環境問題への関心が高まる中、プラスチックごみによる海洋汚染や微細プラスチック(マイクロプラスチック)の問題が大きく取り上げられています。そんな中で注目を集めているのが「生分解性プラスチック」です。使い終わった後に自然界の微生物によって分解される、環境に優しい素材として期待されています。この記事では、生分解性プラスチックとは何か、どのような原料から作られているのか、そして今後の可能性について詳しく解説します。
生分解性プラスチックとは
生分解性プラスチックは、微生物による分解の作用に応答して性質が変化するスマートポリマーの一種です。1989年の生分解性プラスチック研究会(現:日本バイオプラスチック協会)によれば、「自然界において微生物が関与して環境に悪影響を与えない低分子化合物に分解されるプラスチック」と定義されています。
さらに1993年のアナポリスサミットでは、「生分解性材料とは、微生物によって完全に消費され自然的副産物(炭酸ガス、メタン、水、バイオマスなど)のみを生じるもの」と定義されました。
生分解性プラスチックの特徴
生分解性プラスチックには、以下のような特徴があります:
- 使用後は自然界に存在する微生物の働きで、最終的に水と二酸化炭素に分解される
- 環境分解性の完全生分解性プラスチックは、微生物などによって分解し、最終的に水と二酸化炭素に完全に分解する
- 認証基準には地域差があり、日本バイオプラスチック協会は「3カ月で6割以上が分解」、ヨーロッパでは「2年以内に9割以上が分解」としている
- 種類によって分解能を示す環境が異なる(例:ポリ乳酸はコンポスト中では分解するが、海洋ではほとんど分解しない)
生分解性プラスチックの原料分類
生分解性プラスチックは、原料の由来によって大きく3つに分類することができます。それぞれの特徴を見ていきましょう。
バイオマス由来の生分解性プラスチック
バイオマス由来の生分解性プラスチックは、植物などの再生可能な資源を原料としています。主なものには以下のようなものがあります:
- ポリ乳酸(PLA)
- トウモロコシなどのデンプンから合成される
- 通常の環境下ではほとんど分解せず、コンポスト中では半年程度でほぼ分解
- 低耐熱性や透明性の特性があり、冷凍食品の包装材やレジ袋、農業用シートなどに使用
- ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)
- 微生物が体内に蓄積するポリマーを精製して生産される「微生物産生ポリエステル」
- 土中だけでなく、海中においても生分解性を有する
- PHBHなどのさまざまな共重合体が存在する
- レジ袋、カトラリー、ストローなどに利用
- 変性澱粉
- デンプンに熱可塑性をもたせた材料
- 単独ではプラスチックの性質がないため、他の生分解性プラスチックとブレンドして使用
- セルロース誘導体
- 植物によってつくられるセルロースの加工性を改良したもの
- 低置換度セルロースアセテートなど
石油由来の生分解性プラスチック
石油由来でありながら生分解性を持つプラスチックもあります:
- ポリブチレンサクシオネート(PBS)
- コハク酸と1,4-ブタンジオールから合成
- 従来は石油から製造されることが一般的
- 三菱ケミカルグループは原料のコハク酸を植物由来に転換したBioPBS$2122を開発
- ポリカプロラクトン
- 石油由来でありながら生分解性を持つ
- PET共重合体
- 石油由来の生分解性プラスチックの一つ
混合由来の生分解性プラスチック
バイオマスと石油原料を組み合わせた生分解性プラスチックもあります。これらは部分的にバイオマス由来の原料を使用することで、環境負荷の低減を図っています。
生分解性プラスチックの用途と市場動向
多様な利用分野
生分解性プラスチックは、その特性を活かしてさまざまな分野で利用されています:
- 食品包装材(紙コップのラミネート材、コーヒーカプセルなど)
- 使い捨て食器類(カトラリー、ストロー)
- 買い物袋(レジ袋、ショッピングバッグ)
- 農業用資材(マルチフィルム)
- 日用品(化粧品容器など)
- BB弾などの使い捨てを前提とした製品
特に農業用マルチフィルムとして使用される場合、作物収穫後に畑にすき込むだけでフィルムが自然と分解されるため、回収作業が不要となり、農作業の省力化と廃棄物削減に大きく貢献しています。
市場の成長予測
生分解性プラスチック市場は急速に成長しています。市場規模は2023年に73億8,000万米ドルと推計され、2024年には83億1,000万米ドルに達し、CAGR 12.60%で2030年には169億6,000万米ドルに達すると予測されています。
この成長の背景には、以下のような要因があります:
- 使い捨てプラスチックの廃棄に関する政府の厳しい規制
- 環境保護に対する国民の意識の高まり
- 3Dプリンティング材料やバイオメディカル機器などの新たな用途における需要の増加
生分解性プラスチックの特性と課題
分解性能の違い
生分解性プラスチックであっても、その種類によって分解能を示す環境は異なります:
- ポリ乳酸(PLA):コンポスト中では分解するが、海洋ではほとんど分解しない
- ポリヒドロキシアルカン酸(PHA):海洋中の微生物でも分解される
- ポリブチレンサクシネート(PBS):海洋中の微生物でも分解される
このため、使用用途や環境ごとに、適切な分解能を持つ材料の選択が重要です。
物理的特性の課題
生分解性プラスチックの中には、湿度や水などの影響で外観の変化や引張強さの低下、硬さの低下、破断伸びの上昇を生じるものがあります。このような性質は用途によっては欠点となる場合があります。
また、生分解性プラスチックは「分解されにくい」というプラスチックの特徴をあえて捨てた素材であるため、耐久性を求められる用途には向いていません。
コストの課題
バイオベース材料は従来の石油由来プラスチックよりも製造コストが高いため、普及が進まない面もあります。特にポリヒドロキシアルカン酸(PHA)やポリブチレンサクシネート(PBS)は、ポリエチレンやポリプロピレンといった汎用プラスチックより高価であるため、普及が遅れています。
研究開発の最新動向
海洋生分解性プラスチックの開発
マイクロプラスチック問題の解決に向けて、海洋でも分解される生分解性プラスチックの開発が進められています:
- NEDOの「海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業」(2020年度~2024年度)では、海洋生分解性プラスチックの市場導入を促進し、普及拡大を加速させるための研究が行われています
- 海洋生分解性メカニズムに裏付けされた評価手法の開発と海洋生分解性プラスチックに関する新技術・新素材の開発が行われています
- 海洋生分解性を高める樹脂添加剤や、パーソナルケア製品や塗料に添加するプラスチックビーズの代替品として、粒子形状の海洋生分解性素材の開発も進められています
物性改善の取り組み
生分解性プラスチックの物理的特性の改善も重要な研究課題です:
- ポリ乳酸(PLA)とポリヒドロキシアルカノエート(PHA)をブレンドして物理的特性を改善する研究が進められています
- PLAは硬くて脆いという欠点があり、柔軟なプラスチックであるPHAとブレンドすることで、靭性を改善し、透明なブレンドフィルムを生産することを目指しています
原料開発の新たな方向性
生分解性プラスチック原料の新たな開発方向性としては:
- カネカ株式会社は、植物油脂等のバイオマスを主原料にして、新しい生分解性プラスチックPHBHを開発しています
- サトウキビを原料としたバイオマスポリエチレン(グリーンポリエチレン)の開発・生産が進められています
- これらはバイオマス由来でありながら、生分解性を持つものもあれば持たないものもあります
まとめ:生分解性プラスチックの未来
生分解性プラスチックは、プラスチックごみ問題やマイクロプラスチック問題の解決策として期待される一方で、原料の選定や製造コスト、物性の改善など、いくつかの課題も残されています。
バイオマス由来の生分解性プラスチックは、再生可能資源を原料とすることで、石油への依存度を下げるとともに、カーボンニュートラルな素材として二酸化炭素排出量の削減にも貢献します。一方で、食料との競合や生産能力の拡充などの問題も指摘されており、今後の需要増に対応するためには、これらの課題解決も重要です。
今後は、バイオマス原料の多様化や製造技術の革新、物性の改善によってコストダウンと品質向上を両立させ、より幅広い用途での利用が期待されます。特に「使い捨て」を前提とした製品や、回収が困難な用途では、生分解性プラスチックの活用が進むでしょう。
地球環境問題と向き合いながら、資源循環型社会を構築していくために、生分解性プラスチックはますます重要な役割を担っていくことでしょう。
参考情報
日本バイオプラスチック協会
https://www.jbpaweb.net/
NEDO 海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100168.html
一般社団法人プラスチック循環利用協会
https://www.pwmi.or.jp/


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