近年のビジネス界では、華やかな新規事業展開や次々とプレスリリースを発信する企業が注目を集める一方で、昔からのやり方をベースに着実に成長を続ける企業の強さが改めて評価されています。特に「ソリッドベンチャー」と呼ばれる安定成長型の企業は、創業初期から黒字を維持しながら段階的に事業を拡大し、結果的に大きな成功を収めています。これらの企業は、派手な投資や急激な事業転換ではなく、既存の強みを活かした「ジワ新規」戦略により、持続可能な成長を実現しているのです。本記事では、なぜ地味でも安定したビジネスモデルが最も優れているのか、そして現代のビジネス環境において、こうした堅実なアプローチがいかに重要であるかを詳しく解説します。
安定成長ビジネスモデルの本質とその価値
安定収益基盤が生み出す「心の余裕」
ソリッドベンチャーの最大の特徴は、堅実に稼ぐ「キャッシュカウ事業」を創業初期から持っている点にあります。これによって経営者・社員ともに「心の余裕」を保ちやすく、新たな事業やアイデアに挑戦できる土台が生まれます。例えば、BtoB向けの受託開発やコンサルティング、サブスクリプション型のサービスがキャッシュカウとして機能している場合、毎月安定した売上が入るため、他のプロジェクトに腰を据えて取り組めるのです。
多くのスタートアップが大きなリスクを取る背景には、「急成長しないと資金ショートしてしまう」構造が潜んでいます。一方、ソリッドベンチャーはキャッシュカウ事業が「保険」として機能しており、余剰利益を新規領域への投資資金に回せるのが強みです。「どこかで失敗しても既存事業でリカバリーができる」という安心感が、組織文化にもポジティブな影響を与えます。
持続可能なビジネスモデルの構成要素
持続可能なビジネスモデルは、すべてのステークホルダーにとって価値を創造し、長期的な商業収益性と将来に向けた効率的な資源活用を保証します。これらの要素は、持続可能性を重視する顧客、投資家、従業員を引き付け、長期的な事業の成功と存続に貢献します。
持続可能なビジネスモデルを導入することで、企業は複数のメリットを享受できます。まず、持続可能性への取り組みを実施することで、企業のブランドイメージを高めることができます。これは、社会と環境に対する責任へのコミットメントを示すものです。また、持続可能な企業は、エネルギーや水などの資源の使用量を削減する方法を見つけ、コスト削減につながることがよくあります。
「ジワ新規」戦略の効果的なアプローチ
既存事業の力を活かした段階的拡張
ソリッドベンチャーが新規領域に参入する際、いきなり大規模投資を行うのではなく、まずは「小さなトライアル」や「周辺サービス」から展開していきます。この「ジワ新規」アプローチは、リスクとコストを最小化しながら、顧客ニーズを確かめつつ事業を拡大していくことが可能です。
Speee社を例に取ると、同社はSEOコンサルで安定した売上を確保しつつ、メディア事業やレガシー産業のDX領域へ段階的に幅を広げてきました。こうした「少しずつの拡張」が、無理なく事業ポートフォリオを充実させる鍵となっています。
「ジワ新規」の最大の特徴は、既存事業における資金・人材・ノウハウを活用しながら、新しい事業領域へ徐々に浸透していくアプローチです。このアプローチには以下のようなメリットがあります。まず、急激な資金調達に頼らず、キャッシュフローを安定化できます。既存事業の利益を活かして新規事業のリスクを抑え、失敗のダメージを最小限にとどめられるのです。
組織と市場の両面でリスクをコントロール
少額投資や社内リソースの一部活用など、徐々に事業を広げるやり方であれば、もし市場の反応が芳しくなくても大ダメージには至りません。また、既存の顧客基盤や営業チャネルを活用できるため、高額なマーケティングコストをかけなくても比較的スムーズにユーザーを獲得できます。
このようなステップを踏むことで、事業の「当たり所」を探りながらノウハウを蓄積し、勝算が見えた段階で本格的にリソースを投入するのがソリッドベンチャー流です。段階的な成長により、組織の混乱を回避し、急拡大を避けることで、過剰な人員増や過大投資をせずに済み、社内体制や顧客対応の質を維持しやすくなります。
企業事例から見る成功パターン
堅実なビジネスモデルで業界シェアを獲得
地味な商品でも業界シェア70%を獲得したニチバンの「たばねら」は、安定成長ビジネスモデルの典型例です。この商品は、農家さんの「作業をもっと簡単にしたい」という声に応じて生まれ、ネギやニラなどを簡単に束ねるだけでなく、テープ同士は強力に粘着しながらも野菜には一切粘着しないという着想で、農家さんの手間と悩みを劇的に軽減して大ヒットしました。
この成功の鍵は、製品自体ではなく、顧客がどんな体験を得られるかにありました。商品自体を売ったのではなく、商品を使うことで得られる手間の削減、効率の向上といった「体験」が商品を売ったのです。
長期視点での成長を実現した企業
トモノカイは17年間成長し続け、売上も人材も十分に揃った企業として注目されています。創業初期から事業の多角化を進めつつも、教育に対する課題を様々な手法で解決していくという理念をしっかり持って、一つひとつの事業を進めていったことが成功の理由です。想いがあって、適切なビジネスモデルがあって、力のある人材が合わさると事業は成功するという考え方が、同社の安定成長を支えています。
INTLOOP社では、戦略コンサルからフリーランスコンサル人材マッチングへと徐々に領域を広げ、現在は複数のビジネスモデルが売上を支えている体制を構築しています。このように、キャッシュカウ事業がある程度軌道に乗ると、次なる目標は複数の収益源を持つことです。単一領域に依存していると、市場変動や競合の激化で売上が激減するリスクがありますが、複数の柱を育てておけば「どこかが不調でも別の収益で補える」構造が作れます。
安定成長がもたらす競争優位性
「選択と集中」による効率的な経営
「選択と集中」とは、中核となる事業(コア事業)に経営資源を集中させ、事業価値を高める経営戦略です。複数の事業を展開する企業が中核となる事業の見極め、選択を行い、コア事業に経営資源を集中させる一方、その他の事業(ノンコア事業)に関しては規模縮小や事業の売却を行います。
一般的に多くの企業は、売上規模の拡大や経営リスク分散のために多角化戦略を行います。しかし多角化を進めるほど、業績が好調な部門とそうでない部門の差が開いていきます。この状態を放置したまま多角化を続ければ、むしろ経営効率は落ちてしまうでしょう。そこで赤字部門を整理し、黒字部門に経営資源を集中投下して企業価値を増大させるのが「選択と集中」なのです。
スローで着実な成長の利点
スローで着実な成長の主な利点は、スタートアップが規模を拡大する前にビジネスの強固な基盤を構築できることです。持続可能な資源配分により、性急な拡張の誘惑を避けることで、企業は既存のプロセスの改良、製品品質の向上、顧客関係の育成にリソースを集中できます。このアプローチにより、投資されたすべての資金が時期尚早な拡張に薄く広がるのではなく、会社の全体的な成長に貢献することが保証されます。
また、スローな成長により、企業は高い水準のパーソナライズされたサービスを維持でき、顧客満足度とロイヤルティに大きな影響を与えることができます。企業が急速に成長しすぎると、顧客との相互作用の質が希薄化するリスクがありますが、保守的な成長モデルにより、企業は拡大する顧客ベースと歩調を合わせてカスタマーサポートとサービス機能を慎重に拡張できます。
安定成長企業の特徴と戦略
安定した経営を行うために、企業が取り組むべき施策として、経営戦略、営業DX、SDGs、AIの活用が重要とされています。特に経営戦略については、健康経営(財務状態の改善)、成長性の高い事業分野へのアプローチ、営業戦略の立案、人材育成が重要な要素となります。
現在の事業分野を含めて、今後の成長が期待できる分野を見極め、事業の幅を広げていく必要があります。自社の財務体質を踏まえ、慎重な検討が求められる中で、営業戦略においては他社との違い(自社の強み=コアコンピタンス)を理解し、ターゲット顧客の選定に時間をかけて取り組むことが重要です。
結論
地味でも確実な安定成長ビジネスモデルが最強である理由は、持続可能性、リスク管理、そして長期的な価値創造にあります。ソリッドベンチャー型の企業は、キャッシュカウ事業を基盤とした「ジワ新規」戦略により、外部環境の変化に左右されにくい強固なビジネス基盤を構築しています。急激な成長を求める企業とは対照的に、これらの企業は着実に市場での地位を固め、結果的により大きな成功を収めています。
現代のビジネス環境において、新規事業や華やかな展開よりも、既存の強みを活かした段階的な成長が重要です。顧客との信頼関係を深め、持続可能な収益モデルを構築し、組織の安定性を保ちながら成長することが、真の競争優位性をもたらします。今後も、地味でも確実な成長を続ける企業こそが、長期的に市場で勝ち残る企業となるでしょう。
参考情報
- エンジェルラウンド株式会社「ソリッドベンチャーがもたらす安定成長」https://solid-ventures.media/knowledge/case-studies-of-solid-ventures-that-build-stable-businesses/
- 日本M&Aセンター「『選択と集中』とは?手法やメリット・デメリット、企業事例を解説」https://www.nihon-ma.co.jp/columns/2022/x20220907-1/
- Vizologi「持続可能なビジネスモデルとは何ですか?」https://vizologi.com/ja/what-is-sustainable-business-model/

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