2026-08

書評

「死ぬこと」より「生きること」を選んだ男——飯嶋和一『出星前夜』が問いかける信仰と希望の普遍性

「もし後戻りできない状況に追い込まれたとき、あなたは戦って死ぬか、生き延びて誰かを救うか」飯嶋和一の『出星前夜』は、この問いを17世紀の島原という舞台で、一人の若者の選択として体現します。2万数千人が全滅した、救いのない史実を描く小説です...
書評

「死ぬな、殺すな」という逆説——柳広司『ジョーカー・ゲーム』が軍国主義に突きつけたスパイ哲学の真髄

「組織のために死ぬことは、本当に立派なことでしょうか」この問いに、即座に「はい」と答えられる人は少ないはずです。しかし昭和初期の日本では、「天皇のために命を捧げること」「敵に捕らわれれば自決すること」が「当然の美徳」として内面化されていま...
書評

「失敗自体は病じゃない、絶望さえしなければいい」——宮下奈都/誰かが足りない/取り返しのつかない失敗から這い上がる人間の底力

入社三年目の秋、私は進行中の大型プロジェクトで取り返しのつかないミスを犯した。血の気が引き、周囲の音が遠のき、自身のキャリアが完全に終わったと確信した。震える足で上司の席に向かい、辞表を提出する覚悟で事態を報告した。しかし、黙って顛末を聞...
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「普通の恐妻家」が世界を変えなかった理由——伊坂幸太郎『モダンタイムス』が描く小さな目的と夫婦の勇気

「実家に忘れてきました。何を? 勇気を。」物語の冒頭、渡辺拓海はこう言います。軽口のつもりで。しかし物語の結末で、彼は別の言葉を言います。「勇気は彼女が持っている。俺が無くしたりしないように」と。「彼女」とは、妻・佳代子のことです。伊坂幸...
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「古書の奥深さを伝えるために、著者はまずキャラクターで読者を引きつけることを選んだ——その戦略が700万部の奇跡を生んだ」——三上延/ビブリア古書堂の事件手帖-栞子さんと奇妙な客人たち/ライトノベル的造形とビブリオミステリ開拓の文学戦略

古書店の棚の前で、人生が変わるという体験をしたことがあるだろうか。私はある秋の休日、出張先の街の古書店で、偶然手に取った一冊の文庫本のページを繰るうちに時間を忘れ、閉店のアナウンスで我に返った。店主に訊くと「その本は昔の常連さんが全集売り...
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「壁と卵」の哲学——村上春樹『1Q84 BOOK1』が問うシステムと個人、そして悪意の正体

「あなたが今、当然のものとして従っているシステムは、本当にあなたを守っているか、それともあなたを少しずつ殺してはいないか」この問いを、村上春樹は物語の形で投げかけてきます。2009年2月、村上はエルサレム賞の授賞式でこう宣言しました。「高...
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「大切な人を失ったあの日から、あなたの中でその人は消えたか、それとも形を変えて生き続けているか」——大島真寿美/ピエタ/不在のヴィヴァルディが教える、喪失と記憶の再構築という贈り物

あなたの人生の中に、「不在なのに存在している人」はいるだろうか。大島真寿美『ピエタ』は、冒頭ですでにヴィヴァルディが死んでいる物語だ。主人公のエミーリアが受け取るのは、師の訃報と、彼が遺した謎めいた楽譜の束だ。ヴィヴァルディは一度も「生き...
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「悪人」と呼ばれる人は、本当に悪人なのか——吉田修一『悪人』が問い続ける、法と道徳のあいだに潜む深い溝

「悪い奴が悪いことをした」――事件が起きるたびに、私たちはこう思おうとします。そうすると気が楽になる。加害者を「悪人」と名指しして、「自分はああはならない」と安堵できる。しかし吉田修一の『悪人』は、その安堵を最初から許してくれない小説です...
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「処罰」が「復讐」に化けるとき——湊かなえ『告白』が仕掛けた語りの最大の罠

「あなたは、森口悠子の行為を最後まで『処罰』だと思って読んでいましたか」この問いへの答えが変わる瞬間が、湊かなえの『告白』には用意されています。終業式のホームルーム。「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺された...
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「医師である前に、人間である」——同じ言葉が示す二つの真実 夏川草介『神様のカルテ2』

「あなたは今、自分の仕事に、自分のすべてを捧げていますか」――そう問われたとき、どう答えるでしょうか。捧げてほしいと言われた側は、それは当たり前だと答えるかもしれません。しかし捧げる側は、「では私の家族は?」「では私自身の命は?」という問...