「なぜか仕事が終わらない。残業も増えた。でも、自分の作業スピードには限界がある――」そう感じながら、今夜もパソコンの前で溜息をついた経験はありませんか。昇進して管理職になり、部下のマネジメントに会議にメール対応と、やることは増えるばかり。「もっと速く動かなければ」と頭ではわかっていても、体は正直なかなかついてこない。部下への指示も思ったように伝わらないと感じているなら、それはあなたの仕事スピードではなく、別のところに問題があるのかもしれません。
経営アドバイザーの萩原雅裕氏はNTTデータ、ベイン・アンド・カンパニー、日本マイクロソフトなど多彩なビジネス環境で30年以上にわたり、段取りの技術を磨いてきた人物です。著書『「今日も仕事が終わらなかった」はなぜ起きるのか? 仕事が3倍速くなる計画・実行・中断の技術』で著者が明言するのは、仕事が終わらない本当の原因は「作業スピードが遅いからではない」という事実です。では何が問題なのか。その答えは、あなたのToDoリストそのものに潜んでいます。
本書が示す解決策は、プレゼンの場で経営層を説得する場面にも、部下への的確な指示にも、そして家族との約束を守るためにも直接使える技術です。管理職として「部下に仕事が伝わらない」「自分の仕事が片付かない」と感じているなら、まずこの一冊の核心に触れてみてください。
ToDoリストに「A社連絡」と書いてはいけない理由
今日もToDoリストに「A社連絡」「提案書作成」「〇〇の検討」と書きましたか。実はそれが、仕事が終わらない最大の原因の一つなのです。
なぜでしょうか。人間の脳は、抽象的な名詞を見ても即座に動けない仕組みになっています。「A社連絡」というタスクに取りかかろうとした瞬間、脳は自動的に考え始めます。「誰にかけるんだっけ?」「電話?メール?」「何を伝えるんだっけ?」――この数秒の迷いが、着手を妨げる見えない壁になります。
著者はこの壁を「認知摩擦」と表現し、ToDoリストの曖昧な言葉こそがその摩擦の源だと指摘します。解決策はシンプルです。「実際にどう手を動かすか」まで具体化した「アクション動詞」でタスクを書く。それだけです。
アクション動詞で書くと、着手の壁が消える
「A社連絡」は「A社の山田様へ見積もり修正案をメールで送る」に変わります。「提案書作成」は「会議室の予約状況をスケジューラーで確認してコピーする」から始まる手順になります。「〇〇の検討」は「整理してスライド1枚にまとめる」という実行可能な行動になります。
書き直してみると、タスクの数は増えるように見えます。しかし著者はこう断言します。仕事の総量はまったく変わっていない。もともと必要だった手順が、見えていなかっただけだ、と。アクション動詞化とは、無意識の「隠れた仕事」を可視化する作業であり、それによって実行時に頭を使わず手だけを動かせる状態が生まれるのです。
管理職のToDoリストが曖昧になる本当の理由
部下への指示が伝わらないと悩むとき、原因の一つは自分自身のToDoリストにあるかもしれません。「〇〇の検討をしておいて」という指示は、上司の頭には何らかのイメージがあります。しかし受け取った部下の頭には「何を、どこまで、どんな形で」という疑問だけが残ります。
これはToDoの書き方の問題と、まったく同じ構造です。名詞や曖昧な言葉で書かれた指示は、相手の行動を引き出せない。「整理してスライド1枚にまとめて」という言葉に変わった瞬間、部下は迷わず動き始めることができます。
昇進したばかりの管理職が「なぜ部下が思うように動かないのか」と悩む場面には、この「指示のアクション動詞不足」が潜んでいることが多いのです。自分のToDoリストで試してみることが、部下への指示改善の最初のステップになります。
指示の解像度が、仕事の質を決める
本書のメソッドは個人の生産性向上にとどまりません。管理職として部下に「何を、どのように動いてほしいか」を明確に言語化する訓練そのものでもあります。自分の仕事をアクション動詞で書き続けることで、指示の解像度を上げる感覚が自然と身につきます。
「走りながら考える」が最も仕事を遅くする
「とりあえず始める」という姿勢を美徳と感じている方は少なくありません。しかし著者は、これこそが仕事が終わらない最大の罠だと言います。
仕事を「計画モード(終わる計画を作る)」と「実行モード(迷わず手を動かす)」の二つに完全に分離することが、本書の中核にある考え方です。計画モードでは頭をフル回転させ、タスクをアクション動詞のリストに落とし込みます。考えることは、すべてここで完結させます。実行モードでは、そのリストに従うだけ。迷いがない状態で作業に向かう「頭のいい自分」を100%引き出すことができます。
走りながら考えている状態は、運転しながら地図を描いているようなものです。どちらも中途半端になり、結果的に時間がかかります。そして後続の仕事も巻き込んで崩れていく。この負の連鎖が、「今日も仕事が終わらなかった」という感覚の正体です。
経営層へのプレゼンで「数字は揃えたが何が言いたいのか伝わらない」という状況も、実は同じ構造から生まれています。資料を作りながら「何を伝えたいか」を同時に考えているから、軸がぶれてしまう。先に「この会議でどんな意思決定を引き出したいのか」を計画モードで言語化しておくだけで、プレゼンの質は大きく変わります。
仕事が「速い人」と「遅い人」の本当の差
スポーツの世界では、一流のアスリートは試合前に頭の中でプレーを繰り返しシミュレーションします。実際に体を動かす前に、動作を完全に言語化し、頭の中でトレースしておく。これが「イメトレ」の本質です。著者が提唱するアクション動詞によるタスクの言語化は、ビジネスにおけるイメトレにあたります。
仕事が速い人は、作業中に考えていません。考えるべきことを事前に終わらせているから、実行が速い。仕事が遅く見える人は、考える場所が間違っているだけかもしれないのです。
仕事の速さは、計画の質で決まる
著者が30年のビジネス経験を通じて結論づけるのは、手を動かす物理的な速度には個人差が少ないということです。だから、差がつくのは段取りの速さ、計画の質にある。管理職として「もっと速く動かなければ」と感じているなら、まず問い直してほしいのです。自分のToDoリストは、見た瞬間にすぐ動けるアクション動詞で書かれているか、と。
家族との約束を守るための、最後の一手
部下との信頼、経営層への説得力、そして家族とのコミュニケーション――これらに共通する根っこが、「言葉の具体性」です。「ちゃんとやる」「後で考える」「そのうち」という言葉は、相手を待たせるだけで何も解決しません。
アクション動詞の発想は仕事の外でも使えます。「週末に子どもと遊ぶ」ではなく「土曜の午後2時から子どもと公園でキャッチボールをする」。そのレベルで決めておけば、どんなに疲れた週末でも、体が自然と動き出します。曖昧な約束が「なんとなく流れた週末」を生み、それが積み重なって家族との距離を広げていくのです。
具体的であることは、誠実さの表れでもあります。相手に「どうしてほしいか」を、迷わず動ける言葉で伝える能力は、管理職としての信頼をつくる最も実践的なスキルの一つです。
本書が描く仕事術の本質は、特別な才能や天才的な作業スピードを求めていません。ただ、仕事の「考える場所」を変えることを求めています。ToDoリストにアクション動詞を使う。それだけで、着手の壁が消え、部下への指示が明確になり、プレゼンの質が変わり、家族との約束を守れるようになっていく。「今日も仕事が終わらなかった」という言葉を、今夜で終わりにするヒントが、この一冊に詰まっています。
記事の要約
書誌情報
萩原雅裕『「今日も仕事が終わらなかった」はなぜ起きるのか? 仕事が3倍速くなる計画・実行・中断の技術』のNR書評猫レビュー記事(#1718)。
本書の核心
仕事が終わらない原因は作業スピードではなく、業務プロセスに潜む「手戻り」「集中切り替え」「思考の消失」の3つの隠れたムダにある。ToDoリストを抽象的な名詞ではなく「アクション動詞」で記述することで認知摩擦を排除し、計画モードと実行モードを完全に分離する体系的な仕事術を提唱する。
本書評の概要
ToDoリストに「A社連絡」「〇〇の検討」と書く習慣が、着手時の「認知摩擦」を生み出し仕事を遅らせているという点を核心として展開。「アクション動詞」で具体化することで実行時の迷いが消える仕組みを解説。40代IT管理職ペルソナに対し、部下への指示の解像度向上、経営層へのプレゼン準備の質、家族との約束の具体化へと応用展開している。

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