オオカバマダラという蝶をご存知でしょうか?北アメリカに生息するこの美しい蝶は、驚異的な長距離移動で世界的に有名です。毎年数百万匹が集団で行う大移動は、昆虫界の驚異とも言える壮大な自然現象なのです。今回は、そんなオオカバマダラの移動距離と、その驚くべき能力についてご紹介します。
オオカバマダラとは?世界でも特別な「渡り蝶」
オオカバマダラ(学名:Danaus plexippus)は、タテハチョウ科マダラチョウ亜科に分類される蝶の一種です。北アメリカでは「Monarch(モナーク=帝王)」と呼ばれ、鮮やかなオレンジ色と黒の模様を持つ美しい蝶です。
特徴的な体色は警戒色として機能しており、幼虫期に食べるトウワタの葉に含まれる有毒成分を体内に蓄積することで、捕食者から身を守っています。翅開長は9.4~10.5cmほどで、日本の一般的な蝶に比べるとかなり大型の部類に入ります。
信じられない長距離移動!3000kmから5000km以上も飛ぶ
オオカバマダラの最も驚くべき特徴は、その長距離移動能力です。記録によれば、カナダでマークされた個体がメキシコで確認され、その移動距離は3,300kmにも達します。さらに、専門家の中には南北アメリカ大陸を5,000kmも移動すると見る人もいます。
毎年秋になると、カナダ南部や米国北部で過ごしていたオオカバマダラは一斉に南下を始め、メキシコ中央部の越冬地を目指します。この途中、1日に300kmも飛ぶことがあるといいます。これは東京から名古屋までの直線距離(約260km)よりも長い距離です。小さな蝶がこれほどの距離を一日で移動するというのは、にわかには信じがたい驚異的な能力です。
秋の南下と春の北上、全く異なる移動パターン
オオカバマダラの移動には大きな特徴があります。秋の南下と春の北上では、まったく異なるパターンで移動するのです。
秋の移動:一世代で一気に南下
8月下旬頃、カナダなどで発生した成虫は交尾をせずに南へ移動を始めます。花の蜜を吸いながら栄養を蓄え、南へと飛び続けます。オオカバマダラは飛翔技術に優れており、羽をそれほど羽ばたかなくても風に乗って滑空し続けることができます。
やがて越冬地に到着した蝶たちは松などの木にとまり、越冬の準備を始めます。越冬地はカリフォルニア州太平洋沿岸のいくつかの場所と、メキシコの主に2カ所に集中しています。
春の移動:数世代かけて北上
気温が暖かくなり始める3月下旬頃、蝶たちは再び移動の準備を始めます。秋の移動時と違い、北へ移動を始めた蝶たちはバラバラに動き、交尾をしながら北上していきます。
メスは食草を見つけると卵を産み付け、その一生を終えます。卵から孵化した次世代の蝶たちは発生を繰り返しながら北上を続け、カナダまでその発生地を広げていきます。春の北上は3世代から4世代にかけて行われるのです。
驚きの事実!自分が行ったことのない場所へ向かう不思議
オオカバマダラの渡りで最も不思議なのは、毎年同じ木に蝶たちが集まることです。蝶たちがどのようにして同じ場所に戻ってくるのかは、未だに完全には解明されていません。
夏に3~4世代発生したオオカバマダラは、夏の終わりにまた交尾をせずに南へと移動を始めます。驚くべきことに、この個体はこれまで一度も見たことのない越冬地へ向かって旅を始めるのです。つまり、移動のパターンが遺伝的に受け継がれていると考えられています。
渡りの際には、太陽や磁気コンパスを頼りにして進んでいると考えられています。これにより、初めての長旅でも正確に越冬地へたどり着けるのでしょう。
移動の航法と効率的な飛行の秘密
最近の研究では、オオカバマダラの羽の白い斑点の大きさが、長距離飛行の効率に関係していることが判明しました。2023年に発表された研究によると、メキシコまでの長旅を終えたオオカバマダラは、途中で捕獲された個体よりも羽の白い斑点が3パーセント大きく、黒い部分が3パーセント少ない傾向があります。
この斑点の配置により、飛行中の羽に温度差が生じ、微小な空気の渦が発生して空気抵抗が小さくなり、効率的な飛行ができると考えられています。こうした特性は、長距離を飛行する上で大きなアドバンテージとなるのです。
日本の「渡り蝶」アサギマダラとの比較
日本にも「渡り蝶」として知られるアサギマダラがいます。アサギマダラもオオカバマダラと同じマダラチョウの仲間です。
アサギマダラは春から夏にかけて台湾・南西諸島から本州・北海道へと北上し、秋には逆のコースで一気に北海道・本州から南西諸島・台湾、時には中国大陸まで南下します。最長移動記録は和歌山から高知を経由して香港まで約2,500kmを83日間で移動した個体です。
オオカバマダラの移動距離が3,000~5,000kmであるのに対し、アサギマダラは最大でも2,500kmほどですが、それでも昆虫としては驚異的な長距離移動能力を持っています。
保全の課題と懸念
残念ながら、オオカバマダラの個体数は減少傾向にあります。越冬地となる森林が多く伐採されたことにより、10億匹近くのオオカバマダラが姿を消したという推計もあります。原因は主に、食草であるトウワタやオオカバマダラの生息地が破壊されたことだと言われています。
北アメリカでは、越冬地を保護区にしたり、トウワタを栽培したりするなどの保護活動が行われています。カナダ政府は本種を「特別懸念」に指定しており、保全の取り組みが進められています。
おわりに
オオカバマダラの驚異的な長距離移動は、小さな昆虫の驚くべき能力を教えてくれます。最大5,000kmも移動するその能力は、人間が想像する以上の自然の神秘を感じさせてくれるでしょう。
次回、蝶を見かけたときには、その小さな生き物がどれほど驚くべき能力を持っているか、想像してみてはいかがでしょうか。特に日本でもまれに見られるアサギマダラを見かけたら、それが台湾や中国大陸から海を越えてやってきた「旅人」かもしれないと思うと、とても感慨深いものがありますね。
参考情報がご覧になれるサイト:
ぷてろんワールド「オオカバマダラの渡り」 https://www.pteron-world.com/topics/world/monarch.html
Wikipedia「オオカバマダラ」 https://ja.wikipedia.org/wiki/オオカバマダラ
東京大学総合研究博物館「アサギマダラとオオカバマダラ」 https://www.um.u-tokyo.ac.jp/UMUTopenlab/library/b_25.html


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