好況期に企業が陥りがちな過剰拡大の罠と、それを回避するための経営戦略について、客観的かつ実証的な視点から分析します。企業が調子の良い時期にこそ慎重な判断が求められる理由と、長期的な視点での経営判断のあり方を検討します。
好況期における過剰投資の危険性
企業が業績好調期に陥りやすい罠の一つが、将来の見通しを過度に楽観視した拡大戦略です。特に注意すべきは、人材の過剰採用、過大な設備投資、豪華なオフィス環境への投資などが挙げられます。
「成長を志向する」ことと「成長を管理する」ことは明らかに異なります。多くの企業は成長を志向していますが、その成長を適切に管理できていないケースが少なくありません。成長の管理とは、実際の成長に対応した企業の状態を、望ましい姿・あるべき姿につくり上げていくことであり、売上の増加にともなって必要となる資金を適正に管理することが求められます。
過剰投資の実例を見てみましょう。埼玉県川口市で印刷業を家族経営していたMさんは、バブル期の好況時に強気な設備投資で多額の借金を抱え、バブル崩壊後に経営が悪化しました。このケースでは、一時的な好況に惑わされた経営判断が長期的な経営危機を招いています。
過剰な人員採用のリスク
好況期に人材を急激に増やすことは、将来的な固定費増大につながります。業績が下降局面に入った際、人件費が大きな負担となり、経営を圧迫する要因となります。
金融庁の調査報告書によれば、一部の企業は「過剰設備と過剰雇用に足を引っ張られ、破綻に至った事例」が報告されています。これは、好況期の過剰な人材採用が後の経営危機につながることを示唆しています。
豪華なオフィス投資の両刃の剣
オフィス環境への過剰投資も看過できない問題です。2020年に従業員約80人の中小企業Legaseedが、コロナ禍の真っただ中に内装費2億円をかけた新オフィスを設置した事例があります。このような大規模投資は、企業イメージや従業員満足度向上などのメリットがある一方で、固定費増大による財務負担増という側面も無視できません。
急成長期の資金繰り管理の重要性
好況期に見落とされがちなのが、資金繰り管理の重要性です。売上が増加しても、必ずしも現金の増加につながるわけではありません。
キャッシュフローと利益の乖離
キャッシュフロー経営の観点では、「営業利益は順調に伸びていたのに、取引先の倒産などで現金を回収できなくなって資金繰りに行き詰まれば、会計上は黒字なのに倒産してしまうことすらある」と指摘されています。つまり、会計上の利益と実際の現金の動きは異なるため、キャッシュフローを重視した経営管理が必要です。
急拡大期の運転資金需要
売上が急増すると、売掛金が増え在庫も増えてきます。いわゆる運転資金が必要となってきます。運転資金は「(受取手形 + 売掛金 + 棚卸資産) – (支払手形 + 買掛金)」で計算され、この資金が不足すると、黒字倒産のリスクが高まります。
「充分なキャッシュの準備ができていないのに売上を急拡大すると、必ず運転資金が必要となり、資金ショートして黒字倒産する可能性があります。急成長も要注意ですね」と専門家は警告しています。
組織基盤とオペレーション整備の必要性
企業の持続的成長には、組織基盤の強化とオペレーションの整備が不可欠です。特に急成長期には、これらの要素が無視されがちです。
成長スピードと組織成熟度のバランス
「事業拡大フェーズに突入したスタートアップが直面する最大の難所は、事業の成長スピードに組織の成熟度を追いつかせること」と指摘されており、人材採用、組織カルチャーの醸成、オペレーションの効率化、仕組み化などが課題として挙げられています。
キャッシュフローの最適化と予算管理
成長期において増加する運転資金を適切にコントロールしないと、売上は増加していても現預金は減少を続け、事業に支障をきたす場合があります。仕入れや購買活動における支払いサイクルと売上の入金サイクルを見極めながら、常に資金繰りが安定するようにキャッシュフローの最適化が求められます。
具体的な方法として、以下が推奨されています:
- 売掛金の回収期間の短縮
- 買掛金の支払い条件の最適化
- 在庫管理の効率化
- 予算管理とKPI設定
好況期における健全な経営判断のための戦略
調子が良い時期こそ、将来の不確実性に備えた経営判断が重要です。ここでは、持続可能な成長のための具体的戦略を提案します。
景気循環を見据えた投資計画
景気には良い時期と悪い時期があります。景気が良い時は給料やボーナスが増え、お金を使いたくなる一方、物の値段が上がったり、金利が上昇したりするデメリットもあります。この循環を理解し、好況期に将来の不況期に備えた準備をすることが重要です。
リスク分散と財務バッファーの確保
企業の破綻事例から学べることは、リスク管理の重要性です。エンロンの例では、会計粉飾と債務隠蔽が破綻の原因となりました。透明性の高い財務管理と、十分な財務バッファーの確保が重要です。
また、過剰投資のケースでは、「借入能力を慎重に見極め、総資産の30%程度を目安に借入限度を設定することが望ましい」とされています。さらに、「最低でも6ヶ月分の諸経費をカバーできる現金を常に確保しておくことが肝要」と指摘されています。
持続可能な組織体制の構築
好況期に無理な拡大をするのではなく、持続可能な組織体制を構築することが重要です。X Mileの事例では、「創業Day1から1,000人規模の組織を見据えた基盤づくり」を進めており、長期的視点での組織設計の重要性を示しています。
結論:調子が良い時こそ慎重な経営判断を
企業経営において、調子が良い時期こそ慎重な判断が求められます。過剰な人員採用や豪華なオフィス投資は、将来の経営を圧迫する要因となり得ます。また、急成長期の資金繰り管理や組織基盤の整備も見落としてはならない重要な要素です。
好況期には景気循環を見据えたリスク管理、十分な財務バッファーの確保、持続可能な組織体制の構築に注力することで、将来の不確実性に備えた強固な経営基盤を築くことができます。
調子が良い時の振る舞いやお金の使い方が、将来の企業の存続と発展を左右するということを肝に銘じる必要があります。慎重かつ戦略的な経営判断が、持続可能な成長への鍵となるのです。
参考サイト
- 金融庁「金融機関の破綻事例に関する調査報告書」
https://www.fsa.go.jp/news/18/20070330-5/04.pdf - 日経XTECH「コロナ禍なのに2億円かけてオフィスを新設した中小企業の末路」
コロナ禍なのに2億円かけてオフィスを新設した中小企業の末路従業員数約80人の中小企業が、コロナ禍真っただ中の2020年9月、東京・品川の高層ビルに内装費2億円かけたオフィスを新設。その新オフィスが、会社に思わぬ作用をもたらすこととなった。果たして乾坤一擲(けんこんいってき)の大勝負は吉と出たのか。... - みずほ総合研究所「エンロン事件の概要と米国の制度改革」
https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F8900108&contentNo=1

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