インセンティブ制度とKPI設定は営業戦略の要ですが、単純な数値目標に基づく設計は逆効果になることがあります。架電数や商談数などの「量」を重視しすぎると、最終的な売上や利益といった本質的な成果に結びつかない活動が増え、人件費率の上昇を招くリスクがあります。本レポートでは、効果的なインセンティブ設計の方法と、相手企業の視点も考慮した営業活動の重要性について解説します。
インセンティブ設計の基本と落とし穴
インセンティブ制度は営業チームの意欲を高め、業績向上につながるものであるべきですが、その設計を誤ると様々な問題が生じます。
インセンティブ制度が機能しなくなる主な要因
インセンティブ制度の設計には慎重なアプローチが必要です。特に以下の失敗パターンに注意が必要です。
1. インセンティブ不感症
「報奨金は、最初にもらったときはとても嬉しいものですが、回数を重ねるにつれて「慣れ」が生まれ、ありがたみを感じなくなります」。これはいわゆる「インセンティブ不感症」と呼ばれる現象で、同じ報酬を継続的に提供することで、その効果が薄れていく問題です。
ある企業では「数年前に営業担当にインセンティブを付けたんですが、当初は良かったんですが、今では営業担当の半数以上にインセンティブが付くようになってしまって、結局機能していないんです」という事例も報告されています。
2. 量だけを追求する弊害
営業活動において「量」の追求は重要ですが、「量を追求する際には、質を犠牲にしてはなりません。例えば、ある営業チームが、数の追求によって無関係な見込み客に時間を費やしすぎた結果、成約率が低下しました」。
このような状況は、架電数や商談数などの「量」に対してインセンティブを設計した場合に特に起こりやすい問題です。
インセンティブ設計の正しいアプローチ
適切なインセンティブ設計には、明確な5つのステップが必要です:
- 導入目的を明確にする: 「何のためにインセンティブを設けるのか目的を明確にしましょう。目的をはっきりさせることで、どのようなインセンティブが効果的か考えやすくなります」
- 制度の対象者を決める: 誰がインセンティブを受け取るべきか明確にします
- 付与条件を設定する: インセンティブを付与する条件や評価基準を決めます
- インセンティブ(報酬)の内容を決める: 金銭的報酬だけでなく、非金銭的インセンティブも検討します
- 運用体制を整える: インセンティブ制度の運用についてあらかじめ決めておきます
適切に設計されたインセンティブは「社員のモチベーションを高め、一人一人に正当な評価を下すことができる優秀な人事評価制度」となりますが、「評価基準を決定することがとても難しい」という課題もあります。
KPI設定と営業効率の関係
KPIの設定は営業活動の方向性を決める重要な要素ですが、単なる活動量指標だけではなく、成果に結びつく質的指標とのバランスが重要です。
インサイドセールスのKPI設計例
インサイドセールスでは以下のようなKPIが一般的に設定されています:
- 架電数・率: マーケティングが生み出したリードに対しての架電の割合
- 通電数・率: 架電に対して実際に電話がつながった割合
- 有効架電数・率: 「架電した数に対して有効な(商談につながりそうな会話ができた)電話の数とその割合」
- 商談獲得数・率: 「メールでの商談打診数や架電での商談打診数などのアクション数」に対する商談獲得の割合
しかし、これらの指標だけに基づいてインセンティブを設計すると、問題が生じる可能性があります。
KPIの因数分解の重要性
KPIを設定する際には、最終的な売上にどのように貢献するかを明確にするため、因数分解の視点が重要です。
「① 売上を因数分解すると「顧客単価×顧客数」になる。② 顧客数をさらに因数分解すると「成約率×商談数」になる。③ 商談数をさらに因数分解すると「アポ率×テレアポ数」になる」
この因数分解により、架電数や商談数だけでなく、成約率や顧客単価といった質的側面も考慮したKPI設計が可能になります。
人件費率への影響
インセンティブ設計を誤ると、営業活動の量は増えるものの契約獲得率が低下し、結果として人件費率が上昇するという問題が生じます。
人件費率の適正値
「一般的に人件費率13%前後が平均値とされていて、給与の1.5~2倍程度が目安といわれています。売上・粗利に対する人件費の割合も業種や会社規模によって変わります」
業種によって異なりますが、「一般的な飲食店の人件費率は売上高の30~40%が目安ですが、サービス業では50%を超えることもあります」。ただし、この比率は業界によって大きく異なります。
機会コストの観点
営業活動において、「機会コスト(オポチュニティーコスト)とは、ある決定を下した場合に、他のもっとも有利な選択肢から得られたであろう利益のこと」を考慮することも重要です。
架電や商談に時間を費やすことで、より有望な見込み客へのアプローチ機会を失うという機会コストが発生する可能性があります。このバランスを考慮せずに単純に架電数や商談数を増やすインセンティブを設計すると、営業活動の効率が低下し、結果として人件費率の上昇につながります。
相手企業の視点:ビジネス相手のコスト意識
営業活動、特に架電や商談は、相手企業にとってもコストが発生することを認識することが重要です。
相手企業にとっての機会コスト
架電を受けたり商談に対応したりする際、相手企業は時間や人的リソースを割いています。これは相手にとっての機会コストを意味し、より価値のある活動に時間を使えない損失となります。
特に「有効架電数・率が少なければ、「ターゲットのスコアリング(見込み顧客の購買ステージを数値化したもの)」「架電する時間帯」「架電の会話内容」を見直す必要があります」という点は、相手企業への配慮という観点からも重要です。
質を重視した営業アプローチの価値
「量を追求する際には、質を犠牲にしてはなりません」という原則は、相手企業に対する尊重にもつながります。不適切なターゲティングによる無駄な架電や商談は、相手企業のリソースを無駄に消費するだけでなく、自社の評判にも悪影響を及ぼす可能性があります。
バランスの取れたインセンティブとKPI設計
効果的なインセンティブとKPI設計には、量と質のバランスが不可欠です。
段階的なコミッション制度の有効性
「段階的なコミッション制度は、営業担当に常に一定レベルを上回る売上を目指してもらえる制度です」。この制度では、売上高に応じてコミッション率が上昇するため、単なる量ではなく、質の向上にも焦点を当てることができます。
プロセスと結果のバランス
インセンティブ設計において、プロセス(架電数、商談数など)と結果(契約獲得、売上など)のバランスを取ることが重要です。「チーム営業の枠組みが出来るならば、魅力的なインセンティブを用意しなくてもチームとしての生産性が向上し、業績も向上していく」という視点も考慮する価値があります。
結論:効果的な営業戦略のために
インセンティブ設計とKPI管理は、単に数値を追うだけでなく、営業活動の質と効率も考慮したバランスの取れたアプローチが必要です。架電数や商談数だけを増やすインセンティブは、契約獲得率の低下や人件費率の上昇を招く恐れがあります。
さらに、架電や商談は相手企業のリソースを消費するという認識を持ち、互いにとって価値のある交流を心がけることが重要です。量と質のバランスを取り、プロセスと結果の両方を評価するインセンティブ設計によって、持続可能な営業成果を実現することができるでしょう。
最終的に効果的な営業戦略は、「平凡なチームで非凡な業績を継続的に達成する」ための仕組みを構築することにあります。これにはチーム全体の生産性向上と、個々の営業パフォーマンスを適切に評価するバランスの取れたアプローチが不可欠です。
参考資料
インセンティブ設計の基本方法:「インセンティブの設計方法は?5ステップでできる制度の作り方」 – デジコ
https://digi-co.net/blog/incentive-howtodesign/
報奨金制度の失敗パターン:「経営幹部が注意すべき、部下の"インセンティブへの慣れ"とは」 – HRプロ
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=3749
効果的なコミッション制度:「コミッション制度とは?その種類や設計の方法について」 – Xactly
https://xactly.co.jp/blog/incentive/sales-commission-structures

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