経営者にとって借金は避けて通れない道であり、多くの経営者が資金調達と返済のプレッシャーに日々直面しています。「借金で悩んでいない経営者はいない」という声も珍しくありませんが、実際のところ企業の借入状況はどうなっているのでしょうか。本記事では、経営者と借金の関係、適正な借入額、そして借金によるストレスとの向き合い方について、最新のデータをもとに解説します。
企業の借入金状況の実態
企業の借入金は月商の何倍?
日本の中小企業の長期借入金は、平均で総資産の40~45%を占めていると言われています。その額は、だいたい月商の4.5倍に達しているというデータがあります。
実際の企業の借入金の状況を見てみると、2024年3月期における企業の借入金月商倍率(借入金が月商の何倍あるかを示す指標)は5.45倍であり、前期(5.57倍)から0.12カ月分の微減にとどまっています。
これは適正な借入金の目安とされる「月商の3~4倍程度」を上回っており、多くの企業で借入金過多の状態が続いていることがわかります。
増加企業と減少企業の割合
2024年3月期に借入金が増加した企業は26.5%、減少は47.3%、横ばいは26.5%でした。コロナ禍での資金繰り支援策が一巡し、多くの企業が借入金の返済を進めている傾向がうかがえます。
ただし、借入金が増加した企業も3社に1社程度存在しており、資金繰りに苦労している企業も少なくないことが分かります。
無借金企業はどれくらい?
全国の無借金企業率は21.6%で、コロナ前の2019年から2.8ポイント下落しています。つまり、約5社に1社は借入金がまったくない「無借金経営」を実現していることになります。
業種別に見ると、サービス業他(47.0%)、金融・保険業(40.2%)、情報通信業(28.4%)が突出して無借金率が高い一方、設備投資が必要な製造業(12.0%)や小売業(12.8%)は無借金率が低くなっています。
創業時の借入金はいくらが平均?
創業時には多くの企業が融資を活用しますが、実際にいくらくらい借りているのでしょうか?
日本政策金融公庫の調査によると、創業融資の平均額は約800万円です。2022年度は882万円、2023年度は768万円と年によって変動はありますが、おおよそ800万円前後で推移しています。
ただし、実際には300万円から1,000万円程度と、その会社の規模や従業員数などにより幅があります。日本政策金融公庫の融資上限は7,200万円ですが、実際の平均借入額は約800万円程度となっており、上限額まで借りている企業は少ないことがわかります。
経営者が抱える借金のストレス
経営者にとって借金は大きなストレス源となります。そのストレスの原因はさまざまです:
- 資金調達の繰り返しに疲れる
- 融資の長い審査時間が耐えられない
- 経営状況が良くないから融資のアピールができない
- 借金が増えていくことがただただ不安
- 会社の連帯保証人になっている不安
- さまざまな支払いが滞ることへの心配
このようなストレスを抱えたままだと、経営判断を誤ったり心身に不調をきたしたりするリスクが高まります。そうなってしまえば事業が立ち行かなくなり、返せるものも返せなくなってしまうでしょう。
「借金経営」と「無借金経営」のバランス
「借金は会社の信用につながる」という考え方もありますが、自己資金ゼロで借金経営に乗り出し、一時資金難に陥ったという経営者の例もあります。
「黒字にして返済しないと、借金は増えていくだけ」という当たり前のことを忘れてはいけません。どんな事業もスタートしてから軌道に乗るまでには時間がかかります。
借金経営のメリットとデメリット
借金経営には次のようなメリットがあります:
- チャンスを逃さず企業を成長させられる
- モチベーションが上がる人もいる
- いざという時にお金が借りやすい
一方、デメリットもあります:
- 売り上げが落ちると返済資金の工面に追われる
- モチベーションが上がらない人もいる
適正な借入金とは?
多くの経営者は自社の適正水準を把握できていないと言われています。借入が過剰になってしまう最大の原因は、経営者自身が自社の適正水準を把握していないことです。
業種別の借入金月商倍率
適正な借入金は業種によって異なります。借入金月商倍率の業種別平均値は以下のようになっています:
- 卸売業:2.9
- 建設業:1.7
- 小売業:3.9
- サービス業:5.3
- 食料品:2.7
- 不動産業:13.0
一般的には、借入金月商倍率が3倍~4倍程度が適正と言われていますが、業種によって大きく異なることがわかります。
借入金過多の兆候
借入金が月商の3か月分を越えると、資金繰りが忙しくなる企業が多いという傾向があります。
資金繰りが忙しくなると、運転資金の確保に追われ、本来注力すべき事業の拡大や改善に時間を割けなくなるリスクがあります。
多重債務の現実
経営者の中には複数の金融機関から借り入れをしている「多重債務」の状態に陥っている場合もあります。
韓国の例ですが、3つ以上の金融機関からお金を借りている多重債務者数は過去最大(448万人)に達し、家計向け融資者全体(1978万人)のうち、多重債務者の割合は22.6%にも上っています。
日本の多重債務者の借金の原因を見ると、「生活費・教育費・税金・医療など」が約40%、「借金返済・連帯保証」が約25%、「事業資金」は約6-7%となっています。事業資金よりも生活資金や既存の借金返済のための借り入れが多いことがわかります。
借金に頼らない経営のために
借金に頼りすぎない経営を実現するためには、以下のポイントが重要です:
自社の財務状況を正確に把握する
優れた経営者は自社のお金事情をほとんど完璧に把握し、それが適正水準にあるかどうかを常に意識しながら会社を経営しています。
自社の月商や利益率、現在の借入金額などを正確に把握し、業界平均と比較することで、現状の借入金が適正かどうかを判断することができます。
必要以上の借入を避ける
設備投資や運転資金の調達のための「必要以上の借入」や、「返済期間の間違い」などは避けるべきです。
特に、事業拡大の見込みが不確かな段階での大型投資には慎重になるべきでしょう。
資金繰り計画を立てる
短期・中期・長期の資金繰り計画を立て、常に更新することで、資金ショートのリスクを減らすことができます。特に季節変動がある業種では、閑散期の資金繰りを事前に計画しておくことが重要です。
経費の無駄を削減する
「経費=自由に使えるお金」と考えるのではなく、店の売上から出ていることを認識し、無駄な出費を削減することが大切です。備品や設備投資が1日の利益のどれだけに当たるかを意識することで、無駄な支出を避けることができます。
経営者とお金の健全な関係を構築するために
経営者にとって借金は事業成長のための必要な手段である一方、過度な借り入れは大きな負担となります。借入金と向き合う際に最も重要なのは、自社の適正水準を理解し、計画的な資金調達と返済を行うことです。
特に中小企業の経営者は、日々の業務に追われて財務状況の把握が後回しになりがちですが、「お金」こそが事業継続の根幹であることを忘れてはいけません。たとえ素晴らしいビジネスコンセプトを持っていても、きちんと収益を上げ、借金を返していけるようでなければ営業を継続できないのです。
借金との適切な距離感を保ちながら、持続可能な経営を実現するための第一歩は、自社の財務に強い関心を持ち、必要に応じて専門家に相談することかもしれません。
借金との戦いは多くの経営者が直面する現実ですが、適切な知識と計画があれば、それを事業成長の原動力に変えることができるでしょう。
参考情報
- 融資でお悩みの方は日本政策金融公庫
日本政策金融公庫日本政策金融公庫(日本公庫)の公式サイト。中小企業・小規模事業者や農林漁業者などを支援する政策金融機関です。 - 資金繰り改善には中小企業基盤整備機構
独立行政法人 中小企業基盤整備機構中小機構は、中小企業政策の実施機関として、成長ステージや経営課題に応じた支援メニューで中小企業の成長をサポートします。 - 経営相談なら地域の商工会議所
日本商工会議所日本商工会議所(日商)は各地の商工会議所を会員とする民間の地域総合経済団体です。政府会議での意見や国会議員への働きかけといった政策提言活動を中心に、現場で中小企業・地域を支える各地商工会議所のサポートや海外との民間経済交流、検定試験を通じた...


コメント