「このままでは時代に取り残されるのでは?」「若手にどんどん追い抜かれていく…」「早期退職の噂も聞こえてくるし、このままじゃ…」
自動車業界のEV化が加速する中、特に40代以上の技術者の方々はこんな不安を抱えていませんか?長年培ってきたエンジン関連の技術やアナログなものづくりのノウハウが、デジタル化・EV化の波に飲み込まれそうで焦りを感じている方も多いでしょう。
でも、大丈夫です。今の会社で、今の技術を基盤にしながら、この変化の波を乗りこなす方法があります。この記事では、法政大学キャリアデザイン学部教授の田中研之輔氏の著書「今すぐ転職を考えていない人のためのキャリア戦略」から、特に自動車業界のミドルキャリア技術者に役立つ具体的なキャリア戦略をご紹介します。
「EV時代に取り残される」恐怖から抜け出す思考法
自動車業界では「100年に一度の大変革期」と言われ、多くのベテラン技術者が不安を抱えています。トヨタ自動車の豊田章男社長や経団連の中西宏明会長が「終身雇用の見直し」について言及したことも、この不安を増幅させました。
田中氏の著書では、この状況をプラスに転換する考え方として「プロティアン・キャリア」を紹介しています。これは「変化に柔軟に適応しながら自分自身でキャリアを形成していく」考え方です。
重要なのは次の3つのポイントです:
- 焦点をシフトする: 「会社がどうなるか」から「自分が何をできるか」に意識を向ける
- 経験を再評価する: 長年の経験を「古いもの」ではなく「応用可能な知恵」として捉え直す
- 変化を受け入れる: 技術変化を「脅威」ではなく「新たな機会」として受け止める
自動車部品メーカーでEV関連の新規ライン立ち上げに苦戦された方も多いでしょう。しかし、その過程で得た「問題解決力」や「異なる部門との調整能力」こそが、実はあなたの強みになっています。
「変化の時代に最も重要なのは、アイデンティティ(自分らしさ)とアダプタビリティ(変化適応力)の両方を持つこと」
なぜ「作業系エンジニア」から「思考系エンジニア」へのシフトが必要なのか
現代の自動車業界で起きているのは、単なる「エンジン→モーター」という技術シフトだけではありません。より本質的なのは「作業中心の仕事から思考中心の仕事へ」という大きな転換です。
田中氏は著書の中で「作業時間」と「思考時間」の区別について語っています:
- 作業時間: 定型的な業務、資料作成、データ入力など
- 思考時間: 問題解決、企画立案、戦略策定など
生産技術の現場でも、単純な「作業時間」は今後AIやロボットに代替される可能性が高いです。一方で「思考時間」が生み出す価値は、むしろ高まっていきます。
たとえば三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポートによれば、EVシフトに伴い自動車部品メーカーが直面する課題として「内装やボディー部品の変化、自社が担ってきた役割の消滅、これまでとは異なる競争相手の出現といった、いずれも抜本的な構造変化」が挙げられています。
これらの課題に対応するには、「思考系エンジニア」としての能力が必要です:
- 問題の本質を見極める分析力
- 異なる技術領域を統合する構想力
- 変化を予測し対応策を立案する戦略思考
あなたが今まで培ってきた「カイゼン力」や「トラブルシューティング能力」は、この「思考系エンジニア」への転換に大いに役立ちます。
中堅技術者の「キャリア資本」を再評価する方法
「キャリア資本」とは田中氏が提唱する概念で、「市場で評価される自分の価値」のことです。多くのミドルキャリア技術者は、自分のキャリア資本を過小評価しがちです。
キャリア資本には3つの要素があります:
- ビジネス資本: スキル、経験、専門知識
- 社会関係資本: 人脈、ネットワーク
- 経済資本: 収入、資産
自動車部品メーカーで20年以上働いてきたあなたには、気づいていない大きな資本があります:
- トラブル対応の経験値: 何千時間もの障害対応経験は価値ある知見の宝庫
- 現場知識の深さ: 理論だけでなく肌感覚で把握している製造プロセスの知識
- 社内外のネットワーク: 年月をかけて構築した関係性は若手にはない強み
ある元NECエンジニアの事例では、30年間で蓄積した7,200時間の障害対応経験を「クラウド移行リスク予測モデル」として体系化し、コンサルティングサービスとして再商品化することに成功しました。
あなたも同様に、例えば「生産ライン改善のエキスパート」としての経験を、「EV生産ラインのリスク予測と最適化」といったテーマで再定義できる可能性があります。
社内でのポジションを守りながら市場価値を高める両立戦略
「今の会社で生き残りたい」と「自分の市場価値を高めたい」という2つの目標は、決して相反するものではありません。田中氏の著書では、この両立を可能にする「ハイブリッド型キャリア戦略」が紹介されています。
1. 「こなす」から「ためる」への意識改革
日々の業務を単に「こなす」のではなく、キャリア資本を「ためる」機会と捉え直します。例えば:
- 新しいEV部品の生産ライン構築プロジェクトに関わる際、単に目の前の課題解決だけでなく「EV関連の知見」として意識的に蓄積する
- デジタル生産管理システム導入で若手から学ぶ際、「学ぶ姿勢」自体をチームマネジメントのモデルケースとして示す
2. 「イントラプレナー」としての立ち位置を確立
社内起業家(イントラプレナー)として、新しい価値を創造する役割を担います:
- 従来技術とEV関連技術のブリッジ役として機能する
- 若手とベテランをつなぐメンター的役割を果たす
- 生産現場と開発部門のコミュニケーション促進者となる
3. 「逆OJT」モデルの実践
通信機器メーカーの退職者が実践した「逆OJT」モデルも参考になります。このモデルでは:
- 若手エンジニアから最新技術を学ぶ
- その代わりに、過去のシステム障害事例をケーススタディとして提供する
- この双方向学習で学習効率が40%向上した実績がある
この方法をあなたも応用できます。デジタル生産管理システムの操作を若手から学ぶ代わりに、長年培った「現場でのトラブル対応知識」を体系的に教えるのです。
アナログスキルを持つミドルが組織で新たな価値を生み出す方法
自動車業界のEVシフトは、確かに従来の技術を一部陳腐化させます。しかし、田中氏が提唱する「関係性の時代」の考え方を応用すれば、アナログな技術背景を持つミドルにも大きなチャンスがあります。
1. 「関係性の時代」を味方にする
田中氏は現代を「関係性の時代」と定義し、組織と個人が対立するのではなく、相互に利益をもたらし合うパートナーとして捉えることの重要性を説いています。
具体的には:
- 橋渡し役になる: デジタルネイティブ世代と従来技術者の間の翻訳者となる
- 知識の統合者になる: 断片化した専門知識を統合する司令塔となる
- 組織記憶の担い手になる: 過去の成功や失敗の教訓を次世代に伝える
2. 「表現力」を競争力に変える
田中氏は「言葉に感情をのせる」能力の重要性も強調しています。技術的な正確さだけでなく、経験に基づく直感や感情を言語化する能力は、ミドルキャリアの大きな武器になります。
例えば:
- 「この設計だと組み立て時にストレスがかかるかもしれない」という現場感覚
- 「過去にこれと似た問題で苦労した記憶がある」という経験則
- 「この方法なら生産ラインのオペレーターも納得するはず」といった人間理解
これらの「言語化しにくい知恵」を適切に表現できれば、AIやデジタルツールには代替できない価値を生み出せます。
3. 地域とのつながりを社内での価値に転換する
少年野球のコーチを10年続けているなら、そこで培った「チームビルディング能力」や「若手育成ノウハウ」は、社内でも大きな価値があります。
- 社内の技術継承プログラムの企画・運営役を買って出る
- 若手向けのメンタリングプログラムを提案する
- 部署間の連携促進のための「チームビルディング」施策を提案する
「稼ぎ抜く力」を身につけて技術変化に左右されないキャリアを築く
最後に田中氏が提唱する最も重要な概念「稼ぎ抜く力」に注目しましょう。これは単に給与をもらうのではなく、自ら価値を創出し対価を得る力のことです。
1. 「作業者」から「価値創造者」へ
技術変化に対応するには、「決められた作業をする人」から「価値を創造する人」へと自己認識を変える必要があります:
- 「言われたことをやる」から「課題を見つけて提案する」へ
- 「問題を解決する」から「可能性を創造する」へ
- 「知識を持つ」から「知識を応用・統合する」へ
2. 「副業」の戦略的活用
本業に支障をきたさない範囲で、副業経験から学ぶことも有効です:
- 製造業向けの技術コンサルティング
- ものづくり教室の開催
- オンラインプラットフォームでの技術アドバイス提供
これらの経験が、本業での「稼ぎ抜く力」も強化します。
3. 「セカンドキャリア」の種まき
50代後半~60代に向けた技術指導者としてのポジションを今から構築していくことも重要です:
- 社内での技術伝承責任者としての実績づくり
- 業界団体や地域の製造業ネットワークでの活動
- 自分の技術知識の体系化(マニュアル作成、事例集の編纂など)
EV時代のミドルキャリアはアナログとデジタルの架け橋になれる
本記事でご紹介した田中研之輔氏の「今すぐ転職を考えていない人のためのキャリア戦略」の考え方は、特に自動車業界の技術変革期に直面するミドルキャリアの方々に勇気を与えるものです。
EV化やデジタル化は確かに大きな変化ですが、それは「脅威」であると同時に「機会」でもあります。長年培ってきたアナログな技術知識と経験は、適切に再定義し活用すれば、むしろこの変革期において貴重な「橋渡し」の役割を果たせるのです。
「作業系エンジニア」から「思考系エンジニア」へと自己変革し、日々の業務を「キャリア資本を蓄積する機会」として捉え直すことで、技術変化に左右されない強固なキャリア基盤を築くことができます。
長男の大学進学費用や住宅ローンなど、今すぐ転職するのが現実的でない方こそ、今の職場で「稼ぎ抜く力」を磨きながら、自分の市場価値を高めていくことが大切です。そうすれば、将来どのような変化が訪れても、自分らしく活躍し続けることができるでしょう。
あなたの20年以上のキャリアは決して古びてはいません。それを新しい文脈で再定義し、次の10年、20年に向けた価値ある資産へと変換していく–それが今すぐに始めるべき「キャリア再定義」なのです。


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