モヤモヤした気持ちやイライラが長時間続くと、仕事の効率が下がるだけでなく、周囲の人間関係にも悪影響を及ぼすことがあります。そんなネガティブな感情を上手にコントロールする方法として、「感情ラベリング」というテクニックが注目されています。この記事では、感情ラベリングの効果とその実践方法について詳しくご紹介します。
感情ラベリングとは:モヤモヤに名前をつける技術
感情ラベリングとは、自分の感情に名前をつけて言語化する行為のことです。例えば「なんだかモヤモヤする」という漠然とした状態から一歩進んで、「これは焦りだ」「悔しさを感じている」「不安と怒りが入り混じっている」などと具体的に言葉で表現することを指します。
東洋経済オンラインの記事によれば、かつて感情は理性による論理的な思考を妨げるものであり、避けたり抑えたりすべきものと考えられていました。しかし現代の心理学研究では、ネガティブな感情を言葉で表現することは、むしろその感情を鎮めるのに役立つことが明らかになっています。
科学が証明する感情ラベリングの効果
感情ラベリングの効果は科学的に証明されています。研究によれば、感情ラベリングに取り組むと、脳内で以下のような変化が起こります:
脳の活動変化
感情のラベリングを行うと、感情的刺激を含む他のタスクと比較して、腹外側前頭前皮質(vlPFC)内の脳活動が高まり、扁桃体の活動が低下することが分かっています。扁桃体は恐怖や不安、怒りなどのネガティブな感情を処理する脳の部位であり、その活動が低下することで感情の高ぶりが抑えられるのです。
UCLAの研究者が実施したfMRI(機能的磁気共鳴画像)研究では、感情ラベリングが他の形式の符号化と比較して、扁桃体や他の辺縁系領域の反応を弱めることが示されました。
生理的反応の変化
感情ラベリングの効果は主観的な感情レベルだけでなく、身体の生理的反応にも表れます。
自律神経反応は様々な感情に特徴的なものですが、感情のラベリングを実行した後に減少することがあります。例えば、怒りのレベルを定量化すると、心拍数と心拍出量の減少を経験することが報告されています。
なぜ感情ラベリングは効果的なのか?
感情ラベリングがなぜ効果的なのか、そのメカニズムについて考えてみましょう。
1. 感情の客体化(対象化)
感情ラベリングの重要な効果のひとつは、感情を「客体化(対象化)」できることです。これは感情に囚われた状態(主体が活発な状態)から抜け出し、自分の感情を外から眺める視点を得ることを意味します。
冷静になるために「虚数的な考え方」を提唱する記事では、客体化の効果として以下が挙げられています:
- 論理的でないものも含め、多様な視点から物事を見られるようになる
- 一つの考えにハマりすぎていても抜け出せる
- 怒っていた自分自身から離れて冷静になれる
2. 不確実性の低減
人々は一般的に曖昧さを回避する傾向があります。感情の複雑さはしばしば不快な感情の不確実性を生み出しますが、感情ラベリングはこの不確実性を減少させる効果があると考えられています。
3. 言語化のメリット
北海道美瑛町の資料によれば、言語化には以下のようなメリットがあります:
- 悩みの可視化(見える化。取り扱いを可能にする)
- 整理される(分析。自己解決が可能になる)
- 外化(頭の中の考えを外に出す。脳内の棚卸し)
- ガス抜き(思っていることをそのまま話す。心が軽くなる)
- 共有可能(コミュニケーション。共感による癒やし)
- 行動化(行動が促される)
感情ラベリングの実践方法
では、具体的にどのように感情ラベリングを実践すれば良いのでしょうか。以下に段階的なアプローチをご紹介します。
ステップ1:感情の認知
まず自分の感情を認知することから始めましょう。心理学者のラッセルは、感情は「快-不快」次元と「覚醒度合い」の二次元座標で認知できると主張しています。
感情を知覚したとき:
- 心の感じ方としての「快-不快」(例:モヤモヤする不快感あり)
- 身体の感じ方としての「覚醒の高低」(例:気を張って注意を向けている)
に視点を合わせて観察します。
ステップ2:感情の言語化
感情を認知したら、その感情に見合う言葉を選択します。以下の二つの方法が効果的です。
1. プルチックの感情の輪を活用する
感情は単色的なシンプルなものではなく、複数の感情が混ざり合ったグラデーションだと言われています。プルチックの感情の輪を活用すると、例えば「怒り」の場合、以下のような感情の違いを区別できます:
- 感情の大きさ:激怒 > 怒り > 苛立ち
- 怒りの混合感情:軽蔑(嫌悪+怒り)、攻撃(怒り+期待)、自尊心(怒り+喜び)、悲憤(怒り+悲しみ)など
2. オノマトペと体感の分析
日本語には感覚や感情を表現するオノマトペ(擬態語)がたくさんあります。「怒り」を例とすると:
- 頭に血がのぼる
- 目くじらを立てる
- 腹に据えかねる、はらわたが煮えくり返る
などの表現から、しっくりくるものを選んだり、「一気に頭が熱くなって、どくどく脈打つ感覚」など、感情の体感を言葉にしたりすることも有効です。
ビジネスパーソンのための感情ラベリング実践法
特に忙しいビジネスパーソンにとって、感情ラベリングは仕事のストレスマネジメントに役立ちます。以下に具体的な実践方法をご紹介します。
1. ジャーナリングの活用
ジャーナリングとは、自分の考えや感情を書き出すことです。感情ラベリングを取り入れたジャーナリングの方法は以下の通りです:
- 今感じているモヤモヤ、イライラ、悩みをありのままに書き出す(5分間)
- 書き出したものに感情ラベリングを行う
- 気づきや対処法など感じたことを自由に書いてみる(5分間)
2. 「送らないメール」テクニック
映画製作会社に勤める最高業務執行責任者のカレン・Sさんは、腹が立った相手にEメールで自分の気持ちを正直に書くが、そのメールは送信せずに保存するというストレス対処法を見つけました。この方法を行うと怒りが消え、仕事に集中できるようになったそうです。
3. 職場での活用法
会議前の準備時間や昼休み、帰宅途中の電車内など、隙間時間を活用して感情ラベリングを行いましょう。特に重要な交渉や難しい会話の前には、自分の感情状態を把握しておくことで、より冷静な判断が可能になります。
感情ラベリングがもたらす長期的効果
感情ラベリングは即効性があるだけでなく、長期的な効果も期待できます。ある研究では、感情ラベリング中の神経活動が、3か月後の心理的・身体的幸福度の変化を予測できることが示されています。
また、語彙力を鍛えることで感情ラベリングの効果をさらに高められることも分かっています。感情のラベリングで大切なのは、語彙にバリエーションを持たせることです。例えば「ムカつく」というネガティブ感情に対して、様々な表現のバリエーションを持つことで、より正確に自分の感情を捉えることができます。
結論:感情を味方につけるために
ネガティブな感情に言葉でラベルを貼らないと、もやもややイライラが「塊」のまま心に居座り続けます。しかし、それらの感情を言語化し、具体的な感情タグを貼り付けることで、理性が働き、感情を客体化して眺められるようになり、衝動的な反応を抑えることができます。
感情ラベリングは簡単に始められる心理テクニックでありながら、科学的にもその効果が実証されています。日々の生活やビジネスシーンでぜひ取り入れて、感情をより良くコントロールし、心の平穏を保ちましょう。
参考情報
東洋経済オンライン – 「怒りを鎮める「感情ラベリング」のものすごい効果」
https://toyokeizai.net/articles/-/673771
Hello, Coaching! – 「感情を言葉にすることの効果とは(要約)」
https://coach.co.jp/report/20190322.html
SDGsマガジン – 「なぜ「語彙力」を鍛えるとストレスを軽減できる?」
https://sdgsmagazine.jp/2022/08/15/7265/

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