仕事の意味がわからない、毎日が同じ繰り返し…。日本のビジネス社会では、多くの中間管理職がこうした「アイデンティティ迷子」の状態に陥っています。なぜ管理職は働く意味を見失いやすいのでしょうか。今回は、その原因と効果的な対処法について解説します。
アイデンティティ迷子の正体とは?管理職が陥る自己喪失の罠
管理職になると、これまでの自分の専門性や価値観が揺らぎ始めます。「マネジャーが何のために働いているのかわからなくなる問題」は、いわゆる「ミドルエイジ・クライシス」や「アイデンティティ・クライシス」と深く関連しています。
例えば、若い頃は「デザインが好きだからデザイナーになろう」といった明確な動機で就職し、スキルアップを楽しんでいた人も、30代後半や40代になってマネジャーに昇進すると、そのアイデンティティが大きく揺らぎます。
これはなぜ起こるのでしょうか?人のアイデンティティは複数の要素のバランスで成り立っています。管理職になると:
- 後輩の育成や1on1などの新たな役割が増える
- 家族や介護などプライベートの要素も加わる
- 「デザインが好き」といった元々の自分の軸が薄れる
結果として、「今日は後輩のデザインチェックだけで1日が終わってしまった…」「家族の時間もあるから早く帰らなきゃ…」といった葛藤が生まれ、「自分が何をやっているのか」「自分は誰なのか」がわからなくなってしまうのです。
マネジメントスキルを磨けていますか?プレイヤーとは異なる能力開発の盲点
管理職が見失っている2つ目の要素は「マネジメントスキルの探究」です。多くの管理職は、プレイヤー時代に磨いたスキルとは全く異なるマネジメントスキルを習得する必要があるにもかかわらず、その重要性を見落としています。
マネジメント能力は主に以下の4つのスキルで構成されています:
- 目標を設定し、伝える力:チームのミッションを押さえ、部下一人一人のスキルや意欲を見極めて適切な目標設定をする
- 目標への進捗を管理する力:部下に応じた適切な進捗管理を行う
- 状況を把握する力:部下との良好な人間関係を構築し、円滑なコミュニケーションを実現する
- 業務遂行能力:専門知識やスキルを持ちつつ、IT知識などの時代に合った能力も身につける
特に重要なのが、ファシリテーションや1on1で部下のモチベーションに向き合うコミュニケーション能力、そしてチームに方針を伝えるストーリーテリング力です。
プレイヤー時代は「結論から手短に話せ」と求められてきましたが、管理職になっても同じコミュニケーションスタイルを続けると「伝達的な上司」になってしまいます。部下は「なぜこの方向に進むのか?」「自分にどう関係するのか?」という意味づけがないと納得感を持てないため、物語として語る力が必要なのです。
「主語」の問題 – 自分と組織をつなぐ視点の欠如
管理職が陥る3つ目の問題は、「自分主語」と「組織主語」をつなぎ合わせる視座を持てていないことです。
マネジャーになった途端、「なんでもかんでも会社目線で物事を語りだす」というパターンに陥りやすくなります。本人は「マネジャーになったから」という自覚からそうしているのかもしれませんが、周囲からは「この人、どうなってしまったのだろう?」と思われることも少なくありません。
重要なポイントは以下の2つです:
- マネジャーになっても「自分主語」を失わないこと:自分の感情や信念を保持し続け、それをしっかり表現する
- 「自分主語」と「組織主語」をつなぎ合わせること:所属している会社に対して「本当はもっとこうなれるはずだ」と語れる視点を持つ
こうした管理職は、自分の感情や信念(自分主語)だけでなく、組織のありたい姿(組織主語)も踏まえた上で語り、両者を結びつけて周囲を巻き込むようなマネジメントができます。「主語をチームにして考える」視点を持つことで、個人の問題として捉えていた事象が、実は組織やチーム全体の課題を示していることに気づくこともあります。
課長級管理職の厳しい現実 – データが示す疲弊の実態
正社員の中で最もストレスを感じているのは「課長級」(54.5%)で、次いで「主任級以下」(51.6%)、「部長級」(49.7%)と続きます。また、週の勤務時間が40時間を超える割合は「部長級」(45.7%)、「課長級」(45.1%)と、「主任級以下」(24.8%)の約1.8倍にも上ります。
課長級の管理職が抱える問題は以下の点にも表れています:
- 「職場での意見の取り入れられやすさ」が43.7%で「部長級」の62.9%を下回る
- 「職場での人間関係の満足度」も40.4%と「部長級」の52.3%より10ポイント以上低い
- 「職場に自分が成長するよう励ましてくれる人がいる」も40.2%と「部長級」の54.1%より低い
このデータからも、課長級の管理職が組織内で板挟みとなり、精神的にも追い詰められている実態が見えてきます。負担が高い管理職群は、残業増加(47.7%)や学習時間の不足、付加価値業務への未着手など、価値創出につながる業務ができていない傾向があります。
管理職の「働く意味」を取り戻すための実践法
働く意味を見失った管理職が、再び自分のキャリアに意義と喜びを見出すには、どうすればよいのでしょうか?実践的なアプローチをご紹介します。
専門性とマネジメントの融合を目指す
「もはや単なるデザイナーではなくなったから、全然違うスキルを学ばなきゃ」と考えるのではなく、「マネジメントというスキルを習得し、どうやってかつての専門スキルと融合させていこうか?」という視点を持つことが大切です。
これができている人は、自分のキャリアの軸をうまく作り上げ、マネジメントと専門性を両立させています。「マネジメント研修」として以下のようなプログラムも注目されています:
- オンライン教育と集合型研修を組み合わせたアウトプット型学習
- 1on1のデータを活用した実践的なマネジメント研修
- 組織マネジメント力を強化する実践型プログラム
コンフォートゾーンからの脱出を意識する
パフォーマンスの低下は、コンフォートゾーン(居心地の良い安全地帯)にいることで起こる場合があります。目指すべき状態は、管理職を中心にチーム内の心理的安全性を高めながら「ラーニングゾーン」に向かい、チームとしての中長期的なパフォーマンスを高めていくことです。
居心地の良いコンフォートゾーンから脱却し、管理職自身もチームメンバーも、今よりもパフォーマンスを良くしたいという意欲と行動を持つことが必要です。
経営視点(視座)を高める
マネジメント能力を高めるためには、「経営視点」を養うことも重要です。チームのミッションを正確かつ深く理解するには、今の自分のポジションよりも高い視座(経営者に近い視点)で仕事を見ていく必要があります。
会社全体の仕組みや自社のバリューチェーンについて学び、より大きな視点から自分の役割を捉え直すことで、働く意味を再発見できるかもしれません。
働く意味を再発見するために – 自分と組織の未来を描く
管理職が「何のために働いているのかわからない」という迷いから抜け出すためには、自分自身のアイデンティティを再確認し、マネジメントスキルを磨きながら、自分と組織の両方の視点を持つことが重要です。
アイデンティティ迷子になるのは、キャリアの節目では自然なプロセスかもしれません。しかし、それを乗り越えることで、より成熟した管理職として成長できるのです。コンフォートゾーンから抜け出し、新たな挑戦に踏み出す勇気を持ちましょう。
マネジメントというスキルを習得しながらも、自分らしさや専門性を失わない。そして、自分の思いと組織の目指す姿をつなぎ合わせる視点を持つ。それこそが、現代の管理職に求められる姿なのではないでしょうか。
参考情報
- オリコン:https://www.oricon.co.jp/article/2914340/
- ダイヤモンド・オンライン:https://diamond.jp/articles/-/363650
- ITトレンド:https://it-trend.jp/training_for_manager/ranking

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