逆境に立たされたとき、それを乗り越えることで人は大きく成長できます。スポーツ選手の怪我は挫折の代表例ですが、その危機を転機に変えた経験は貴重な財産となります。右肩の故障から左投げへの転向を果たし、インターハイという大舞台に立った経験を持つ人がいます。このような挑戦が教えてくれる「成長マインドセット」の力と、人生の壁を乗り越える知恵についてご紹介します。
成長マインドセットが挫折を成長に変える
「挫折こそが成長のチャンス」という言葉には、深い真実が隠れています。心理学では「成長マインドセット」という考え方があり、これは失敗や困難を成長の機会と捉える姿勢のことを指します。スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエック博士が提唱したこの概念は、人生の様々な場面で力を発揮します。
成長マインドセットを持つ人は、失敗を恐れずに挑戦し続けます。彼らにとって失敗は「自分はダメだ」というレッテルではなく、「まだできないだけ」という一時的な状態に過ぎません。このマインドセットを持つことで、挫折からの回復力も高まります。
反対に「固定マインドセット」の人は、失敗を避けようとします。なぜなら失敗が自分の能力の限界を示すと考えるからです。「やっぱり自分はダメだ」と挫折感を深め、チャレンジすることをやめてしまいます。
ビジネスパーソンにとって特に重要なのは、このマインドセットの違いが将来の成長可能性に大きく影響することです。日々の業務で困難に直面したとき、それを避けるか、それとも成長の機会と捉えるか。その選択が、長い目で見たキャリアの行方を左右するのです。
スポーツにおける挫折とその乗り越え方
スポーツ選手にとって怪我は最大の敵です。特に右肩の故障は、野球やテニスなどの投げる・打つ動作を主とするスポーツでは致命的になりかねません。
全スポーツ傷害の約25%が手や手首に関するもので、競技中のひねりや衝撃で発生することが多いとされています。医師からの「競技中止」の宣告は、選手として最も厳しい現実です。
しかし、医学的な「ドクターストップ」を乗り越えた選手たちの事例も少なくありません。注目すべきは、右利きから左利きへの転向という発想の転換です。野球界では川上哲治氏や張本勲氏などの名選手が幼少期のケガをきっかけに左利きとなり、それが後の名選手への道を開いたというエピソードがあります。
最近では秋山浩汰さんという選手が、中学時代の肘の剥離骨折をきっかけに高校2年生の時に左投げに転向した事例も報告されています。また、ハンドボール選手が右肩を痛めた後、左投げに転向して9か月後にはコートに戻り、最終的にはインターハイ出場を果たした例もあります。
これらの例は、固定観念を捨てて柔軟に状況に適応することの重要性を教えてくれます。医師の診断は尊重すべきですが、その上で「別の道」を模索する発想があれば、新たな可能性が開けるかもしれません。
右から左への転向:実践的アプローチ
右利きから左利きへの転向は、決して簡単ではありません。しかし、適切なステップを踏めば不可能ではありません。実際に、重度の肩の怪我で投球ができなくなった選手が左投げに転向し、成功した事例は少なくないのです。
左投げへの転向を成功させるための重要なステップは次のとおりです:
1. 覚悟を決める
最も重要なのは覚悟です。今までずっと左投げをやってきた選手に追いつくには、並々ならぬ決意が必要です。「本気で左投げになってやる!」という強い意志なしには成功しません。
2. 正しいフォームを構築する
いきなり投げ込むのは危険です。まずは鏡を見ながら正しいフォームを身につけることが重要です。間違ったフォームで無理に投げると、今度は左肩を痛める危険性があります。
3. 筋力トレーニングを行う
利き腕と比べて非利き腕は筋力が弱いため、三角筋や上腕三頭筋、上腕二頭筋などの筋肉を強化する必要があります。徐々にウェイトを増やしながら、無理のないトレーニングを続けましょう。
4. 段階的にキャッチボールを始める
フォームと筋力が整ってきたら、短い距離からキャッチボールを始めます。いきなり全力投球はせず、フォームを意識しながら徐々に距離を伸ばしていくことが大切です。
テニス選手の場合も同様のプロセスが必要で、「21年の右のプレー経験が頭にあるため、いきなり左に求めすぎると怪我のリスクが高まる」という指摘もあります。
転向には数年単位の時間が必要かもしれませんが、諦めずに取り組めば、元の利き手以上の成果を上げることも可能なのです。
心の回復力:レジリエンスの育み方
「レジリエンス」という言葉をご存知でしょうか?これは「外からの力にうまく適応し再び元に戻れる力」を意味し、危機的状況や困難な問題に対する適応力や回復力のことです。
ビジネスパーソンにとって、このレジリエンスは特に重要です。厚生労働省の調査によると、仕事で強いストレスを感じている割合は半数以上に上ります。このストレス社会で心身の健康を保つためにも、レジリエンスを高めることは必要不可欠です。
レジリエンスの高い人には以下のような特徴があります:
・柔軟な思考力を持っている
状況を全体的に捉え、「他に方法があるかもしれない」と前向きに考えます。
・失敗しても挑戦を続けられる
失敗を課題と捉え、「どうすれば次は乗り越えられるか」とポジティブに考えます。
・気持ちの切り替えが早い
落ち込んでも、すぐに立ち直り、次に進むパワーに変える習慣があります。
・周囲と信頼関係が築けている
周囲の人を信頼し、困難な状況でも協力を得ながら前進します。
このレジリエンスは、意識的に育むことができます。挫折を経験したとき、それを学びの機会と捉え、自分の態度を選択できると知ること、そして周囲の支援を受け入れることが大切です。
挫折から生まれる人格的成長:PTGの視点
挫折や困難を乗り越えた後に起こる変化について、心理学では「PTG(Post-Traumatic Growth)」という概念があります。これは「心的外傷後成長」と訳され、トラウマ的な体験を超えて人格的変容と言えるような成長を遂げることを指します。
PTGを起こすための条件として、次の3つが挙げられています:
1. 人生全体として、起きた出来事の意味を理解し直す
困難な体験を人生全体の文脈の中で捉え直すことで、新たな意味を見出します。
2. 逆境に対して、自分で態度を選択できることを知る
「何もできない」と諦めるのではなく、自分には選択肢があると認識することが重要です。
3. 人からの支援が不可欠
一人で抱え込まず、周囲のサポートを受け入れることが成長につながります。
アスリートが怪我から復帰する過程は、まさにこのPTGの典型例といえるでしょう。右肩の故障から左投げに転向して成功した例は、単に競技を続けられただけでなく、「困難を乗り越える力」という人格的成長をもたらしたと考えられます。
困難を乗り越えた成功者たちの共通点
歴史上の偉人や成功者たちも、多くの挫折を乗り越えてきました。アルベルト・アインシュタイン、マハトマ・ガンジー、手塚治虫など、様々な分野の偉人たちは、逆境に打ち勝つための独自の思考法を持っていました。
成功者に共通する視点として、「逆境の中でこそ本当の才能が輝く」という考え方があります。例えば、ディズニーも多くの失敗を経験しながら、最終的に世界的な娯楽企業を築き上げました。
これらの例が示すように、壁に直面したとき、それを避けるのではなく、乗り越えることを選んだ人たちが歴史に名を残しているのです。彼らの共通点は、困難を恐れず、それを成長の機会と捉える「成長マインドセット」を持っていたことでしょう。
人生のターニングポイントを活かす
スポーツでの挫折体験は、その後の人生にも大きな影響を与えます。右肩の故障から左投げへの転向を経験した方にとって、それは単なるスポーツ上の出来事ではなく、人生のターニングポイントとなっています。
「壁は乗り越えるためにある」という信念は、ビジネスや日常生活でも強い支えになります。マーケティング部門で新しい戦略に挑戦するとき、デジタル化の波に乗り遅れないよう努力するとき、そしてキャリアの転機に立ったときにも、この経験が活きてくるのです。
デジタルマーケティングの台頭により苦戦を強いられている現在こそ、かつての「左投げへの転向」のように、柔軟な発想で新たなスキルを身につける好機かもしれません。挫折や困難は避けられないものですが、それを乗り越えることで得られる成長があります。
人生の様々な場面で壁にぶつかったとき、過去の挫折と成功の経験を思い出してください。あなたはすでに困難を乗り越えた経験を持っているのです。その力を信じて、新たな挑戦に向かって一歩を踏み出しましょう。
【参考情報】
- マインドセット:やればできるの研究(キャロル・ドゥエック著) https://books.rakuten.co.jp/rb/13517485/
- エンジニアとしての成長マインドセット(envader.plus) https://envader.plus/article/420
- レジリエンス:不確実な時代を生き抜く力(Sony Acceleration Platform) https://www.sony.com/ja/SonyInfo/News/Press/info/202410/001.html

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