生分解性プラスチックで解決?マイクロプラスチック問題の最新対策と課題

技術

マイクロプラスチック問題が深刻化する中、「生分解性プラスチック」が新たな解決策として注目されています。プラスチックごみが海洋生物や私たちの健康に与える影響が懸念される今、自然に還る素材の可能性と限界について徹底解説します。環境にやさしいプラスチックは本当にマイクロプラスチック問題を解決できるのでしょうか?

深刻化するマイクロプラスチック汚染問題

世界の海には年間約800万トンものプラスチックがゴミとして流れ込んでいます。これらのプラスチックは波や紫外線の影響で徐々に砕かれ、5ミリ以下になるとマイクロプラスチックと呼ばれるようになります。プラスチックは自然界に存在しない物質であるため半永久的に分解されず、環境中に蓄積し続けるという特徴があります。

マイクロプラスチックによる環境汚染の問題点は大きく3つあります。

  • 海洋生物がエサと間違えて摂取してしまう
  • 食物連鎖を通じて人間の体内にも蓄積する可能性がある
  • プラスチックに含まれる化学物質や、プラスチックに吸着した有害物質が拡散する

特に近年の研究では、マイクロプラスチックが人体に入ることでがんの発生や代謝性疾患を引き起こす可能性も指摘されています。このマイクロプラスチック問題に対する解決策として注目されているのが「生分解性プラスチック」です。

生分解性プラスチックとは?種類と特徴

生分解性プラスチックとは、自然環境下に存在する微生物の働きにより分解され、最終的には二酸化炭素と水になって自然界へと循環される環境にやさしいプラスチックです。通常のプラスチックと同じように使用できますが、廃棄後は自然に還るという特徴があります。

生分解性プラスチックの種類

生分解性プラスチックは原料や製造方法によって以下の3つに分類されます。

微生物産生系

  • ポリヒドロキシアルカノエート(PHA):微生物が体内に蓄積する貯蔵物質から作られる
  • バクテリアセルロース:細菌が生成するセルロース

天然物系

  • キトサン/セルロース/デンプン:植物や甲殻類由来の素材
  • 酢酸セルロース:セルロースを修飾したもの

化学合成系

  • ポリ乳酸(PLA):トウモロコシなどから抽出される糖を発酵させて作られる
  • ポリブチレンサクシネート(PBS):ポリエチレンに近い性質を持つ
  • ポリカプロラクトン(PCL):石油由来だが生分解される

中でも特に注目されているのは以下の4種類です。

PHA(ポリヒドロキシアルカノエート)

植物油などを原料として微生物発酵で生成されるPHAは、土壌や海水中で比較的早く分解されて水や二酸化炭素になります。そのため、海洋プラスチック問題の解決策として特に期待されています。硬質射出成型品やフィルムなどの原料として利用されています。

PLA(ポリ乳酸)

トウモロコシ由来のデンプンを発酵させたL-乳酸から合成されるポリ乳酸は、透明性が高く加工性に優れています。ただし通常の環境下ではあまり分解されず、堆肥装置(コンポスト)のような特殊環境下でのみ半年程度で分解されます。冷凍食品の包装材やレジ袋、農業用シートなどに使用されています。

PBS(ポリブチレンサクシネート)

ポリエチレンに近い優れた性質を持つPBSは、バイオマス原料から製造する技術も開発されており、農業用マルチフィルム、ごみ袋、食品包装材として利用されています。

PCL(ポリカプロラクトン)

石油由来の原料から合成されるPCLは、細菌によって分解される特性があります。低融点や熱可塑性プラスチックとしての特性を活かし、農業用マルチフィルムなどに利用されています。

生分解性プラスチックのメリット

生分解性プラスチックには従来のプラスチックと比較して、いくつかの重要なメリットがあります。

  • 環境への負荷軽減: 微生物によって最終的に水と二酸化炭素に分解されるため、環境中に半永久的に残る心配がない
  • 海洋プラスチックゴミ対策: 回収が難しい海洋に流出してしまったプラスチックも、分解されることで蓄積を防げる
  • 石油資源の節約: 多くの生分解性プラスチックはバイオマス由来で作られるため、石油資源の使用量を削減できる
  • 廃棄物処理の選択肢拡大: コンポスト処理など、従来のプラスチックには適用できない廃棄方法が選択できる

最近の研究で、様々な生分解性プラスチック(ポリ乳酸を除く)が水深757m~5,552mの深海底でも微生物により分解されることが世界で初めて明らかになりました。この研究成果により、海洋プラスチック汚染の抑制に生分解性プラスチックが大きく貢献できる可能性が示されています。

生分解性プラスチックの課題とデメリット

一方で、生分解性プラスチックには解決すべき課題も多く存在します。

完全分解までに時間がかかる

生分解性プラスチックはすぐに分解されて素材が地球に還るわけではありません。完全に分解されるまでには長い年月がかかるため、その間にマイクロプラスチック化して海洋生物や人体に入れば、短期的な結果は従来のプラスチックとあまり変わらない可能性があります。

コストの高さ

多くの生分解性プラスチックは通常のプラスチックよりも高価である点も普及を妨げる大きな要因です。例えば、ポリエチレンやポリプロピレンといった汎用プラスチックと比較すると、生産コストが大幅に高くなってしまいます。

3Rの理念との矛盾

生分解性であることを理由に使い捨てを前提としているため、3R(リデュース・リユース・リサイクル)の理念には必ずしも合致していないという批判もあります。ごみの発生を抑制するリデュースの観点からは、生分解性であっても使い捨て製品を増やすことは望ましくありません。

不適切な廃棄を誘発する懸念

「生分解性」というラベルがあると、消費者が不適切に廃棄する(ポイ捨てする)可能性が高くなるという研究結果もあります。「どうせ分解されるから」という誤った認識が広まれば、かえってごみ問題を悪化させる恐れがあります。

複合材料による問題

多くの生分解性プラスチック製品は、複数種のポリマーを混合・複合化して作られています。性質の異なるポリマー同士を混合すると相分離構造を持つようになり、生分解の進行が不均一になります。そのため、分解の遅い部分が微細化しながら残り、マイクロプラスチックとして蓄積する可能性も指摘されています。

最新の研究開発:マイクロプラスチック問題解決への挑戦

こうした課題を解決するため、世界中で新たな研究開発が進められています。

酵素内包型生分解性プラスチック

東京大学の岩田忠久教授らの研究グループは、いつでもどこでも生分解する新タイプの「分解酵素入り生分解性プラスチック」の開発に成功しました。このプラスチックは水に浸すと表面の傷から水が入って分解し、細かくなるほど分解速度が速くなるという特徴があります。

この技術は、通常のポリ乳酸に耐熱化した分解酵素(プロテイナーゼK)を組み込むことで実現されました。自然環境中には微生物が非常に少ない場所も多いため、酵素を内包することで確実な分解を促進できる点が画期的です。

深海での生分解性の実証

2024年1月に発表された研究では、様々な生分解性プラスチック(ポリ乳酸を除く)が水深757m~5,552mの深海底でも微生物により分解されることが世界で初めて明らかになりました。

研究では生分解性プラスチックを分解する新たな分解微生物を深海から多数発見し、それらが世界中のさまざまな海底堆積物に存在することも明らかにしています。水深約1,000mの深海底では、生分解性プラスチックで作製したレジ袋が3週間から2ヶ月間で生分解されると推定されています。

相分離構造を考慮した設計

生分解性プラスチック製品の多くは複数種のポリマーを混合・複合化したものです。この場合、性質の異なるポリマー同士を混合すると相分離構造を持つようになり、生分解の進行が不均一になります。そのため、分解の遅い部分が微細化しながら残り、マイクロプラスチックとして蓄積する可能性があります。

この問題を解決するため、海洋中でのマイクロプラスチック発生メカニズムの解明や、マイクロプラスチックを発生させない生分解性複合材料の設計に関する研究も進められています。

生分解性プラスチックの実用化と今後の展望

実際に生分解性プラスチックの実用化も進んでいます。例えば、株式会社カネカはPHAの一種である3-ヒドロキシブタン酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合体(PHBH)の微生物合成法を開発し、事業化を進めています。

また、ニチモウ株式会社では生分解性プラスチックによる漁具(漁網、ロープ、針、発砲フロートや土嚢袋など)の製造実証を行うとともに、現場適正や海洋分解性の分析・評価を行っています。

今後の展望としては、以下のような方向性が考えられます。

  1. コスト削減技術の開発: 生産効率の向上やバイオマス原料の低コスト化
  2. 複合材料の改良: 相分離構造を最適化し、マイクロプラスチック発生を防ぐ設計
  3. 用途に応じた分解速度の制御: 使用中は安定、廃棄後は速やかに分解される素材開発
  4. リサイクルとの組み合わせ: 回収可能な製品はリサイクル、回収困難な製品は生分解性を活用
  5. 消費者教育の充実: 適切な廃棄方法の周知と環境意識の向上

まとめ:マイクロプラスチック問題解決の一翼を担う生分解性プラスチック

生分解性プラスチックは、深刻化するマイクロプラスチック問題の解決策として大きな可能性を秘めています。特に、回収が困難な用途や意図せず環境中に流出してしまう可能性のある製品への活用は、環境保全に大きく貢献するでしょう。

しかし、現時点では完全な解決策とは言えません。分解に時間がかかる点、コストの高さ、複合材料による新たなマイクロプラスチック発生の可能性など、多くの課題が残されています。

大切なのは、生分解性プラスチックを「魔法の解決策」と考えるのではなく、プラスチック使用量の削減(リデュース)、再使用(リユース)、リサイクルといった取り組みと組み合わせて活用していくことです。それぞれの製品の用途や特性に応じて最適な素材を選び、環境負荷を総合的に減らしていく視点が欠かせません。

生分解性プラスチックの研究開発と実用化が進み、より環境に配慮したプラスチック利用が広がることで、マイクロプラスチック問題の解決に近づくことが期待されます。私たち一人ひとりも、プラスチック製品の適切な使用と廃棄を心がけ、この問題に取り組んでいきましょう。

参考情報

一般社団法人 大日本水産会 https://osakana.suisankai.or.jp/s-eco/2097

東京大学 https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20240126-1.html

株式会社アップルツリー https://appletree-ws.co.jp/media/gx/post-1043/

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