経営という世界は、単なる戦略やリーダーシップのスキルだけでは到底語り尽くせない複雑な領域です。それはまるで総合格闘技のように、多様なスキルと精神力、そして自己との対話力が求められる総合的な営みなのです。今回は、変化の激しい現代ビジネス環境で成功する経営者に必要な「総合力」について深掘りしていきます。
経営が「総合格闘技」と呼ばれる真の理由
経営を「総合格闘技」と表現することがあります。これは単なる比喩ではなく、実際の経営現場を的確に言い表した表現です。
総合格闘技では、打つ・蹴る・投げる・極めるなど、あらゆる技術を駆使して勝利を目指します。選手は一つの技術だけに頼ることはできず、多様な技を身につけ、状況に応じて適切に使い分ける必要があります。
これはまさに経営の世界と同じです。経営者も同様に、財務、マーケティング、人材育成、戦略立案など、多様な分野での知識と技術を持ち合わせる必要があります。そして何より、これらの要素を状況に応じて統合し、最適な判断を下すことが求められるのです。
さらに、総合格闘技と同様に、経営においても予測不可能な事態に臨機応変に対応する能力が不可欠です。計画通りに進まないことがほとんどであり、突然の市場変化や競合の動きに対して、柔軟かつ迅速に反応できる「総合力」が試されます。
内省と自己対話:経営者の成長エンジン
経営者として壁にぶつかったとき、多くの人は外部に解決策を求めがちです。しかし、真に成長する経営者は、まず自己との対話、すなわち「内省」を重視します。
内省とは、自己を客観的かつ批判的に振り返る行為です。英語では「リフレクション」と呼ばれ、過去の経験から学び、未来に活かすことを目的としています。特に経営者にとって、この内省の習慣は非常に価値があります。
自己対話を効果的に行うには、秋山ジョー賢司氏が提唱する「理想のメンター」との対話法が参考になります。これは自分の中に理想の自分をメンターとして置き、現在の自分と対話するという方法です。具体的には以下の4つのステップで進めます:
- 共感する:不安から安心へ
- 価値観を示す:安心から自信へ
- 叱咤激励する:自信から勇気へ
- 「本当の自分」へと導く:自信から勇気へ
この自己対話を通じて、不安は覚悟に変わり、自尊心が育まれます。そして、この自尊心こそが、困難な経営判断を支える土台となるのです。
適切な内省を習慣化することで、経営者は以下のような恩恵を受けることができます:
- 自分の価値観を明確にし、自律的な判断ができるようになる
- 現在の課題の本質がより明確になり、効果的な解決策を見出せる
- 過去の成功体験に捉われず、新しい環境に適応できる
- 自身の経験やノウハウを言語化でき、部下への指導が効果的になる
論理と精神の統合:経営者の真の強み
経営における成功の鍵は、論理的思考と精神的側面を分離せず、うまく統合することにあります。藤田耕司氏の著書『リーダーのための経営心理学』によれば、人を動かすコミュニケーションは「信頼(誰が言うか)」と「対話(何を言うか)」の2軸で整理されます。
信頼は「人間的信頼」と「能力的信頼」に分けられ、対話は「情緒的対話」と「論理的対話」に分けられます。これらの要素をバランスよく統合できたリーダーこそが、組織を効果的に導くことができるのです。
人が本当に動くときは、感情と論理の両方が噛み合った瞬間です。藤田氏は以下のように述べています:
「人は、感情だけでも論理だけでも動きません。嬉しい・悔しい・ワクワクするといった感情の揺らぎと、なぜやるのか・どう進めるのかという筋道の明確さ──この両者が噛み合ったとき、人の内面に火が灯ります」
つまり、経営者の役割は「チームに"心の快"を与える共感の力を持ち、同時に、"脳の納得"を生む論理の設計図を描くこと」だと言えるでしょう。
統合思考において重要なのは、経済的価値だけでなく、企業が利用するさまざまな「資本」と「企業とステークホルダーとの関係性」を考慮することです。企業価値は、貨幣換算できないものを含む多様な資本が組み合わさって創造されるものだという認識が必要です。
器を広げる:経営者の自己成長法
優れた経営者になるためには、自らの「器」を広げることが不可欠です。器とは、知識や経験だけでなく、精神的な許容力や視野の広さも含みます。
オーセンティック・リーダーシップの研究によれば、優れたリーダーには以下の4つの特徴があるとされています:
- 自己認識:自分の長所や短所を深く理解し、行動が周囲に与える影響を認識する
- 透明性:自分の考えや感情を率直に表現し、誠実なコミュニケーションで信頼関係を築く
- バランスの取れた意思決定:感情や個人的偏見に左右されず、公正な判断を下す
- 内面化された倫理観:一貫した道徳的価値観に基づいて行動する
特に「自己認識」は、器を広げるための出発点と言えるでしょう。自分を知ることなしに、自分の限界を超えることはできません。
器を広げるための具体的な実践法としては以下のようなものがあります:
- 定期的な内省の時間を設ける(事実と感情を峻別し、過去と現在それぞれの感情を振り返る)
- 自らの経験を「経験学習モデル」で整理する(具体的経験→省察的観察→抽象的概念化→能動的実験)
- 他者との対話を通じて多様な視点を取り入れる
- ChatGPTなどのAIを活用して、より客観的な視点で自己対話を行う
経営者のストレスマネジメントと精神的強さ
経営者は、通常の従業員よりも高いストレスにさらされています。「役職の上がり方と精神的ストレスのかかり方は、間違いなく正比例する」と言われており、特に変化の激しい現代においては、その傾向がさらに強まっています。
禅を活かした経営コンサルティングを行う島津清彦氏によれば、経営者のストレスマネジメントには「自分に気づく」という禅の智慧が役立つといいます。特に「いま、ここ、自分」に集中することの重要性を説いています。
優れた経営者は、「どんな日であっても、必ずどこかにいいことがある」と認識し、自分を「灯り」として、当たり前のことを当たり前にやることで精神的な強さを保っています。これは単に前向きな姿勢を持つということではなく、現実をありのままに受け入れ、そこから学び、成長していく姿勢を意味します。
実際に、自己対話を通じて内面と向き合い、以下のような問いかけを自分に投げかけることで、精神的な強さを育むことができます:
- あなたは自分との約束を守っていますか?
- ミスが発生したときに出る言葉はどちら?「誰の責任だ?」または「このミスから何を学ぶか?」
- あなたは良き教育者ですか?
- あなたが社長でないとしたら、社員はあなたにどのように接すると思いますか?
- あなたが幸せにしたい人は誰ですか?自分、それとも他の人?
このような問いかけを通じて自己認識を深め、リーダーシップの質を高めることができるのです。
変化の時代に勝ち抜く経営者の思考法
現代のビジネス環境では、変化のスピードが加速しています。特にデジタル化の波が押し寄せ、従来型のリーダーシップでは十分に機能しなくなっている組織も少なくありません。
このような時代に勝ち抜くためには、イノベーションを推進する思考法が不可欠です。それは「既存モデルからいかに自由になるか」を支援する思考法であり、代表的なものに「水平思考法」があります。
また、競争と協調を統合させる「コーペティション」という戦略思考も注目されています。これは競合企業同士が協調することでwin-winの関係を構築する考え方ですが、同時にリスクも存在します。
内省を通じて得られる気づきが実際の行動変容につながるためには、コルブの経験学習モデルを意識することが有効です:
- 具体的経験(実際にやってみる)
- 省察的観察(振り返って分析する)
- 持論化(自分なりの法則・考えを言語化する)
- 実践的試み(次の場面で応用して試す)
このサイクルを繰り返すことで、知識は現場で使える知恵に変わり、経営者としての判断力と実行力が高まります。
経営という総合格闘技で勝利するために
経営とは、まさに「論理と精神を分離せず上手く統合し、自らの器を広げられた人間が勝利する総合格闘技」です。単なる戦略やリーダーシップのスキルだけでなく、自己対話を通じた内省力、論理と感情のバランス、そして継続的な学習姿勢が求められます。
成功する経営者になるためには、以下の点を心がけましょう:
- 定期的な内省の時間を設け、自己の価値観や行動パターンを認識する
- 論理的思考と感情的側面の両方を大切にし、バランスのとれた判断を心がける
- チームメンバーとの対話を通じて、多様な視点を取り入れる
- 失敗や成功の経験から積極的に学び、次の行動に活かす
- 自分自身の「器」を広げるために、常に新しい知識や経験を求め続ける
経営という総合格闘技の世界で真に勝利するのは、テクニックだけを磨く者ではなく、自らの内面と向き合い、論理と精神を統合し、絶えず成長し続ける者なのです。
変化の激しい現代ビジネス環境において、内省と自己対話はもはや「あったほうがいい」スキルではなく「必須」のスキルとなっています。自分自身との対話を通じて自らの器を広げ、より優れた経営者、そしてより充実した人生を実現していきましょう。
参考情報サイト:
- 千代目 on X: "経営は戦略やリーダーシップだけでは語れない世界 …" – https://twitter.com/tTY466szSET2h5q/status/1920430028841455955
- 『理想の"メンター"との対話法』~経営者のマインドセットの秘密 … – https://joe-akiyama.com/cst_mailmag/mailmag-_336/
- 『リーダーのための経営心理学』「人を動かす」とは – https://note.com/chiri_chiriri/n/n4b2314b9d757

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