日本企業で急速に広がるジョブ型雇用。年功序列ではなく仕事の内容で給料が決まるこの仕組みは、厳格に運用されると非常に厳しい能力主義の人事制度となります。管理職になれず、特別なスキルもないふつうの会社員は、この新しい波にどう対応すべきなのでしょうか。
ジョブ型人事とは?日本企業における現状
ジョブ型とは簡単に言えば「仕事によって給与が決まる仕組み」です。パーソル総合研究所の上席主任研究員である藤井薫氏によると、実際のジョブ型採用企業では、管理職層と一般社員層で運用に差があるようです。管理職は比較的ジョブ型のイメージに近く、人事部長、財務部長など、それぞれの職種やポジションに応じた給料設定がされています。一方、一般社員層では職種による給与差は少なく、むしろ業種や企業規模が給料水準に大きく影響しているのが現状です。
近年、富士通や日立製作所、資生堂、KDDI、NECなど、多くの大手企業がジョブ型雇用を導入しています。日立製作所では2024年度中に全社員をジョブ型雇用へ移行することを目指していますし、資生堂も2021年から国内の一般社員にもジョブグレード制度を導入しています。このようにジョブ型雇用は着実に日本企業に浸透しつつあります。
ジョブ型雇用の特徴は「職務記述書(ジョブディスクリプション)」の存在です。これには職種、職務等級、業務内容詳細、評価基準、昇格・降格基準などが明確に記載されています。ジョブディスクリプションにより、求める人材要件や評価基準が透明化され、採用や評価の公平性が高まるという利点があります。
「管理職は罰ゲーム」から「責任に応じた報酬」へ
従来の日本企業では「管理職は罰ゲーム」と言われる状況がありました。責任は重くても給料は一般社員と大差なく、負担だけが増えるというわけです。藤井氏によると、これまでの能力主義的な給与体系では、例えば「係長をする能力がある人」が10人いれば、10人全員に係長クラスの給料が払われていました。
しかしジョブ型では実際に係長のポジションについた人だけにその給料が支払われます。係長ポストが3つしかない場合、ジョブ型では実際に係長についた3人にしか係長の給料が払われないのです。この変化により、企業は「実際の責任に応じて給料を決める」方向に進んでいます。
こうした変化の背景には、海外のグループ会社との整合性を取りたいという理由もあります。海外では職務記述書が当たり前にあり、それに基づいて給料を管理しているのに、日本の本社だけが異なる制度では、グローバルでの人材活用がしづらいという課題があったのです。
厳しさを増す評価制度の実態
ジョブ型人事の導入に伴い、評価制度も厳格化しています。一部の企業では、人事評価結果をS、A、B、C、Dの5ランクで示し、B評価以上が昇給あり、C評価は昇給なし、D評価は減給されるという仕組みを導入しています。つまり「標準」とされるB評価でも、インフレ率を考慮すると実質的な減給になる可能性があるのです。
大手機械メーカーの例では、約1000人の管理職の職務実態を分析した結果、部下はいても必要とされるマネジメントスキルや業務の専門性が高くない人が全体の約2割いたことが判明しました。こうした人材の報酬は下がることになり、同社では制度移行初年度は現行水準を維持しつつ、次年度以降3年間かけて少しずつ減らし、4年目から新しい等級の報酬水準に収めるという移行計画を立てています。
法律上では、評価結果に伴う減給に明確な制限はありません。懲戒処分としての減給は労働基準法91条で「総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と定められていますが、評価結果に伴う減給には法的制限がないのです。ただし、明確な「ここまでは安全」という基準も存在せず、過去の判例も少ないため、企業側も慎重な対応を迫られています。
ジョブ型時代を生き抜くための「ふつうの会社員」の戦略
では、管理職になれない、高度専門人材でもない「ふつうの会社員」はどのように生き抜けばよいのでしょうか。以下に具体的な戦略をご紹介します。
30代で専門性を確立する
30歳から40歳の間に何らかの専門性を確立することが非常に重要です。自社のブランド力に頼らなくても別の会社でも通用するスキルを持つことで、あなたの市場価値は高まります。「この分野については私に任せておけば安心」と言われるような存在になることを目指しましょう。
30歳がキャリアの分岐点であることを認識する
20代前半で就職すると、30歳前後が重要な分岐点になります。この時点で「このまま進んだらどうなるか」を冷静に予測し、必要なら修正行動を取るべきです。大きく分けると「働きながら収入を上げていく道」と「収入が上がらなくても快適に生活できる方法を考える」という二つの選択肢があります。
社内公募制度を活用する
現在の職種や部署に限界を感じたら、社内公募制度を活用することも検討すべきです。ジョブ型システムは社内公募との相性が良く、同じ会社内でも異なるキャリアパスを模索できる可能性があります。社内公募は、全く新しい環境に飛び込む転職よりもリスクが低い選択肢として検討する価値があります。
職種より会社選びを重視する
意外かもしれませんが、IT等の特定分野を除き、給与は主に「業種」「企業規模」「年齢」で決まっていることが多いです。職種による差はそれほど大きくないため、「どの職種を選ぶか」よりも「どの会社に入るか」の方が給与に大きく影響します。転職を考える際は、将来も成長し続ける優良企業を見極めることが重要です。
企業事例に見るジョブ型導入の最新動向
日本企業のジョブ型導入事例からは、様々な工夫が見られます。
富士通では2020年4月からジョブ型雇用を導入し、社員のありたい姿や年度目標を明確にしています。人材レベルをグレードで示し、売上などの定量的な規模に加え、レポートラインや難易度、専門性や職責の重要性などから総合的に評価しています。
日立製作所では「ジョブ型人財マネジメント」という雇用スタイルを設け、「デジタル人財採用コース」を新設して一律の初任給を設けず、個別の処遇設定を盛り込んでいます。さらに、2024年度中には全社員を「ジョブ型雇用」へ移行することを目指しています。
NECでは2024年度からジョブ型の人材マネジメントを全社で導入し、実力が認められれば、飛び級で20代の部長級が誕生することもあるようです。同時に、社内から「経営幹部候補」を約100人選出し、将来的なリーダーになるための長期育成も図っています。
40歳の壁を知り、今からできる準備と対策
多くの会社員は気づいていないかもしれませんが、40歳前後で給与がピークに達する傾向があります。特にジョブ型雇用が進むと、この傾向はより顕著になるでしょう。自分の会社が「昇格しなくても定期的にベースアップする会社なのか、そうでないのか」を把握することが重要です。
若いうちから将来を見据えた準備をすることで、40歳の壁を乗り越える準備ができます。具体的には以下のような対策が考えられます。
- 自社内でどのような能力・スキルが評価されるのかを把握する
- 定期的に自己のスキル棚卸しを行い、市場価値を把握する
- 業界動向を常にチェックし、将来的に必要となるスキルを先取りして習得する
- 社内外のネットワークを広げ、キャリアの選択肢を増やす
- 副業や兼業も視野に入れ、複数の収入源を確保する
まとめ:自分のキャリアは自分で設計する時代に
ジョブ型人事の広がりは、「会社に任せておけば大丈夫」という時代の終わりを意味します。特に管理職になれない、高度専門人材でもない「ふつうの会社員」にとっては、自らキャリアを設計し、市場価値を高める努力が不可欠です。
30歳までに自分のキャリアの方向性を見極め、専門性を高めるか、管理職を目指すかの選択をし、必要に応じて積極的に行動することが重要です。ジョブ型人事は厳しい側面もありますが、実力や成果が正当に評価されるチャンスでもあります。変化する環境に適応し、自分らしいキャリアを築いていきましょう。
参考サイト
JBpress「ジョブ型人事はつらいよ!「ふつうの会社員」の生存戦略」
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/88004
カオナビ人事用語集「日本企業のジョブ型雇用事例【10選】」
https://www.kaonavi.jp/dictionary/jobgatakoyo-jirei/
日経ビジネス「管理職罰ゲーム2025」
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00724/

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