プラスチックごみによる環境汚染が深刻化する中、生分解性プラスチックは解決策として注目されています。自然界の微生物によって分解され、最終的に水と二酸化炭素に変わるという特性は、海洋プラスチックごみ問題の救世主とも期待されています。しかし、普及が進まない現実には、さまざまな課題が隠れています。今回は生分解性プラスチックが抱えるデメリットと、それらを克服するための最新の取り組みや解決策について詳しく解説します。
普及の壁となる6つのデメリット
高すぎる製造コスト
生分解性プラスチックの最も大きな問題点はコストです。現状では通常のプラスチックと比較して5~10倍以上の価格となっています。これは研究開発や生産プロセスに手間がかかるためであり、また植物由来の原料を使用する場合は原料費の高騰などの影響も受けやすいという側面があります。
企業側は「多量に使ってくれれば安価に供給できる」と主張し、利用者側は「安価になれば使用量を増やせる」と返答するなど、両者の折り合いがつかない状況が長年続いています。この高コスト問題は、生分解性プラスチックの普及を妨げる最大の障壁と言えるでしょう。
物性面での弱点
生分解性プラスチックは、その特性上、耐熱性や強度が従来のプラスチックに比べて劣ります。例えば、印鑑登録証を生分解性プラスチックで作ったところ、長期保管中に劣化してしまい、材質を変えて作り直さざるを得なくなったという事例もあります。
また、「硬い・成型しづらい」という加工性の問題も実用面での課題となっています。このような物性面の弱点により、使用用途が制限され、メーカー側も品質保証上の懸念から採用を躊躇するケースが多いのです。
分解条件の限定性と時間
生分解性プラスチックの最大の特徴であるはずの「分解性」にも課題があります。生分解性は環境によって大きく異なり、完全に分解するまでに長い年月がかかることがあります。日本バイオプラスチック協会(JBPA)では、生分解性の基準として3か月で対象物の60%以上が分解されることを定義していますが、実際の自然環境ではそれ以上の時間がかかることもあります。
さらに問題なのは、分解条件が限定的であることです。例えば、海洋プラスチック問題の解決に期待されるのは水環境で分解される種類のものですが、生分解性プラスチックの中でもPHBH(ポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)などのごく一部に限られています。有名なPLA(ポリ乳酸)はコンポストでの高温多湿な環境では分解されますが、通常の土壌環境や水環境では分解されにくいという特性があります。
リサイクルシステムとの不整合
生分解性プラスチックは、既存のリサイクルシステムとの相性も良くありません。まず、その分解しやすい性質のために、マテリアルリサイクル(廃棄物を製品原料として再利用する方法)が困難です。
また、適切な分別をしなければその特性を活かせないという問題もあります。例えば東京都では2008年からプラスチックと他のごみを一緒に回収して焼却処理を行っていますが、このシステムでは生分解性プラスチックの利点を全く活かせていないことになります。
環境面での新たな懸念
一般的に環境に優しいと思われている生分解性プラスチックですが、そのすべてが環境負荷を減らすわけではありません。原料が石油由来であれば、カーボンニュートラルとは言えないという問題があります。PVA(ポリビニルアルコール)やPGA(ポリグリコール酸)などの石油を原料とする生分解性プラスチックは、生成や焼却時のCO2排出量がバイオマスプラスチックより多くなります。
また、生分解性プラスチックの処理に必要なコンポスト施設などの特殊な処理施設が不足しているという現実もあります。適切な処理施設がなければ、その環境メリットを十分に発揮できないのです。
消費者の理解不足
生分解性プラスチックは、「自然に分解される」というイメージが先行しているため、消費者が誤った認識を持つケースも少なくありません。実際には適切な環境を人間が作らないと分解が進まないことがあるにもかかわらず、「自然に分解してくれる」と考えて環境中に捨ててしまう人もいます。
また、生分解性プラスチックと従来のプラスチックは見た目や触感では区別がつきにくいため、混在させてしまうリスクもあります。このような消費者の理解不足も、生分解性プラスチックの普及と適切な利用を妨げる要因となっています。
革新技術がもたらす壁の突破口
強靭性と生分解性を兼ね備えた次世代素材
生分解性プラスチックの物性面での弱点を克服する画期的な技術開発が進んでいます。神戸大学と産業技術総合研究所、カネカの共同研究グループは、「強靭性」と「生分解性」を両立する次世代型ポリ乳酸の開発に成功しました。
このプラスチック素材は使用時は「強靭」でありながら、使用後は海水中でも速やかに「生分解」されるという特性を持っています。従来の技術では両立が難しかったこれらの性質を、水素細菌を徹底的に改造することで実現しました。ポリ乳酸に少量添加するだけで「成型加工性」と「耐衝撃性」の課題を克服できるため、実用的なバイオプラスチック製品の開発に大きく貢献すると期待されています。
微生物埋込型プラスチックの革新
群馬大学の研究グループは、「摩耗スイッチ搭載海洋生分解性プラスチック(微生物埋込型プラスチック)」という画期的な素材を開発しました。この新素材は、生分解性プラスチックにあらかじめ分解酵素を生産する微生物を埋め込むというもので、海洋での生分解速度が遅いという従来の欠点を克服しています。
微生物は初めは休眠状態で封じ込められているため、プラスチックはしばらく丈夫な状態を保ちます。使用しているうちに摩擦ですり減り、劣化し始めると材料内部の微生物が目覚めて増殖し、分解酵素を生産して急速に生分解が進むという仕組みです。この技術は、プラスチック環境資材や漁具などへの応用が期待されています。
海洋生分解性プラスチックの評価技術の確立
NEDOでは「海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業」を推進しています。この事業では、海洋生分解メカニズムに裏付けされた評価手法の開発と、海洋生分解性プラスチックに関する新技術・新素材の開発を行っています。
特に評価手法の確立は重要で、各海洋域における生分解性の基礎データ収集や、メカニズムの解析、安全性評価試験などを実施しています。これらの成果は2024年度に実用化され、ISO国際標準化にも繋げる計画です。標準化された評価方法は、新素材開発の加速と信頼性向上に大きく貢献するでしょう。
制度とインフラの整備による普及促進
バイオプラスチック導入ロードマップの策定
環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省は共同で「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定しました。このロードマップでは、持続可能なバイオプラスチックの導入方針と、導入に向けた国の施策が示されています。
特に注目すべき点は、2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入するという具体的な目標です。このような国レベルでの明確な目標設定と政策推進は、生分解性プラスチックを含むバイオプラスチック普及の強力な後押しとなります。
国際的な政策枠組みの整備
欧州委員会は、バイオベースのプラスチック、生分解性プラスチック、堆肥化可能プラスチックに関する政策枠組みを発表しています。この枠組みでは、環境負荷を軽減する前提条件や基準を提示し、循環型経済への貢献指針を示しています。
例えば、生分解性プラスチックについては、単に従来型のプラスチックを置き換えるだけではリサイクルの健全な発展を阻害するリスクがあると指摘し、特定の用途に使用を限定するよう提言しています。農業用マルチフィルムなど環境流出がある程度見込まれる用途への適用が推奨されています。
処理施設の整備と回収システムの改革
生分解性プラスチックの環境メリットを最大化するには、適切な処理施設の整備が不可欠です。特にコンポスト施設は生分解性プラスチックの分解に理想的な環境を提供します。
農林水産省では、生分解性プラスチック製の生ごみ袋を用いた肥料の生産に関するガイダンスを整備し、生分解性プラスチックを肥料の生産工程中で分解させる場合の留意点などをまとめています。このような制度整備により、生分解性プラスチックの適切な処理と再資源化が進むことが期待されます。
実践的活用法と成功事例
従来のプラスチックとの賢い併用
一気に全てを生分解性プラスチックに置き換えるのは現実的ではありません。まずは従来のプラスチックと併用するところから始めるのが賢明です。特に、直接自然に流出する可能性が高い製品や、業務効率化に直結する非耐久財を優先的に生分解性プラスチックに置き換えることで、大きな効果が期待できます。
ただし、従来のプラスチックと併用する場合は、必ず分別して処分することが重要です。適切な分別によって、それぞれの素材の特性を最大限に活かすことができます。
用途に適した素材選択
生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックの特性を理解し、用途に応じて適切に使い分けることも重要です。例えば、湿気の多い環境で使う製品には水に強い素材を、長期保存が必要な製品には耐久性のある素材を選ぶといった配慮が必要です。
欧州委員会も、生分解性プラスチックの使用例として農業用マルチフィルムを挙げており、土壌環境に残りやすい用途に特化して活用することを推奨しています。このように特性を活かせる用途を見極めることが、生分解性プラスチックの効果的な活用につながります。
自然由来素材との組み合わせ
生分解性プラスチックと自然由来の素材を組み合わせることで、よりエコな製品開発が可能になります。例えば、廃棄予定のコーヒー抽出後のかすと生分解性プラスチックを混ぜた製品は、土に還る特性と廃棄物の再利用という二つの環境メリットを兼ね備えています。
このような「生分解性プラスチック×自然由来素材」の組み合わせは、環境負荷の低減と独自性の両立を実現し、企業の差別化戦略にもつながる可能性があります。
未来へつなぐ持続可能な取り組み
コスト削減への道筋
生分解性プラスチックの最大の課題であるコスト問題は、技術革新と量産化によって徐々に解消されつつあります。より効率的な生産プロセスの開発や、安価な原料の活用などによって、従来のプラスチックとの価格差は縮小していくと予想されます。
特に、廃棄物や製造過程で生じる副産物を原料として活用する取り組みは、コスト削減と資源の有効利用の両面で効果的です。欧州委員会もバイオベースのプラスチックについて、食用作物由来の原料使用を最小化し、有機性廃棄物や副産物由来の原料使用を優先することを推奨しています。
技術革新の加速
生分解性プラスチックの分野では、技術革新が加速しています。神戸大学の次世代型ポリ乳酸や群馬大学の微生物埋込型プラスチックなど、従来の常識を覆す革新的な技術が次々と生まれています。
NEDOの「海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業」でも、新規の化学構造を有する樹脂や新規のバイオ製造プロセスの開発、既存の樹脂を複合化して物性や機能性を高める開発などが行われています。これらの技術開発の成果が実用化されれば、生分解性プラスチックの適用範囲は大きく広がるでしょう。
消費者意識と社会システムの変革
生分解性プラスチックの普及には、消費者の意識改革も不可欠です。適切な廃棄方法や素材の特性に関する正確な情報提供により、誤った廃棄や過剰な期待を防ぐことが重要です。
また、生分解性プラスチックの特性を活かせるごみの回収・処理システムの整備も急務です。各自治体での分別収集の徹底やコンポスト施設の増設など、社会インフラの整備が進めば、生分解性プラスチックの環境メリットを最大限に引き出すことができるでしょう。
持続可能な未来に向けて:生分解性プラスチックの可能性
生分解性プラスチックは現状ではまだ多くの課題を抱えていますが、技術開発や制度整備の進展により、その可能性は確実に広がっています。コスト・物性・分解性・リサイクル適合性などの課題に対して、産学官が一体となった取り組みが進行中です。
特に注目すべきは、「強靭性と生分解性の両立」「微生物埋込型プラスチック」「海洋生分解性評価技術の確立」など、従来の限界を突破する革新的な技術開発です。これらの技術が実用化され普及すれば、プラスチックごみによる環境汚染の大幅な削減に貢献するでしょう。
私たち消費者も、生分解性プラスチックの特性を正しく理解し、適切に使用・廃棄することで、その環境メリットを最大化することができます。一人ひとりの小さな行動が、持続可能な社会の実現につながるのです。
環境と経済を両立させるエコマテリアルとして、生分解性プラスチックの未来は明るいと言えるでしょう。革新技術と社会システムの進化により、私たちの生活の利便性を損なうことなく環境負荷を減らす、真に持続可能な素材として定着していくことを期待します。
参考情報
- DNP「生分解性プラスチックは環境に良い? 問題点やデメリットに迫る」https://www.dnp.co.jp/biz/column/detail/20172226_4969.html
- EMIRA「海洋プラスチックごみ問題解決策の切り札! 群馬大学発の新しい海洋生分解性プラスチック」https://emira-t.jp/topics/23144/
- Nature3D「生分解性プラスチックが今一つ普及しない5つの理由」https://nature3d.thebase.in/blog/2023/07/21/170831


コメント