オオカバマダラとアサギマダラ:渡りをする蝶の不思議な生態

自然


渡り鳥のように季節に応じて長距離移動する蝶がいることをご存知でしょうか。北アメリカを代表するオオカバマダラと、日本で見られるアサギマダラは、数千キロメートルもの距離を飛行する驚異的な能力を持つ蝶です。本レポートでは、この2種の特徴、生態、そして長距離移動の謎に迫ります。両種はタテハチョウ科マダラチョウ亜科に属し、毒を持つ特性や優れた飛行能力など共通点がある一方で、その生息域や渡りのパターンには違いがあります。

分類と外見的特徴

オオカバマダラの特徴

オオカバマダラ(学名:Danaus plexippus)は、タテハチョウ科マダラチョウ亜科に分類される蝶です。英名では「Monarch butterfly(帝王蝶)」と呼ばれ、この名前はその主な体色がオレンジ色であることから、イングランド王オレンジ公ウィリアム3世に敬意を表して付けられたという説があります。

外見的特徴としては、翅の色は黄褐色(オレンジ色)で、翅脈と縁は黒く、縁には小さな白い斑点が連なっています。翅開長は9.4~10.5cm程度で、オスはメスよりやや大きいとされています。また、オスとメスを見分ける特徴として、オスの後翅には黒い斑点があり、メスにはこの斑点がなく、黒い翅脈がオスよりも太いという違いがあります。

幼虫は非常に特徴的で、白、黄色、黒の縞模様をしており、頭部と尾部から黒い触手が生えています。この派手な色彩は捕食者に毒を持っていることを警告する「警戒色」の役割を果たしています。

アサギマダラの特徴

一方、アサギマダラ(学名:Parantica sita)もタテハチョウ科マダラチョウ亜科に属する蝶です。名前の「アサギ」は「浅葱色(ごく薄い藍色)」に由来し、その名の通り翅は薄い青緑色をしています。

アサギマダラの翅は薄く透明な青色の斑点があり、黒い翅脈が走っています。特に前翅は鱗粉が少なく、後翅の翅脈は褐色です。翅を開張すると約10cmになります。

幼虫の体色は黒地に大きい黄色の斑点とその周りに白い斑点が並び、頭部と尾部からは2本の黒い触手が生えています。

両種とも成虫は美しい外観を持ちながら、捕食者から身を守るための警戒色や擬態などの戦略を備えています。

分布と生息域

オオカバマダラの分布

オオカバマダラは、アメリカ大陸では、カナダ南部から南アメリカ北部まで広く分布しています。また、バミューダ諸島、クック諸島、ハワイ、キューバ、その他のカリブ海諸島、ソロモン諸島、ニューカレドニア、ニュージーランド、オーストラリア、アゾレス諸島など、世界の多くの地域に分布しています。

日本においては、小笠原諸島や南西諸島で発見された記録はありますが、これらは季節風や台風などに乗って偶然辿り着いた「迷蝶」と考えられており、定着はしていません。同様に、ロシア、イギリス、スウェーデン、スペインなどでも迷蝶として記録されています。

ハワイや東南アジア、オーストラリア、ニュージーランドなどに生息する個体群は、北米の個体群と異なり渡りをせずに定住しています。

アサギマダラの分布

アサギマダラは、日本全土から朝鮮半島、中国、台湾、ヒマラヤ山脈まで広く分布しています。日本では平地から山地、高原まで広く見られ、特に標高の高い山地や高原地帯に多く生息しています。

日本全土で成虫が見られるのは主に5月から10月頃までですが、南西諸島では逆に秋から冬にかけて見られるという特徴があります。これは、両種の生活サイクルと渡りのパターンに関係しています。

生態と行動

オオカバマダラの生態

オオカバマダラの幼虫は、ガガイモ科のトウワタなどを食べて育ちます。この食草に含まれる毒素(アルカロイドなど)を体内に蓄積し、成虫になった後もこの毒を保持しています。この毒が捕食者への防御となっており、例えばコウライウグイスは本種を食べても吐き出してしまいます。ただし、シメなど一部の鳥類には免疫があり、問題なく食べることができます。

成虫は日中に活動し、様々な植物の花から蜜を吸って生活しています。飛行能力に優れており、あまり羽ばたかずに気流に乗って長距離を飛び続けることができます。

興味深いことに、本種の鮮やかな体色は捕食者に有毒であることを知らせるための警戒色であり、カバイロイチモンジ (Limenitis archippus) など、オオカバマダラの翅色に似せた擬態(ベイツ型擬態)をすることで身を守るチョウも知られています。

アサギマダラの生態

アサギマダラの幼虫もガガイモ科のキジョラン、イケマ、カモメヅル、サクラランなどを食べて育ちます。オオカバマダラと同様に、食草から毒素を摂取し体内に蓄積しています。

成虫は日中に活動し、フジバカマ、ヒヨドリバナ、アザミなどのキク科植物の花に集まり、吸蜜します。アサギマダラもオオカバマダラ同様、飛行能力に優れており、あまり羽ばたかずに気流に乗って長距離を飛び続けることができます。

アサギマダラが長距離を飛べる理由として、毒を持っていて捕食者から攻撃されにくいこと、成虫になってから交尾して卵を産めるようになるまでに数週間と他のチョウよりも長くかかるため、この間は交尾や産卵にエネルギーを使う必要がなく飛行に集中できること、成虫寿命が4~5か月と長いこと、そして風に乗って飛ぶのが上手いことなどが挙げられています。

渡りのメカニズム

オオカバマダラの渡り

オオカバマダラの渡りは非常に興味深く、毎年数千キロメートルにも及ぶ長距離移動を行います。北米では、春はカリフォルニア州からメキシコにかけての地域で見られ、これらは世代交代を繰り返しながら徐々に北上し、夏になると北アメリカ中部まで移動します。

8月頃になると、北アメリカ中部で羽化した成虫が交尾もせず、南下を始めます。この世代は多くの花から蜜を吸い、体内に栄養を大量に蓄え、この栄養をエネルギーにして南へと移動していきます。カリフォルニアからメキシコにかけての距離は南北約3500kmほどで、1年のうちに北上と南下を行います。

渡りの際には、太陽コンパスや磁気コンパスを頼りにして進むと考えられています。ロッキー山脈の東側の個体群はメキシコのミチョアカン州に移動して越冬し、西側の個体群はカリフォルニア州の海岸で越冬します。

不思議なことに、毎年同じ木に蝶たちが集まることが知られており、越冬地では集まったチョウの重みで枝がしなることもあるほどです。しかし、なぜ同じ場所に戻ってくるのかはまだ解明されていません。

春になると北方への移動が始まり、メスはこの移動中に卵を産み付けます。北へ移動を始めた蝶たちは、秋の移動時と違い、それぞれバラバラに動き、交尾をしながら北上していきます。

アサギマダラの渡り

アサギマダラは日本で唯一の「渡り」を行う蝶として知られています。1980年頃からマーキング調査が行われ、その移動経路が明らかになってきました。

春から夏にかけては台湾・南西諸島から数世代で本州・北海道へ北上し、秋には逆のコースで一気に北海道・本州から南西諸島・台湾、時には中国大陸まで一世代で南下することが判明しています。2011年には和歌山から高知を経由して香港まで約2,500kmを移動した個体が再捕獲されて話題となり、これが現在の最長移動記録となっています。

春から夏にかけては日本本土の涼しい高原地帯や標高の高い山地を繁殖地とし、秋には気温の低下と共に適温の生活地を求めて南方へ移動を開始し、九州や沖縄、さらに八重山諸島や台湾にまで海を越えて飛んでいきます。南西諸島の暖かい洞窟で冬を過ごし、そこで繁殖した個体や本土温暖地で幼虫越冬した個体は春の羽化後に北上します。

アサギマダラが渡りをする理由については、生活に適した温度の幅が狭いので季節ごとに棲む場所を変える必要がある、好みの花の開花時期に合わせて移動する、棲む場所を変えることで寄生虫の寄生から逃れているなど、いくつかの仮説が提案されています。

保護の課題

オオカバマダラの保護

オオカバマダラは、越冬地となる森林の伐採や生息地の破壊により、個体数が大幅に減少しています。10億匹近くのオオカバマダラが姿を消したという推計さえあります。主な原因は、トウワタおよびオオカバマダラの生息地が破壊されたことであるとされていますが、気候変動、殺虫剤、伝染病なども脅威となっています。

北アメリカ諸国では、越冬地を保護区とする、トウワタを栽培するなどの保護活動が行われています。カナダ政府は、本種を「特別懸念」(Special Concern)に指定しています。

また、メキシコでは、オオカバマダラが越冬のために飛来する時期が「死者の日」の時期と一致するため、親族の霊が蝶の姿をとって戻ってくるものと信じられてきた文化的背景もあり、保護活動が進められています。

アサギマダラの保護

アサギマダラの保護については、検索結果では具体的な情報は少ないですが、マーキング調査により移動経路が研究されています。この研究は市民参加型で行われており、アサギマダラの翅に油性ペンで識別情報を記載し、後日再捕獲することで移動経路を把握する試みです。

アサギマダラの中継地となる場所、例えば姫島のスナビキソウ群落のような場所は、春に北上途中のアサギマダラにとって重要な休息地となっており、これらの場所の保全も重要です。

渡り蝶の進化と適応

興味深いことに、分子系統学的研究によると、オオカバマダラ属は祖先が移動性で、北米から分散して中南米に定住性の種が広く分布するようになったという進化の過程が明らかにされています。

一方、アサギマダラは約6亜種でそれぞれ移動性の有無が異なり、最近の研究によると、本種の祖先は定住性で、一部の個体群(例えば日本亜種)が移動性に派生したと考えられています。これはオオカバマダラとは逆の進化パターンであり、非常に興味深い事実です。

結論

オオカバマダラとアサギマダラは、タテハチョウ科マダラチョウ亜科に属する美しい蝶であり、どちらも毒を持ち、長距離を移動する「渡り」の能力を備えています。オオカバマダラは北米を中心に南北アメリカ大陸で、アサギマダラは東アジアで渡りを行い、それぞれの地域で重要な生態系の一員となっています。

両種の渡りのメカニズムには共通点がありますが、進化の過程は異なっており、オオカバマダラは移動性の祖先から一部が定住性に、アサギマダラは定住性の祖先から一部が移動性に進化したという逆のパターンを示しています。

これらの美しい蝶は、自然界における適応と進化の素晴らしい例であり、季節的な資源の利用や気候変動への対応など、生態学的に重要な知見を私たちに提供してくれます。彼らの保護は、生物多様性の保全だけでなく、私たちの自然に対する理解を深める上でも重要な課題です。

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