訪問介護業界が深刻な危機に瀕しています。2024年の訪問介護事業者の倒産は過去最多の81件に達し、2年連続で最多を更新しました。「黒字業界」と言われながらも、なぜ訪問介護事業者は次々と倒産しているのでしょうか?今回は訪問介護業界の倒産急増の実態と原因、そして今後の展望について徹底解説します。
訪問介護業界の倒産急増の実態
訪問介護事業者の市場からの撤退が加速しています。東京商工リサーチの調査によると、2024年の訪問介護事業者の倒産件数は過去20年で最多となる81件に急増しました。これは2年連続で最多記録を更新する事態です。倒産と休廃業・解散を合わせると合計529件に達しており、深刻な状況といえるでしょう。
東京商工リサーチのデータベースには訪問介護事業者が3万5189社登録されていますが、単純計算すると66社に1社が昨年市場撤退したことになります。また、日本共産党の調査では2024年度(2024年4月~2025年3月)の介護事業者全体の倒産は179社(前年度比36.6%増)と、やはり過去最多を記録しています。
倒産の推移と傾向
訪問介護事業者の倒産件数は、ヘルパー不足が深刻化してきた2016年以降、増加が顕著になってきました。景気回復に伴う人材の獲得競争などにより、2019年には58件に達しましたが、コロナ禍では資金繰り支援策の効果で倒産は抑制され、2020年以降は小康状態を保ってきました。
しかし、コロナ禍が落ち着くと支援が終了し、同時にガソリン代などの物価や人件費が上昇しました。こうした状況のなか、2024年4月の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬がマイナスになったことで、経営環境はさらに悪化し、倒産が急増したのです。
訪問介護事業者が倒産する主な原因
なぜ訪問介護事業者は厳しい経営状況に追い込まれているのでしょうか。主な原因を詳しく見ていきましょう。
介護報酬のマイナス改定
2024年4月の介護報酬改定で、訪問介護サービスの基本報酬が2~3%引き下げられました。具体的には、身体介護サービスが20分以上30分未満の場合、単価は2500円から60円減額され、掃除や洗濯、調理などの生活援助サービスも20分以上45分未満なら1830円から40円下げられました。
この改定は訪問介護業界に大きな打撃を与えています。愛知県内で月1800人が訪問介護サービスを利用する「コープあいち」(名古屋市)では、4~9月の訪問介護の基本報酬が前年同期比で約1040万円減少し、経常赤字は1400万円に上りました。
深刻なヘルパー不足
訪問介護における人手不足は非常に深刻です。2022年度の訪問介護職員の有効求人倍率は約15.53倍で、施設介護職員の有効求人倍率(約3.8倍)と比べても非常に高い水準となっています。厚生労働省の調査によれば、人手不足を感じている訪問介護事業所は約8割にも達しています。
ケアマネージャーからの依頼を断った理由として、「人員不足により対応が難しかった」と回答した事業所が9割に上るなど、サービス提供にも支障が出始めています。
物価高と人件費の上昇
ガソリン代などの物価高騰も訪問介護事業者の経営を圧迫しています。訪問介護は利用者の自宅を一軒一軒回るため、移動コストがかかりますが、移動時間には報酬がつかないシステムとなっており、特に中山間地などの地域では大きな負担となっています。
また、人材確保のための人件費上昇も経営を圧迫しています。しかし、介護報酬は公定価格のため価格転嫁が難しく、物価や人件費の上昇分を料金に反映できないという構造的な問題があるのです。
小規模事業者ほど厳しい経営環境
訪問介護の倒産における特徴的な点は、小規模事業者の淘汰が顕著であることです。倒産した事業者の9割以上が従業員10人未満の小規模事業者でした。
小規模事業者の特徴と課題
東京商工リサーチの調査によると、倒産した訪問介護事業者の形態別では、破産が94.1%と圧倒的多数を占めています。また、負債額別では1億円未満の事業者が77.9%を占め、資本金別では1000万円未満が86.6%を占めるなど、小・零細事業者が中心となっています。
小規模事業者は、大手事業者と比べて経営効率や収益性が劣る傾向があります。厚労省の審議によれば、訪問介護の収益率は全体で7.8%の黒字とされていますが、実際には一部の大規模事業所が平均利益を押し上げているだけで、36.7%が赤字経営となっています。さらに、規模が小さいほど利益率が低く、1カ月の訪問回数が400件以下の事業所では平均利益率が1.2~1.4%と、ほとんど利益がない状況です。
業歴別にみる倒産状況
注目すべきは、業歴別では倒産した事業者の半数が10年超という一定の業歴を持つ事業者であったことです。これは、長年事業を継続してきた経験豊富な事業者でさえも、現在の厳しい環境に耐えられなくなっていることを示しています。
訪問介護業界の危機がもたらす社会的影響
訪問介護事業者の倒産増加は、単に業界の問題にとどまらず、社会全体に大きな影響を与える可能性があります。
在宅介護の継続が困難に
訪問介護は、高齢者が住み慣れた自宅で生活を続けるために不可欠なサービスです。しかし、事業者の倒産や撤退が続けば、在宅生活を維持できなくなる高齢者が増える恐れがあります。
ある95歳の患者さんは、訪問介護で週2回の入浴介助を頼んでいましたが、ヘルパーの高齢化などで継続が難しくなったと報告されています。現在はデイサービスを利用できていますが、このようなサービスを提供する事業所がなくなれば、「とても自宅での介護は続けられない」と話しています。
介護難民の発生懸念
東京商工リサーチは、国や自治体の本格的な指導・支援がなければ、小・零細事業者の淘汰が加速し、全国で「介護難民」の発生が現実味を帯びていると警鐘を鳴らしています。高齢化が進む日本社会において、これは非常に深刻な問題となるでしょう。
訪問介護の危機を乗り越えるための対策
訪問介護業界の危機を乗り越えるためには、どのような対策が考えられるでしょうか。事業者自身ができる取り組みと、社会全体で取り組むべき課題について考えてみましょう。
事業者ができる対策
訪問介護事業者が生き残るためには、以下のような対策が考えられます:
- 労働環境の改善:現在働いている職員が長く働きやすい環境を整えることが重要です。
- 採用活動の強化:職場の魅力や独自性を分析して、他社との差別化を図りましょう。
- 人事評価や処遇制度の改善:「介護職員等特定処遇改善加算」などの制度を活用し、職員の満足度を高める工夫が必要です。
- 経営効率化や協働化:単独での経営が厳しい場合は、他の事業者との協働や再編なども検討する価値があります。
社会全体で取り組むべき課題
訪問介護業界の危機は、事業者だけの努力では解決できません。社会全体で取り組むべき課題として以下のようなことが挙げられます:
- 介護報酬の適正化:職員の処遇改善、物価高騰への対応、感染対策や利用者へのサービス向上のためには、大幅な介護報酬引き上げが不可欠です。
- ヘルパー不足解消のための施策:介護職の社会的地位向上や処遇改善を通じて、介護職の魅力を高める取り組みが必要です。
- 行政による支援拡充:国や自治体による介護事業者への支援拡充が求められています。
訪問介護の未来は明るくなるのか
訪問介護業界は現在、非常に厳しい状況に置かれていますが、超高齢社会の日本において、その重要性はますます高まっています。高齢者が住み慣れた地域で自分らしい生活を続けるためには、訪問介護サービスは不可欠な存在です。
業界の再編や効率化、デジタル技術の活用などによって、新たなビジネスモデルを構築する動きも出始めています。また、介護職の社会的認知や処遇改善に向けた取り組みも少しずつ進んでいます。
しかし、根本的な解決のためには、介護保険制度の見直しや介護報酬の適正化など、制度面での改革が不可欠でしょう。訪問介護サービスが持続可能な形で提供され続けるためには、私たち一人ひとりが介護の重要性を認識し、社会全体で支える意識を高めていくことが大切なのではないでしょうか。
介護は誰もが直面する可能性のある問題です。今後も訪問介護業界の動向に注目し、よりよい介護環境の実現に向けて考えていきましょう。
参考情報
ダイヤモンド・オンライン – https://diamond.jp/articles/-/363131
NHKニュース – https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250120/k10014697621000.html
東京商工リサーチ – https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1200835_1527.html


コメント