生分解性プラスチックは微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解される環境配慮型の素材として注目を集めています。この記事では生分解性プラスチックの原料とその種類、特性や課題について詳しく解説します。環境問題への関心が高まる中、どのような原料からどのようなプラスチックが作られているのか、その全貌に迫ります。
生分解性プラスチックとは?基本と仕組みを理解しよう
生分解性プラスチックとは、微生物の働きによって「水」と「CO2」に分解され、自然へ還る性質を持つプラスチック素材のことです。通常のプラスチックは自然界に流出すると分解されずに半永久的に残り続けますが、生分解性プラスチックは自然の循環に戻ることができます。
この特徴的な性質から、海洋プラスチックごみ問題などの環境問題に対する解決策として期待されています。特に重要なのは、生分解性とバイオマス由来という概念は異なるという点です。生分解性があれば原料が何であるかは問わないのです。
生分解のメカニズム
生分解性プラスチックの分解プロセスは以下の流れで進みます:
- 微生物が分泌する酵素によって高分子が低分子化される
- 低分子化された物質が微生物に取り込まれ、更に分解される
- 最終的に水と二酸化炭素に完全分解される
このプロセスにより、自然環境に負担をかけることなく循環する仕組みが実現します。ただし、分解には温度・湿度・周辺環境など様々な要因が影響します。
生分解性プラスチックの三大原料区分
生分解性プラスチックは、原料によって大きく3つに分類することができます。
バイオマス由来の生分解性プラスチック
再生可能な生物資源を原料とするもので、主に植物由来の原材料から作られます。
代表的な素材と原料:
- ポリ乳酸(PLA):トウモロコシやイモ類などのデンプンを酵素で加水分解して発酵させ、得られるL-乳酸から化学的な重合反応で合成します。通常の環境下ではほとんど分解せず、コンポスト内で半年程度でほぼ分解される特徴があります。
- ポリヒドロキシアルカン酸(PHA):植物油や糖などを微生物発酵させて生成されるポリエステルです。ヒドロキシブタン酸の重合体で、土壌や海洋、河川など多様な場所で分解されるという特徴があります。
- サトウキビ由来バイオマスポリエチレン:サトウキビから作られるバイオエタノールを原料としたプラスチックです。天然かつ再生可能な炭素から生成され、サトウキビの光合成作用によってCO2を吸収するため、カーボンニュートラルな素材として注目されています。
石油由来の生分解性プラスチック
石油など化石資源を原料としながらも、微生物によって分解される性質を持ったプラスチックです。
代表的な素材:
- ポリカプロラクトン(PCL):石油を原料として合成されますが、生分解性を持つポリエステルです。
- ポリブチレンサクシネート(PBS):石油由来のナフサを主な原料として製造される生分解性プラスチックです。海洋中の微生物でも分解される特性があります。
- ポリビニルアルコール:化学合成によって作られる水溶性の生分解性プラスチックです。
- ポリグリコール酸:医療用の縫合糸などにも使われる生分解性素材です。
バイオマスと石油の混合由来の生分解性プラスチック
バイオマス由来成分と石油由来成分を組み合わせて作られる生分解性プラスチックです。
代表的な素材:
- バイオPBS:ポリブチレンサクシネートのバイオマス由来バージョンです。
- 澱粉ポリエステル:植物由来の澱粉とポリエステルによって製造されます。入手しやすい一方、力学的性能が低く、加工性や耐水性もよくないといった特徴があるため、ポリビニルアルコール(PVA)などを添加して改良されています。
- 酢酸セルロース:木材繊維などのセルロースと酢酸によって製造され、堆肥や土壌中、海水中で1$301C3年程度で分解します。
原料から見た生分解性プラスチックの多様性
生分解性プラスチックの原料は非常に多様で、様々な植物資源が活用されています。
植物原料の種類と特徴
生分解性プラスチックの原料として利用される植物には以下のようなものがあります:
- サトウキビ:大気中のCO2を多く吸収できる光合成の能力が高く、バイオマスの生産性が高いため、バイオエタノールの原料として適しています。
- トウモロコシ:デンプンを多く含み、ポリ乳酸(PLA)の原料として広く使用されています。
- 小麦、タピオカ、じゃがいも:デンプン源として利用されます。
- 大豆、ココナッツ、アザミ:植物油の供給源として使用されます。
- 木材、松葉:セルロース源として利用されます。
- ヒマ:バイオPA(バイオポリアミド)の原料となる油脂を提供します。
微生物による生産
一部の生分解性プラスチックは微生物の力を借りて生産されます:
- PHA(ポリヒドロキシアルカン酸):特定の微生物が糖や脂肪酸を代謝して体内に蓄積する物質で、これを取り出してプラスチック原料とします。
- 微生物発酵によるポリヒドロキシン酪酸:微生物が産生するポリエステルの一種です。
生分解性プラスチックの分解特性と環境
生分解性プラスチックの分解速度や分解環境には大きな違いがあります。
分解環境による違い
生分解性プラスチックは分解される環境によって性能が異なります:
- コンポスト分解性:ポリ乳酸(PLA)のように、コンポスト内では分解するが海洋ではほとんど分解しないものがあります。
- 海洋分解性:ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)やポリブチレンサクシネート(PBS)のように、海洋中の微生物で分解されるものがあります。
- 土壌分解性:様々な生分解性プラスチックが土壌中で分解されますが、温度・湿度・微生物の状態などの条件により分解速度は大きく変わります。
分解速度を決める要因
生分解性プラスチックの分解速度は様々な要因によって左右されます:
- 化学構造:脂肪族ポリエステルのような分子構造は微生物に分解されやすい傾向があります。
- 分子鎖構造:同じ化学構造を持っていても、らせん構造か平面ジグザグ構造かによって分解速度が異なります。平面ジグザグ構造の方が速く分解されるという研究結果もあります。
- 非晶・結晶構造:プラスチック材料には非晶領域と結晶領域が存在し、一般的に非晶領域から優先的に分解が進行します。
- 環境条件:温度、湿度、周辺の微生物の種類や量などの条件が分解速度に大きく影響します。
生分解性プラスチックの用途と市場
生分解性プラスチックは様々な分野で活用されています。
主な用途
- 食品包装材:冷凍食品の包装材やレジ袋
- 農業用資材:農業用シート、ハウス用フィルム
- 使い捨て製品:カトラリー、ストロー、食品容器
- コンポスト袋:生ごみ処理用の袋
- 医療用材料:縫合糸などの医療用材料
現状と課題
生分解性プラスチックには以下のような課題があります:
- 高コスト:通常の樹脂材料と比較すると材料コストが高い(例:ポリプロピレン 約300円/kg vs. ポリ乳酸 約1000円/kg)
- 品質保証の難しさ:分解しやすい構造である特性上、製品としての長期間の品質保証が難しい
- 特定条件での分解:実際の分解には特定の条件が必要で、自然環境下ではどの程度の期間で分解されるか見通しづらい
- 専用設備の必要性:適切に分解させるためには専用設備が必要な場合もある
今後の展望と技術開発
生分解性プラスチックの分野は日々進化しており、様々な研究開発が進められています。
技術革新の方向性
- コスト低減への取り組み:大量生産技術の向上や新たな原料の開発によるコスト低減
- 物性の改良:耐熱性や強度などの物性を向上させる研究
- 新たな原料開発:食料と競合しない非可食性バイオマスの活用
- 分解メカニズムの解明:より効率的な分解を促進する技術開発
政策と市場の動向
2022年4月から「プラスチック資源循環促進」が施行され、今後さらに生分解性プラスチックへの注目が高まると考えられます。環境問題への取り組みが世界的に強化される中、生分解性プラスチックの市場は拡大が見込まれています。
まとめ:適材適所の生分解性プラスチック選択が重要
生分解性プラスチックは、原料や製法、分解条件などによって特性が大きく異なります。環境問題解決のためには、使用用途や廃棄後の環境を考慮した適切な素材選びが重要です。コスト面や物性面での課題はあるものの、技術革新によって徐々に解消されつつあり、今後さらなる普及が期待されています。
生分解性プラスチックの原料は多岐にわたり、バイオマス由来、石油由来、混合由来のものがあります。環境への配慮と実用性のバランスを考慮しながら、目的に合った生分解性プラスチックを選ぶことが、持続可能な社会の実現に向けた一歩となるでしょう。
参考情報
- プラスチックに係る資源循環の促進等 – https://plastic-circulation.env.go.jp/shien/bio/bio
- サニパック – https://www.sanipak.jp/faq/words/sugar_cane.html
- フィーサ – https://www.fisa.co.jp/molding_term/biodegradable_plastic.html

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