「PVは獲れた、でも売れない」——齊藤麻子/デジタルマーケの成果を最大化するWebライティング/記事のゴール再定義

# 「PVは獲れた、でも売れない」――齊藤麻子/デジタルマーケの成果を最大化するWebライティング/記事のゴール再定義

「先週の記事、1万PVいきましたよ!」と部下が報告してくる。でも、その月の問い合わせ件数はゼロだった。そんな経験はありませんか。月次レポートの数字は悪くない。むしろアクセスは伸びている。なのに会社の売上に、まったく貢献できていない……。IT企業のマーケティング業務を束ねる立場として、この矛盾に頭を抱えたことがある方は少なくないはずです。

実は、その「空回り」の原因はライターのスキル不足でも、SEO対策の甘さでもありません。もっと手前にある問題、つまり「いい記事とは何か」の定義がズレているのです。LIGブログ編集長として月間200万PVのメディアを率いてきた齊藤麻子氏の『デジタルマーケの成果を最大化するWebライティング』は、この根本的な問いに正面から向き合い、Webライティングの常識を覆す一冊です。

この記事では、本書の最初のポイントである「成果から逆算する『いい記事』のパラダイムシフト」に絞ってお伝えします。読み終わる頃には、あなたの部門のコンテンツ戦略が、今日から変わり始めるかもしれません。

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PV至上主義という「やりがい搾取」の罠

オウンドメディアを運営している多くの企業が、まず陥る罠があります。それが「PV至上主義」です。記事のアクセス数が増えると、担当者はモチベーションが上がる。チームも盛り上がる。「今月は先月比150%達成です!」と報告する際の満足感は本物です。

しかし冷静に考えると、その記事を読んだ人たちは、自社のサービスを必要としている人々だったでしょうか。

齊藤氏はこの点を鋭く指摘します。SNSで1万人に拡散されても、誰一人として問い合わせに至らない記事と、検索ボリュームが月100件しかなくても、確度の高い「システム開発の相談」を毎月3件生む記事。企業にとってどちらが価値ある記事かは、議論の余地がありません。

ところが現実の現場では、「バズった記事」が評価され、「地味だが確実に問い合わせを生む記事」が正当に評価されないことが多い。この評価のズレが、チームのエネルギーを間違った方向に向け続ける原因になっているのです。

「読まれる記事」より「動かす記事」を目指す

本書の第1章で著者が最初に行うのは、「いい記事」の定義の再構築です。これは単なる概念の整理ではありません。メディアに関わるすべての人間が共有すべき、事業の共通言語を作る作業です。

著者が示す「いい記事」の条件とは何か。それは「読者に何らかのアクションを起こさせること」です。問い合わせ、資料請求、メルマガ登録、購買……。最終的に事業の成果(コンバージョン)につながるアクションを読者に促すことが、企業メディアにおける記事の本来の役割だという定義です。

「良い文章を書こう」という意識だけでは、この定義には辿り着けません。ライターではなくマーケターの視点、つまり「この記事を読んだ人に、次に何をしてほしいか」を先に決めてから書き始める逆算の発想が必要になります。

ゴールのズレがチームをバラバラにする

管理職として一番つらいのは、チームが懸命に働いているのに成果が出ないときです。この問題の多くは、メンバー間の「何を目指しているか」のズレから生まれます。

Webコンテンツの現場でも、まったく同じことが起きています。ライターは「読者に喜ばれる良文を書こう」と努力する。マーケターは「検索上位に表示される記事を量産しよう」と考える。経営層は「明日の問い合わせに直結する記事を出してほしい」と要求する。三者が三様の「いい記事」を持っていると、毎月の振り返り会議は評価基準の衝突の場になってしまいます。

齊藤氏の言葉を借りれば、この「KPIのズレ」こそがメディアの成長を阻む最大の敵です。本書の第1章が「技術論」ではなく「定義論」から始まっているのは、まさにこの理由からです。いくら記事の書き方を磨いても、そもそも目指している方向が揃っていなければ、努力は分散するばかりです。

「ゴール」を決めると記事の設計図が変わる

では、コンバージョンをゴールに置くと、記事の構成はどう変わるのでしょうか。

最も大きな変化は、ターゲットの絞り込みが厳しくなることです。「たくさんの人に読まれること」を目指すと、どうしてもテーマが広く浅くなります。一方、「月に3件の問い合わせを獲得すること」を目指すと、その問い合わせをしそうな人のペルソナ(人物像)が具体化され、そのペルソナが検索しそうな言葉、抱えている悩み、欲しい情報が逆算できます。

たとえば「システム開発 費用」と検索する人は、単なる興味ではなく、発注を具体的に検討しているケースが多い。このキーワードで上位表示できる記事が1本あるだけで、他の「バズ記事」10本より事業貢献度が高い場合があります。

記事を「広告」だと思うと、何百万人に届けることが正義に見えます。しかし「営業資料」だと考えれば、決裁者1人の心を動かすほうが価値があることは明らかです。本書はこの視点の転換を丁寧に教えてくれます。

上司・部下・外部ライターへの「共通言語」として使う

この「成果から逆算するいい記事の定義」は、管理職の立場から見ると、もうひとつの使い方があります。それは、チームや外部のライターとの間に共通言語を作るツールとして活用することです。

新しいメンバーが入るたびに「うちが目指す記事のスタンスは……」と口頭で説明する手間は、組織が大きくなるほど増えていきます。本書が提示するフレームワークをそのまま社内の基準として導入することで、採用・育成・評価の軸が明確になります。

「この記事は1万PV獲れました」という報告に対して「では問い合わせに繋がりましたか」と問い返す文化を作ること。この文化変革のための言語を、本書は提供してくれています。マーケティング経験の浅い担当者であっても、本書を読んだあとは「なぜこの記事を書くのか」を自分で問いかけながら制作に臨めるようになります。

「何のために書くか」が一番の技術である

記事の書き方を学ぼうとするとき、多くの人はすぐに「見出しの付け方」「導入文の書き方」「SEOキーワードの選び方」といった技術論に入ります。しかしそれは、目的地を決めずにカーナビを設定するような話です。

齊藤氏が本書で真っ先に教えるのは、ゴールを決める思考法です。この順序は正しい。どれだけ文章が上手でも、どれだけSEOを学んでも、そもそも「この記事を読んだ人に何をしてほしいか」が定まっていなければ、すべての技術は空回りします。

「何のために書くか」を決めること。これがWebライティングにおける最初の、そして最大の技術です。プレゼンの場で相手に伝わらないと感じるとき、その原因も同じことが多い。「自分が話したいこと」ではなく「相手に次にどう動いてほしいか」から逆算して話を組み立てる。本書が教えるゴール設定の思考は、文章だけでなく、あらゆるコミュニケーションに応用できる原則です。

バズを追うのをやめ、成果に繋がる記事を1本書く。その小さな変化が、やがてチーム全体の仕事の質を変えていきます。

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