アラブ首長国連邦(UAE)が米国の最先端AIチップへのアクセス確保において「非常に良好かつ具体的な進展」を見せていることがわかりました。この進展は、UAEが米国との関係強化のために表明した1兆4000億ドル(約197兆円)規模の対米投資が背景にあります。AIの発展において最重要資源である高性能半導体へのアクセスを確保するUAEの戦略的取り組みが、具体的な成果を上げ始めているようです。
UAEの半導体アクセス確保に向けた具体的進展
UAEを代表する人工知能(AI)企業G42の最高経営責任者(CEO)であるペン・シャオ氏は、UAEが米国から先進的な半導体を確保する上で「非常に良好かつ具体的な進展」が見られると指摘しています。この発言は、UAEが長期間直面してきた先端チップへのアクセス制限問題に光明が見えてきたことを示しています。
UAEは2023年以降、米国の輸出規制によって先端AIチップの調達が制限されてきました。特に、エヌビディア社が製造する高性能AI半導体へのアクセスは、UAEにとって大きな課題でした。この状況を打開するため、UAEは米国のテクノロジー・エネルギー業界への投資を積極的に強化してきました。
この動きは、UAEがAI分野における地域的パワーハウスとなる野望を持っていることと深く関連しています。最先端のチップへのアクセスなしには、AI開発における競争力を維持することが困難だからです。
197兆円規模の米国投資がもたらす戦略的関係強化
ホワイトハウスは先月、UAEが今後10年間で1兆4000億ドル(約197兆円)を米国に投資すると発表しました。この巨額投資の表明に先立ち、トランプ大統領はUAE王族のシェイク・タフヌーン・ビン・ザーイド・アル・ナヒヤーン氏と会談していました。
シェイク・タフヌーン氏は、G42を含む1兆5000億ドル規模の資産を監督するとともに、UAEの国家安全保障顧問も務めている重要人物です。彼の米国訪問は、UAEの技術戦略における重要なターニングポイントとなりました。
この巨額投資は単なる経済的な取引ではなく、UAEが米国との戦略的関係を深め、特に技術分野での協力を強化するための重要な一手と見られています。UAEにとっては、経済的利益だけでなく、AI開発に不可欠な最先端技術へのアクセスという政治的・戦略的利益も期待できます。
シェイク・タフヌーンの訪米とトランプ政権への働きかけ
今年3月、UAEの国家安全保障顧問であるシェイク・タフヌーン・ビン・ザーイド・アル・ナヒヤーン氏は、米国のテクノロジーへのアクセス緩和を求めてワシントンを訪問しました。この訪問は、トランプ政権に対して輸出規制の見直しを働きかける重要な機会となりました。
シェイク・タフヌーン氏は、商務長官のハワード・ラトニック氏、財務長官のスコット・ベセント氏、国家安全保障顧問のマイク・ウォルツ氏など、トランプ政権の主要閣僚と会談する予定でした。この訪問は、イスラム教の聖月ラマダン期間中にもかかわらず、トランプ政権の要請で実現したとされています。
会談では、AIを動かすために必要な先端半導体を規制する輸出管理について、トランプ政権に影響を与えることを目指していました。特に、米国企業エヌビディア社からの先端チップ購入能力が最重要議題でした。
米国の半導体輸出規制とその影響
米国政府は2025年初頭、エヌビディア社などが製造するAIチップの輸出規制を強化しました。これらの規制は当初中国に焦点を当てていましたが、バイデン政権下で大幅に拡大され、UAE、サウジアラビア、シンガポールなどの国々にも影響を及ぼしています。
一方で、日本、英国、韓国、オランダなどの同盟国は、これらの規制からほぼ免除されています。この差別的な扱いは、UAEにとって大きな不利益となっていました。
トランプ政権は現在、バイデン時代の規制をそのまま実施するか、修正するかを検討中です。3月5日には、トランプ大統領が議会に対して、バイデン政権下で成立した半導体法(2800億ドルを国内チップ生産強化に割り当てる法律)の廃止を求めました。
UAEのAI強国への野望とG42の役割
UAEは石油生産国としての繁栄を背景に、先進技術部門の発展を強く望んでいます。特にAI分野での地域的リーダーシップを確立することを目指しており、そのためには米国の先端技術へのアクセスが不可欠です。
UAEを代表するAI企業G42は、この戦略において中心的な役割を担っています。G42のCEOであるペン・シャオ氏の楽観的な発言は、UAEのAI戦略が実を結び始めていることを示唆しています。
しかし、米国はUAEと中国との緊密な関係に懸念を抱いており、これがこれまでの輸出規制の理由の一つとなっていました。UAEは、米国との関係強化と同時に、中国との関係もバランスよく維持する難しい外交課題に直面しています。
今後の展望:AI開発における国際競争と協力
UAEの巨額投資とその後の「具体的な進展」は、同国のAI戦略が新たな段階に入ったことを示しています。シェイク・タフヌーン氏が米国訪問時に示す予定だった「米国に構築するテクノロジーインフラの計画」が、今後どのように実現していくかが注目されます。
米国との協力強化は、UAEにとって単にチップへのアクセスを確保するだけでなく、AI分野での技術的知見の獲得や人材育成など、より広範な利益をもたらす可能性があります。また、米国にとっても、中東地域における重要な同盟国との関係強化や、巨額の投資獲得というメリットがあります。
一方で、AI技術の国際的な普及と規制のバランスは、今後も世界的な課題であり続けるでしょう。技術移転に伴うセキュリティリスクと経済的利益のバランスをどうとるかは、各国政府にとって難しい判断となります。
UAEと米国の技術協力が示す未来
UAEによる米国への197兆円規模の投資と、それに続くAIチップアクセスの進展は、グローバルなテクノロジー政策の新たな方向性を示しています。経済的関係と技術アクセスが密接に結びついた今回の展開は、今後の国際関係における重要なモデルケースとなる可能性があります。
UAEはこの戦略的投資を通じて、単なる資源国から技術革新の中心へと変貌を遂げようとしています。一方、米国は同盟国ネットワークを強化しながら、戦略的に重要な技術の拡散をコントロールするという難しいバランスを取ろうとしています。
両国の協力が実を結べば、中東地域におけるAI開発の新たな地平が開かれるかもしれません。そして、この成功モデルは他の国々にも影響を与え、技術アクセスを巡る国際関係の新たなパラダイムを形成する可能性があります。
参考情報:
ブルームバーグ https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-04-21/SUX8UNT1UM0W00
ロイター https://www.reuters.com/technology/uae-push-easier-access-us-chip-technology-blooomberg-news-reports-2025-03-13/
アジェンツィア・ノヴァ https://www.agenzianova.com/en/news/Bloomberg:-UAE-official-to-visit-US-to-buy-more-NVIDIA-chips/


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