私たちが日常的に口にする食品の中には、意外なことに虫から作られた天然着色料が使われていることをご存知でしょうか?カラフルなお菓子やかまぼこ、ハムなどの赤い色は、実は小さな虫から抽出された色素かもしれません。一般的に「天然」という言葉は安全なイメージがありますが、その原料が虫だと知ったらどう思いますか?今回は、食品や化粧品に使われる虫由来の着色料について詳しく解説します。
虫から作られる天然着色料の種類
コチニール色素(カルミン酸色素)
コチニール色素は、中南米原産のコチニールカイガラムシ(エンジムシ)という虫から抽出される鮮やかな赤色の天然色素です。このカイガラムシはサボテンに寄生して生活しており、つぶすと赤い色が出ることから「エンジムシ」とも呼ばれています。アステカ帝国やインカ帝国の時代から染料として利用されてきた長い歴史があります。
驚くべきことに、1kgのコチニール色素を得るためには約8~10万匹ものカイガラムシが必要とされています。現在では、メキシコ、ペルー、南スペインなどで養殖されており、日本にも多く輸入されています。
食品表示では「コチニール色素」「カルミン酸色素」「着色料(カルミン酸)」「着色料(コチニール)」などの名称で記載されています。
ラック色素
ラック色素は、アジアに生息するラックカイガラムシから得られる色素です。食品表示では「ラック色素」「着色料(ラッカイン酸)」「着色料(ラック)」などと記載されています。
ラックカイガラムシは、虫体被覆物と呼ばれる蝋質の分泌物を作り出します。この分泌物を抽出精製したものが「シェラック」と呼ばれ、食品のコーティングや化粧品の原料として利用されています。「ラッカー」という塗料の名前の由来にもなっています。
その他の虫由来成分
「銅クロロフィル」という緑色の着色料もあります。これは桑の葉を食べて成長する蚕(かいこ)の糞から取り出したクロロフィル(葉緑素)と銅を結合させたもので、主に抹茶風味のお菓子に使用されています。
虫由来着色料の使用例
食品での使用
コチニール色素は、その鮮やかな赤色と退色しにくい性質から、様々な食品に利用されています。具体的には以下のような食品に使用されています:
- ハム、ソーセージなどの食肉加工品
- かまぼこ、カニカマなどの魚肉練り製品
- いちご味のヨーグルト、アイスクリーム
- かき氷のいちごシロップ、いちごジャム
- キャンディやマカロンなどのお菓子
- 各種ジュース
また、以前はカンパリというお酒にも使われていましたが、現在は別の着色料に変更されたようです。
化粧品での使用
化粧品にも広く使用されています。特に赤系、ピンク系の色で着色された商品に多く含まれています:
- 口紅、リップグロス
- チーク
- アイシャドウ
「天然色素だけで色をつけています」とうたっている化粧品には、カルミンが使われていることが多いとされています。
天然色素と合成着色料の違い
安全性の比較
着色料には「天然着色料」と「合成着色料」があります。天然着色料は動植物などを原料として作られた着色料で、合成着色料は化学的に作られた着色料です。
近年、石油から作られる合成着色料(タール色素)は「体に悪い」「ガンになる」などと言われるようになり、食品や化粧品で避けられる傾向があります。そこで代替として登場したのが、「天然」という印象を持つコチニール色素などです。
しかし、合成着色料は厳しい基準をクリアしたものしか使用できないのに対し、天然着色料は比較的簡単な検査で商品化できるという事実もあります。「天然だから安全」という考え方は必ずしも正しくないかもしれません。
表示の違い
合成着色料は「赤色3号」「赤色104号」などの番号で表示されることが多いですが、天然色素は「コチニール色素」「カルミン酸」などの名称で表示されます。どちらも添加物として原材料表示の下部に記載されることが多いので、見逃さないように注意が必要です。
虫由来着色料のアレルギーリスク
アレルギー症状と原因
コチニール色素は、色素そのものに含まれる成分よりも、製造過程で取り除かれずに不純物として混入した昆虫由来のたんぱく質が原因となってアレルギー反応を引き起こす可能性があります。
症状としては以下のようなものが報告されています:
- 皮膚の発疹やかゆみ
- じんましん
- 顔や喉の腫れ
- 重篤な場合は呼吸困難やアナフィラキシーショック
特に注意すべきなのは、化粧品に含まれるカルミンが皮膚から体内に入り、その後食品に含まれるコチニールを摂取することでアレルギーを発症する可能性があるという点です。これは10年前に話題になった「茶のしずく石鹸」による小麦アレルギー発症と似たメカニズムだとされています。
日本アレルギー学会特別委員会もコチニール色素によるアレルギーについて緊急提言を行っており、現時点では女性に限って発症事例が報告されているようです。
対策と予防法
コチニール色素アレルギーを予防するためには、以下の対策が効果的です:
- 食品や化粧品の原材料表示をしっかりと確認する
- 赤系・ピンク系の色で着色された商品に特に注意する
- アレルギー症状が出た場合は速やかに医師に相談する
近年では、アレルギーリスクを低減した「低アレルゲンコチニール色素」の開発も進んでおり、日本で食品に使われているものの多くは改良を重ねたものになっているようです。
知らないうちに食べている他の虫
食品添加物以外にも、私たちは知らないうちに虫を口にしている可能性があります。例えば:
- 米にはコクゾウムシという穀物害虫が混入していることがある
- ブロッコリーの葉の裏や蕾の隙間にはアブラムシやコナガなどの虫が潜んでいることがある
- 開封した米や小麦粉、お菓子にはノシメマダラメイガという虫がつくことがある
アメリカでは食品への虫の混入に関する明確な基準(食品〇gに対して何匹以下など)がありますが、日本ではそのような基準は厳格ではありません。
どう付き合うべきか?考えるべきこと
「天然」という言葉に安心感を抱きがちですが、必ずしもすべての天然素材が安全であるとは限りません。かといって、すべての添加物に対して神経質になりすぎるのも問題です。
完全に安全なものは存在せず、どんな食品にもリスクはあります。大切なのは、正しい知識を持ち、自分自身で判断することではないでしょうか。
アレルギーの心配がある方は原材料表示をしっかり確認し、不安な場合は医師に相談することをおすすめします。一方で、虫由来だからといって必ずしも危険というわけではなく、多くの人にとっては問題なく摂取できる成分でもあります。
将来的に昆虫食が一般的になれば、こうした「虫」に対する認識も変わっていくかもしれません。
天然と合成、どちらを選ぶべき?
天然由来のコチニール色素と、化学的に合成された着色料のどちらを選ぶべきかは難しい問題です。
合成着色料は厳しい基準をクリアしたものが使用されていますが、「化学物質」というイメージから敬遠されがちです。一方、天然由来のコチニール色素は「自然」というイメージがありますが、アレルギーのリスクがあります。
最終的には、個人の価値観や体質に合わせて選択することが大切です。原材料表示を確認し、自分の体に合わないものは避けるという姿勢が重要ではないでしょうか。
まとめ
私たちが日常的に口にしている食品や使用している化粧品には、虫由来の天然着色料が使われていることがあります。コチニール色素やラック色素などは、天然由来というイメージから安全と思われがちですが、アレルギーのリスクもあることを知っておくべきでしょう。
「天然=安全」「合成=危険」という単純な図式ではなく、それぞれのメリットとデメリットを理解したうえで、自分自身の判断で選択することが大切です。特にアレルギー体質の方は、食品や化粧品の原材料表示をしっかりと確認する習慣をつけましょう。
食品と私たちの関係は複雑です。すべてを恐れるのではなく、正しい知識を持って適切に付き合っていくことが、健康で豊かな食生活につながるのではないでしょうか。
【参考サイト】
・note「虫から作られる着色料。食べものや、化粧品にも。」 https://note.com/ffh_academy/n/n8a2caa059119
・bugoom「知らないうちに虫を食べてるかも!?」 https://bugoom.jp/blog/other/insect-eating-without-knowing/
・CanEat「コチニール色素アレルギーとは?」 https://about.caneat.jp/column/cochinealdye-allergy/


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