労咳(ろうがい)という言葉をご存じでしょうか?これは現代でいう結核、特に肺結核のことで、かつては「国民病」「亡国病」と呼ばれ、多くの著名人の命を奪ってきました。今では治療法が確立されていますが、かつては恐ろしい病として知られていました。本記事では、労咳(結核)という病気とそれに苦しんだ歴史上の有名人たちについてご紹介します。
労咳(結核)とは何か?恐ろしい「白い死」の正体
労咳は結核菌による肺の感染症で、主に空気感染します。欧米では「白いペスト」という名前で恐れられていました。古くは平安時代の『枕草子』や『源氏物語』にもその描写がみられ、日本では長い間人々を苦しめてきました。
結核の主な症状は以下のようなものです:
- 長引く咳(血の混じった痰を伴うこともある)
- 微熱や寝汗
- 体重減少
- 全身のだるさ
- 食欲不振
結核の怖いところは、症状が現れるまでに時間がかかり、いつ感染したか分からないまま他者に感染を広げてしまう可能性があることです。適切な治療を受けないと、発病者の約半数が死亡するとされていました。
日本の歴史に名を残す労咳で倒れた著名人たち
幕末の志士・剣豪たち
高杉晋作(1839-1867)
幕末の長州藩士として尊王攘夷の志士として活躍した高杉晋作も肺結核の犠牲となりました。わずか27歳という若さで命を落としています。
沖田総司(1842-1868)
新選組一番隊隊長として知られる沖田総司も肺結核に苦しみました。小説や時代劇などでよく描かれる池田屋事件での喀血シーンは有名ですが、実際はこの時点では熱中症のようなものだったとも言われており、結核の症状が本格的に悪化したのは慶応3(1867)年頃からだったとされています。
明治の文豪・芸術家たち
正岡子規(1867-1902)
明治時代を代表する文学者の一人である正岡子規は、死を迎えるまでの約7年間、結核に苦しみました。彼の随筆『病牀六尺』には結核との闘病生活が記されています。
樋口一葉(1872-1896)
5千円札の肖像として知られる小説家・樋口一葉も肺結核により24歳という若さで亡くなりました。「たけくらべ」「にごりえ」「十三夜」といった名作を残しています。
石川啄木(1886-1912)
「一握の砂」「悲しき玩具」を発表した歌人・石川啄木も27歳という若さで肺結核により命を落としました。
この他にも、青木繁や中原中也、中島湘煙など多くの文学者や芸術家が結核で命を落としています。
世界の著名人と結核の関わり
結核は日本だけでなく、世界中の多くの著名人にも影響を与えました。
文学者たち
イギリスの詩人ジョン・キーツ、小説家エミリー・ブロンテ、ロシアの作家アントン・チェーホフ、イギリスの作家ジョージ・オーウェルなどが結核で亡くなっています。
音楽家・芸術家
ピアニスト兼作曲家のショパン、画家のエドヴァルド・ムンクなども結核に苦しみました。
政治家・著名人
南アフリカの元大統領ネルソン・マンデラは1988年に刑務所で結核に感染しましたが、回復しています。アメリカの元大統領夫人エレノア・ルーズベルトも結核で亡くなったとされています。
「ロマンティックな病」との不思議な関係
結核は長い間「ロマンティックな病」とも呼ばれてきました。多くの芸術家や文学者が結核に罹患していたことから、この病気が芸術的才能を高めるという奇妙な信仰さえ生まれていました。
結核による微熱や毒素が患者の感性を鋭くし、人生をより明晰に見る手助けをするという説もありました。もちろん、これには科学的根拠はありません。
現代の日本と結核
かつての猛威は収まったものの、結核は今もなお存在します。2021年には日本でも11,519人の患者が報告されており、年間約1,500人が死亡しています。
お笑い芸人の体験
お笑いコンビ「ハリセンボン」の箕輪はるかさんは2009年に肺結核と診断され、2か月間の入院生活を余儀なくされました。彼女は「結核という言葉に現実味がなくて。昔の文豪がかかるみたいなイメージだった」と当時の心境を語っています。
結核との戦いの歴史
日本の結核対策には北里柴三郎の貢献が大きいです。結核菌を発見したロベルト・コッホの弟子である北里は、1913年に日本結核予防協会を設立しました。
明治・大正時代には年間十数万人が結核で命を落とし、人口10万人あたりの死亡率は200を超えていました。当時は結核が日本人の死因の第1位を占めており、特に若年層に多かったことから国力の低下をもたらす大きな問題でした。
結核の治療薬が発見されたのは20世紀半ばになってからで、それまでは「死の病」として恐れられていました。
労咳から身を守るために
現在、結核は適切な治療を受ければ完治する病気です。標準的な治療ではリファンピシン、イソニアジドという2種類の薬を軸に、複数の抗結核薬を6カ月間服用します。
予防のためには、以下のことが大切です:
- 定期的な健康診断を受ける
- 2週間以上続く咳がある場合は早めに医療機関を受診する
- 免疫力を維持するため、バランスの良い食事と十分な休養を取る
- 予防接種(BCGワクチン)を受ける
かつては多くの著名人の命を奪った結核ですが、現代では早期発見と適切な治療により、恐れられた「労咳」も克服できるようになりました。しかし油断は禁物です。今でも世界中で猛威を振るっている感染症のひとつであることを忘れないようにしましょう。
参考情報
日本ビーシージー製造 https://www.bcg.gr.jp/general/cat1/post_5.html
Japaaan https://mag.japaaan.com/archives/163443
INTO JAPAN WARAKU https://intojapanwaraku.com/rock/culture-rock/92863/


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