。
顧客志向の本質とその重要性
顧客志向とは、自社の利益や製品の特徴を優先するのではなく、顧客のニーズや要望を最優先に考える経営戦略のことです。これは単に顧客の声を聞くことではなく、顧客が自覚していない潜在的なニーズまで満たすことを指しています。
現代のビジネス環境において顧客志向が注目される背景には、市場の変化があります。過去の製品中心の時代では、安ければ売れる状況でしたが、現在はモノが溢れている時代です。インターネットやSNSの発展により、顧客の購買プロセスが変化し、顧客自身を満たすことが重視されるようになりました。
顧客志向を実践することで得られるメリットは多岐にわたります。まず、顧客満足度が向上し、継続的にサービスを利用してもらえるようになります。これにより、顧客生涯価値(LTV)の向上が期待できます。新規顧客を獲得するコストは既存顧客の5倍必要だと言われているため、継続率を高めることで利益率も高められます。
さらに、顧客志向によって競合商品やサービスとの差別化が図れます。多くの似た商品やサービスが存在する中で、顧客の潜在的なニーズを深く理解し、提供する価値やメリットを明確に伝えることで、独自の市場ポジションを築くことができます。
相手の望みを探ることの戦略的意義
成果を上げるために「相手の望みを探る」ことは、現代のマーケティングや営業活動において極めて重要な戦略的アプローチです。これは、表面的な要求だけでなく、顧客の深層にある真のニーズを理解することを意味します。
顧客のニーズには「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」があります。顕在ニーズとは、顧客が自覚でき、自ら言語化できるニーズのことです。一方、潜在ニーズとは、顧客自身が明確に自覚していない隠れた欲求や要望のことです。
ハーバード大学のジェラルド・ザルトマン名誉教授によれば、「人間の行動のうち、自分で認識できる行動はわずか5%であり、残りの95%は無意識である」とされています。つまり、人が自分のニーズを自覚し、他人に説明できる内容は全体の5%に過ぎないのです。
この理論は、なぜ相手の望みを探ることが重要なのかを明確に示しています。顧客が口に出す要求は氷山の一角に過ぎず、その背後にある95%の無意識のニーズを発見することで、真の価値を提供できるのです。
ハーバード・ビジネス・スクールのセオドア・レビット名誉教授の有名な言葉「ドリルを買う人が欲しいのは、ドリルではなく穴の方である」は、この概念を分かりやすく表現しています。顧客の声を表面的に捉えてしまう現象を近視眼的マーケティングとして問題視し、ニーズの本質を捉えることの重要性を指摘しています。
潜在ニーズを発見する実践的手法
相手の真の望みを探るためには、従来のアンケートやインタビューだけでは不十分です。顧客が自覚していない潜在ニーズは、第三者が顧客の行動を観察することで明らかにできます。
行動観察調査の活用
潜在ニーズを調査する最も効果的な手法として、行動観察調査があります。これは、顧客の行動を実際に観察し、得られた事実に基づいて分析・推察を行い、潜在ニーズを導き出す方法です。
例えば、ある主婦が夕食を作っている際、料理の合間にビールを飲み、気分を高めていました。最初のインタビューでは「ビールが好きなだけです」との回答でしたが、実際の調理中の行動を観察したところ、料理の節目の終わりにビールを飲んでいることがわかり、「料理は誰かに褒めてもらいたい。その小さな達成感のようなものを得るためにビールを飲んでいる」という潜在ニーズが明らかになりました。
深層インタビューの実践
インタビュー調査は、顧客の深層心理や潜在的なニーズを掘り下げて聞き出すことができる方法です。効果的なインタビューを行うためには、適切な質問設計が重要です。
顧客インタビューでは、商品・サービスに興味を持ったきっかけや、購入前のお悩み・課題・ご要望を探ることが重要です。具体的には、「最初に◇◇に興味を持ったきっかけは何だったんでしょうか?」「弊社へご相談いただくまえに抱えていた、ご要望やお悩みを教えていただけないでしょうか?」といった質問が効果的です。
また、5W1Hを活用した質問設計も有効です。「What(何を?):この製品の1番の魅力は何ですか?」「Why(なぜ?):なぜこの製品を選んでくれたのですか?」といった質問により、顧客の動機や価値観を深く理解できます。
ニーズの構造的理解
ニーズを効果的に理解するためには、「Be Do Have」というフレームワークが有効です。このフレームワークでは、顧客のニーズを「存在」「行動」「所有」という3つの観点から捉えます。
「Be(存在)ニーズ」は、人々が自分自身や他人になりたいと思う状態やアイデンティティーに関するニーズです。「Do(行動)ニーズ」は、人々が何かを行いたいと思う状態や行動に関するニーズです。「Have(所有)ニーズ」は、人々が何かを所有したいと思う状態や物に関するニーズです。
このフレームワークを用いることで、顧客のニーズをより具体的かつ多角的に理解することができ、それぞれのニーズに対してどのような価値を提供できるかを考える戦略立案が可能になります。
顧客志向を実現するための組織的アプローチ
情報共有と組織的な取り組み
顧客志向を成功させるためには、個人レベルの取り組みだけでなく、組織全体での情報共有と連携が不可欠です。顧客の情報を社内で共有し、顧客からのフィードバックを基にして施策を検討することが重要です。
カスタマーセントリックを成功させる方法として、顧客サポートチームの教育を行い、社内全体に情報を共有し、顧客からフィードバックをもらうことが挙げられます。また、従業員の労働環境を整え、顧客に合わせて対応し、顧客データを活用することも重要な要素です。
継続的な顧客理解の深化
顧客志向を実現していくためには、顧客と共有する時間を増やし、顧客のことを深く理解することが求められます。顧客のことを、顧客自身よりもより深く知ることが必要であり、顕在化しているニーズだけではなく、潜在的なニーズまで理解することが重要です。
このプロセスでは、定量調査と定性調査を適切に使い分けることが効果的です。新商品の発売前には顧客全体の反応を把握するため定量調査を行い、新商品の開発初期段階では顧客の潜在的なニーズを探るために定性調査を行うといった戦略的な使い分けが求められます。
顧客ロイヤリティの測定と改善
顧客志向の成果を測定するためには、適切な指標の設定が重要です。顧客ロイヤリティには行動ロイヤリティと心理ロイヤリティがあり、心理ロイヤリティは製品やサービスに対する感情のことで愛着や信頼を持っているかどうかを指し、行動ロイヤリティは実際に購買したり人に勧めたりすることを指します。
顧客満足度だけを鵜呑みにすると購買につながらない可能性があるため、顧客の実際の行動を観察し、適切な対策を講じることが重要です。顧客は購入直後には自分の選択への期待や高揚感から顧客満足度を高くつける傾向があり、建前を回答することも多いため、満足度が高くても購買に結びついていない場合は、顧客の実際の行動を観測して原因を見つけ対策していく必要があります。
実践で活かすJTBDフレームワーク
Jobs-to-Be-Doneの基本概念
相手の変化をつくる仕事を実践するために、Jobs-to-Be-Done(JTBD)フレームワークが非常に有効です。JTBDとは、顧客がなぜ、どのように製品を購入し、ワークフローに採用するのかを理解するために使用する理論モデルです。
JTBDでは、ユーザーがプロダクトを利用するときに、必ず「成し遂げたい目的」があるとして、その目的を「ジョブ」と位置付けて、ニーズを探ります。核となる考え方は、顧客は特定の仕事をするためにあなたの製品を「雇う」ということです。
JTBDの原則には、顧客中心のアプローチ、製品ではなく仕事への焦点、機能的・感情的・社会的次元の考慮、成果主導のイノベーションがあります。これらの原則に基づいて、顧客データを研究し、製品の機能よりも顧客のニーズを優先することが重要です。
効果的なJTBDの書き方
JTBDを効果的に活用するためには、適切な記述方法を理解することが重要です。良いJTBDの例として、「常に歯を健康に保つ」があります。これは既存ソリューションには引っ張られておらず、人々が本当に必要としているものに直結しており、時間経過に影響しない一貫したものです。
一方、悪い例として「毎朝、歯磨きを楽にしてくれる」があります。これは既存のソリューションである「歯ブラシ」に引っ張られており、ソリューション依存しないという原則に反しています。
JTBDで見つけるべきは破壊的なイノベーションです。既存のソリューションに紐付いていると、破壊的な新製品やサービスには繋がりません。より破壊的なイノベーションに繋がる課題を見つけるためには、表面的な行動ではなく、その背後にある本質的な目的を理解することが重要です。
相手の現実に寄り添う実践的アプローチ
エンパシーマップの活用
相手の現実に寄り添った仕事をするためには、エンパシーマップの作成が効果的です。エンパシーマップは、UXデザイナーがユーザーに共感するためのツールの一つであり、インタビューによって特定のタイプのユーザーについて学んだことを説明する、わかりやすいチャートです。
エンパシーマップは、SEE(見ているもの)、HEAR(聞いていること)、THINK and FEEL(考えていることと感じていること)、DO(行動)という要素で構成されます。これらの要素を詳細に分析することで、顧客の立場に立った深い理解を得ることができます。
エンパシーマップの作成プロセスでは、まずユーザーのプロファイルを作成し、シナリオを想定し、6項目を書き出し、ビジュアル図を作成します。このプロセスを通じて、顧客が求めている具体的なニーズやどのような行動をとっているのかを設定することができます。
継続的な検証と改善
相手の変化をつくる仕事を継続するためには、定期的な検証と改善が不可欠です。顧客志向を実現していくために重要なポイントとして、顧客のことを深く理解し、顧客からのフィードバックを基にして施策を検討し、顧客の情報を社内で共有することが挙げられます。
また、潜在的なニーズを見逃してしまわないようにすることも重要です。顧客の顕在化しているニーズだけをヒアリングしていては、潜在的なニーズはなかなか見つかりません。顧客の「声」だけではなく、「行動」や「結果」にフォーカスすることが重要です。
同じような意見であっても、その背景には異なる思いがあるかもしれません。正解・不正解を見つけるのではなく、行動をファクトとし、多角的に立体的に捉えながら、潜在的なニーズを見つけ出すことが重要です。
まとめ:静かに成果を積み上げる仕事術
現代のビジネス環境において成果を上げるためには、自分の正しさや頑張りではなく、相手の変化をつくることに価値を見出すことが重要です。顧客志向のアプローチを身につけることで、表面的な要求だけでなく、顧客の深層にある真のニーズを理解し、それに応える価値を提供できるようになります。
相手の望みを探ることは、単なる調査活動ではなく、戦略的思考です。潜在ニーズの発見、行動観察、深層インタビュー、JTBDフレームワークの活用など、具体的な手法を習得し実践することで、競合他社との差別化を図り、持続的な成果を生み出すことができます。
今後のキャリアにおいて、デジタル化や業界変化に対応するためにも、顧客志向の考え方とスキルを身につけることは極めて重要です。毎日「相手の困ってる」「叶えたい」に向き合い、見てる方向がズレていないかを問い直す習慣を持つことで、静かに成果を積み上げる仕事術を確立できるでしょう。
参考情報
- 顧客志向とは?メリットや事例、実現するための5つのポイントを解説 – https://tayori.com/blog/customer-orientation/
- カスタマーセントリックとは?重要性や成功させる7つの方法 – https://www.switchitmaker2.com/management/customer-centric/
- アンメットニーズ(気づきにくいインサイト)を発見するための発想法 – https://note.com/takebonstudio/n/n46905ab2f60b

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