知能と能力の遺伝性:科学的事実と採用における倫理的課題


「優秀な人の親も優秀だ」という主張には科学的根拠があるのでしょうか?また、採用面接で親の職業を聞くことの是非について検討します。

知能の遺伝性に関する科学的知見

知能の遺伝率については、研究によって異なる数値が報告されていますが、かなりの割合で遺伝的要因の影響があることが示されています。

遺伝率のばらつき

世界中の研究者による結果では、知能は遺伝子の影響を60%程度受けることが示されています。これは環境の影響が40%あることを意味します。しかし、別の研究では「知能の遺伝率は45パーセント」と報告されており、さらに一部の研究では「知能の遺伝率は70~80%」とより高い数値を主張するものもあります。

このようなばらつきがある中でも、多くの研究者が一致しているのは、知能には明確な遺伝的影響があるということです。2018年には、20万人以上のデータを使った遺伝子検査によって知能を予測する研究が進められており、500以上の遺伝子がIQと結び付けられたとの報告もあります。

年齢による変化

興味深いことに、知能の遺伝率は年齢とともに変化する傾向があります。「年齢を重ねるにつれて遺伝の影響が強くなりやすい」という研究結果があり、人生の前半は学校教育による環境の影響が大きいとされています。

環境要因の重要性

遺伝的影響が大きいとはいえ、環境要因の重要性も多くの研究で示されています。

里親研究の示唆

スウェーデンの研究では、436組の男児の兄弟のうち片方が里親に出され、18~20歳時のIQが比較調査されました。その結果、「里親の教育レベルが高いと、養子の知能はより高まる」ということが示されました。これは環境要因の重要性を示す重要な証拠です。

社会経済的地位の影響

1989年にネイチャー誌に掲載された研究では、親の社会的・経済的ステータス(SES)と子どものIQの関係が調査されました。高SES家庭生まれ・高SES家庭育ちの子と、低SES家庭生まれ・低SES家庭育ちの子の間には、IQに平均27ポイントの差がありました。

しかし重要なのは、低SES家庭生まれでも高SES家庭で育った子と、高SES家庭生まれでも低SES家庭で育った子のIQが中間値を示したことです。この研究からも「IQは先天的要因と後天的要因がおよそ半々」という結論が得られています。

教育と努力の効果

「知能は遺伝率が約80%だから、親や本人の努力うんぬんよりも、両親の遺伝がよかったのではないか?」という考えに対して、専門家は「長期間、継続的にトレーニングをしたらやらないよりも大概の能力は伸びます」と指摘しています。

勉強を継続的に連日行えば、そのトレーニングをしなかった場合と比較して学力は大きく伸びると考えられます。ただし、その伸びの範囲には個人差があります。

採用面接で親の職業を聞くことの問題点

採用面接で家族構成や親の職業を聞くことについては、倫理的・法的な問題があります。

厚生労働省の立場

面接で家族構成について聞くことは違法ではないものの、厚生労働省が定めた「公正な採用選考の基本」では禁止されています。これは就職差別につながる可能性があるためです。

禁止の理由

家族構成や親の職業は仕事の適性や本人の能力とは関係がなく、自分では変えることもできません。応募者の努力や意志によって変えることができない事柄が採用・不採用の判断材料にされることは不公平であるため、こうした質問は禁止されているのです。

面接での実態

しかし実際には、面接官が緊張をほぐすためのアイスブレイクとして、または休職や早期離職のリスクを探るために、あるいは信用できる人物かどうかを判断するために、家族について質問するケースがあります。

結論:遺伝と環境の総合的視点

知能や能力における遺伝的要素の存在は科学的に支持されていますが、環境要因の影響も同様に重要です。ある人の「優秀さ」を評価する際には、遺伝だけでなく、教育環境、本人の努力、社会的要因など多くの要素を考慮する必要があります。

また、採用においては、親の職業や家族構成などの本人がコントロールできない要素ではなく、その人自身の能力や適性、経験に基づいて判断することが公平であり、法的にも推奨されています。

最後に、キャサリン・ブリス准教授の警告を心に留めておくべきでしょう。「人々が生まれつきの能力で仕分けされる世界は、遺伝子選別による階級社会を舞台にした映画『ガタカ』で描かれた優生学です」。私たちは科学的事実を理解しつつも、それを公正で倫理的な方法で活用していく責任があります。

参考サイト

  1. 厚生労働省「公正な採用選考の基本」
    公正な採用選考の基本
  2. Nature「Assessment of effects of socio-economic status on IQ in a full cross-fostering study」
    Assessment of effects of socio-economic status on IQ in a full cross-fostering study
    AN important question in studies of mental ability concerns the effect of parental socio-economic status (SES) on the IQ...
  3. CRN「【スウェーデン子育て記】 第11回 スウェーデンの養子制度」
    【スウェーデン子育て記】 第11回 スウェーデンの養子制度 - 論文・レポート

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