近年、ラーメン業界で話題となっている「ステルス・フランチャイズ」は、消費者にとって新たな混乱と失望をもたらしている。一見すると個人経営の新しいラーメン店のように見えるが、実際にはチェーン店の一部であり、メニュー構成や味が類似している業態が急増している。この現象は、個性的な個人店を求める消費者と、効率的な店舗展開を目指す企業側の思惑が交錯する中で生まれた新しいビジネスモデルの副作用といえるだろう。
ステルス・フランチャイズとは何か:見えないチェーン店の実態
ステルス・フランチャイズの基本的な仕組み
ステルス・フランチャイズとは、「一見フランチャイズに見えないフランチャイズ店」のことである。一般的なフランチャイズ店では、店名やメニュー、店の内装・外観などが統一されているが、ステルス・フランチャイズでは店名・外観・内装・メニューなどを個々で自由に決められ、また加盟金がないことも珍しくない。ただし、提供する基本料理の味は統一されていることが多いのが特徴だ。
この業態の最大の特徴は、統一された屋号に縛られず、好きに店舗名称を決められることにある。店舗内装や提供メニューをある程度自由に決められ、ロイヤリティが比較的安価で、飲食業では仕入れに含まれるケースが多い。さらに、法定開示書面を提示しなくて良いメリットもあり、一般的なフランチャイズよりも契約や運営における制約が少ない。
具体的な運営モデルと業界での位置づけ
代表的な例として、株式会社テイクユーが挙げられる。同社は貝出汁や鶏白湯が人気のラーメン業態を運営し、直営21店舗のほか、ロイヤリティなしでFC加盟店が屋号とメニューを自由に決められるステルスFC事業を進めている。国内加盟店130店舗、海外20店舗をプロデュースし、国内外で250店舗を越えるプロデュースを行っている。
テイクユーのステルス・フランチャイズでは、職人がセントラルキッチンで同じ製法で手作りし、店舗に冷凍でお届けするため誰でも同じ味が提供できる仕組みを構築している。麺は100種類以上から選べ、味を決める「かえし」は醤油タレ、塩タレ、味噌など20種類以上を用意している。これにより、各店舗は異なる屋号を使いながらも、一定品質の商品を提供することが可能になっている。
現在の市場状況と拡大する背景
急速な拡大を見せるステルス・フランチャイズ市場
ラーメン業界におけるステルス・フランチャイズの拡大は目覚ましい。横浜家系ラーメンのギフト社では、2019年7月時点で直営74店舗を運営する他、別のオーナーが354店舗展開している。このモデルが大ヒットしたことで、株式会社ギフトは東京証券取引所市場第一部への上場を果たしている。
テイクユーの場合、鶏白湯ラーメンからスタートし、煮干しラーメンや貝出汁ラーメンとレパートリーを増やしていき、創業からわずか10年ほどで直営店・加盟店を合わせて150店舗を超えるラーメンチェーンに成長を遂げた。このような急速な拡大の背景には、従来のフランチャイズモデルの限界と、消費者の個人店に対する嗜好の変化がある。
業界構造の変化と個人店ブームの影響
飲食業界、特にラーメン業界では流行のサイクルが早く、本部が業態を作っても業態の寿命が比較的短いという事情がある。一般的なフランチャイズチェーンでは、金太郎飴の方式で決まった型で店舗展開を進めていくことによって、チェーンとしての効率性を実現してきたが、最近は金太郎飴方式の展開方式ではデメリットも生まれるようになっている。
特にラーメン店のように消費者の嗜好性が高い業種では、チェーン店が避けられ、個性のある個人店が好まれる風潮が広がっている。口コミやメディア掲載も圧倒的に個人店が有利な時代であり、ラーメンファンも個人店を好む傾向が強いと言われている。このような市場環境の変化が、ステルス・フランチャイズというビジネスモデルの拡大を後押ししている。
消費者が感じる問題点と失望の構造
期待と現実のギャップが生む失望感
消費者がステルス・フランチャイズに対して感じる最大の問題は、期待と現実のギャップである。新しい個人店だと思って訪問したにも関わらず、実際には既存のチェーン店と類似したメニューや味に遭遇することで、強い失望感を抱くケースが増加している。これは、消費者が個人店に求める「独自性」や「オリジナリティ」への期待が裏切られることによるものだ。
実際の消費者の声を見ると、「予想はしていたものの、ここまで工場生産チックだとガッカリしますね」という評価や、「これならインスタントラーメン出してたほうがいい」という厳しい意見も見られる。このような反応は、消費者が個人店に対して持つ「手作り感」や「こだわり」への期待が、工業的に生産された商品によって満たされないことを示している。
情報の非対称性による選択の困難
ステルス・フランチャイズの最大の問題は、消費者にとって選択のための十分な情報が提供されていないことである。店舗の外観や店名からは、それがチェーン店の一部であることを判断することが困難で、消費者は意図せずに同じような商品を複数の店舗で購入することになる。これは、消費者の商品やサービスに対する正しい選択を妨げる可能性がある。
通常、消費者は広告にはある程度の誇張が含まれていると理解して商品やサービスを選択するが、ステルス・フランチャイズでは個人店であることが暗示されているため、消費者は「誇張されていない、信頼できる情報」と捉えてしまう傾向がある。この情報の非対称性は、消費者の選択を歪める要因となっている。
企業側の論理とビジネスモデルの合理性
効率性と個人店らしさの両立を目指す戦略
企業側がステルス・フランチャイズを採用する理由は、チェーン店の効率性と個人店の魅力を両立させることにある。一般的なフランチャイズ店舗は、「どの店を利用しても同じ」との状況になりやすいが、ステルス・フランチャイズ導入によって「それぞれの店舗のファン」を獲得できる可能性がある。
テイクユーの例では、屋号がバラバラなので本部負担が少なくロイヤリティ0を実現し、安定した収益を見込め、多店舗化を目指し易いモデルを構築している。一般的なフランチャイズ契約では毎月巡回するなど本部負担が重く、その負担を加盟店が負わなければならないが、このモデルでは本部の運営負担を大幅に削減できる。
セントラルキッチン方式による品質管理とコスト削減
ステルス・フランチャイズの多くは、セントラルキッチン方式を採用している。ラーメンまこと屋では、セントラルキッチン方式により従来は外注していた麺やスープ、焼き豚などの内製化を計画し、味の均質化と営業の効率化を図っている。テイクユーでも、味の要となるラーメンスープは熟練の職人によってつくられ、冷凍で店舗に届けられる仕組みを構築している。
この方式により、各店舗では職人レスで安定した味を再現でき、アルバイトでも運営が可能なオペレーションを実現している。企業にとっては人件費の削減と品質の標準化を同時に達成できる合理的なシステムといえる。
法的・倫理的観点から見た課題
消費者保護の観点からの問題点
ステルス・フランチャイズは、法的にはフランチャイズとしての規制を受けにくい構造になっている。統一性が低いため法定開示書面の提示の必要性がなく、契約書の作成や弁護士による確認、内容説明など、さまざまな労力を削減できる。しかし、これは同時に消費者保護の観点から見ると問題となる可能性がある。
一般的なフランチャイズ店では、法定開示書面に「加盟店の義務」や「契約違反のペナルティ」の項目が記載されており、加盟店が契約終了後、同種・類似の営業を行えないとの内容となっているが、ステルス・フランチャイズではこのような制約がないため、契約終了後、過去の加盟店がライバル店になる可能性もある。
透明性の欠如と消費者の知る権利
消費者には、購入する商品やサービスについて正確な情報を知る権利がある。ステルス・フランチャイズの場合、店舗がチェーン店の一部であることが明示されていないため、消費者は十分な情報に基づいた選択ができない状況に置かれている。これは、消費者の自己決定権を制限する要因となっている。
特に、ステルス値上げの問題とも関連して、消費者は明確な情報開示を求める傾向が強まっている。消費者は値上げ自体には一定の理解を示すが、ステルス値上げと受け止められると、落胆や失望を感じるように、ステルス・フランチャイズについても同様の反応が予想される。
今後の展望と改善への提言
業界自主規制の必要性
ステルス・フランチャイズ業界には、消費者との信頼関係を維持するための自主規制が必要である。具体的には、店舗がチェーン店の一部であることを適切に表示する仕組みの導入や、メニューの多様化による差別化の推進などが考えられる。企業側は、短期的な利益追求よりも長期的な信頼関係の構築を重視すべきである。
また、業界団体による統一的なガイドライン策定や、消費者への情報提供の仕組み作りも重要である。消費者が十分な情報に基づいて選択できる環境を整備することで、ステルス・フランチャイズの負の側面を軽減できる可能性がある。
差別化戦略の重要性と将来展望
今後のステルス・フランチャイズには、真の意味での差別化戦略が求められる。仕入れ先や基本的な調理方法は統一しても、各店舗が独自のメニュー開発や味の調整を行える仕組みを構築することで、消費者の期待に応えることができるだろう。これにより、チェーン店の効率性と個人店の独自性を両立する新しいビジネスモデルの確立が可能になる。
また、デジタル技術の活用により、消費者が事前に店舗の詳細情報を確認できるプラットフォームの整備も有効である。QRコードを活用した店舗情報の開示や、専用アプリでの詳細情報提供など、透明性を高める取り組みが業界全体の信頼性向上につながるだろう。
結論:消費者と企業の共存に向けた道筋
ステルス・フランチャイズは、現代の飲食業界における効率化と個性化の両立を目指した革新的なビジネスモデルである一方で、消費者の期待を裏切る要因ともなっている。この問題の解決には、企業側の透明性向上と消費者への適切な情報提供が不可欠である。単純に仕入れ先を統一するだけでなく、各店舗が真の意味での独自性を発揮できる仕組みの構築が求められる。
今後は、法的規制の整備と業界の自主的な取り組みの両面から、消費者保護と企業の持続的成長を両立できる環境作りが重要になるだろう。消費者の知る権利を尊重し、適切な情報開示を行いながら、それぞれの店舗が独自の価値を提供できるビジネスモデルの確立が、業界全体の健全な発展につながると考えられる。
参考情報:
- Foods Channel「ラーメン業態のステルスFCで100店舗以上をプロデュース」
https://foods-ch.infomart.co.jp/interview/buyer/1685060221155 - フランチャイズヘッドクォーターズ「ステルスフランチャイズとは?導入のメリットとデメリットを解説」
ステルスフランチャイズとは?導入のメリットとデメリットを解説フランチャイズ事業のステルスフランチャイズについて解説しています。ステルスフランチャイズを導入するメリット・デメリットについてもまとめておりますので、ぜひ参考にしてください。 - 飲食店.COM「飲食店における『チェーン店』とは? フランチャイズ、暖簾分けとの違いやメリットを解説」
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