「450項目のデータが、辞めたい社員を引き止める」——飯山辰之介/SHIFT解剖 究極の人的資本経営/人材データ活用

「なぜ突然辞めると言い出したのか、まったく気づかなかった」――こう話す管理職は珍しくありません。昨日まで普通に仕事をしていた部下が、ある日突然「退職を考えています」と告げる。サインはあったはずなのに、忙しさの中で見過ごしていた。その後悔は、優秀な人材ほど深く残ります。

人が職場を去る理由は、給与だけではありません。「やりがいが感じられなくなった」「人間関係が疲れた」「将来が見えなくなった」――こうした感情は、日々の業務の中に静かに蓄積されていきます。表面上は問題なく見えても、内側では限界が近づいている。それを察知するのは、どんなに経験豊富な管理職でも簡単ではありません。

SHIFTはこの問題を、450項目以上の人事データを収集・管理する独自システム「ヒトログ」で解決しようとしています。飯山辰之介著『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』が詳述するこの仕組みは、単なるデータ管理ツールではありません。「部下をちゃんと知る」という管理職の本質的な仕事を、組織として仕組み化したものです。今回はヒトログが何を可視化し、それが管理職にとってどんな意味を持つかを考えてみます。

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450項目とは何を意味するのか

ヒトログが収集するデータは、現在の年収、5年後に希望する年収、保有スキル、趣味、飲み会への参加頻度、メンタルの状況など、多岐にわたります。これだけの項目を会社が把握しようとすること自体、多くの人に驚きを与えます。

しかしよく考えてみてください。部下が職場を去る理由のほとんどは、この450項目のいずれかに関わっています。給与への不満、将来像が描けないこと、職場の人間関係のストレス、体調やメンタルの変化――これらは事前に察知できれば、手を打てる問題です。気づかなかったのではなく、見る仕組みがなかったのだと言い換えることもできます。

ヒトログが画期的なのは、感覚に頼ってきた「人を知る」という行為を、データとして組織に蓄積する点です。特定の管理職だけが部下の状況を把握している「属人化」から脱し、組織全体が社員一人ひとりの状態を継続的に追えるようになる。これは個人の目利き力の問題を、仕組みで補う発想です。

「給与・やりがい・人間関係」の三角形

SHIFTがヒトログで特に重視するのは、社員の満足度を構成する三つの要素、すなわち給与・やりがい・人間関係のバランスです。

この三つは互いに補い合います。やりがいが高ければ給与への不満はある程度吸収されます。人間関係が良好ならば、多少の仕事の辛さは乗り越えられます。逆に、一つが崩れると他の二つへの不満が一気に噴き出すことがある。退職の直接の理由として語られることが多いのは給与ですが、その背後にやりがいや人間関係の問題が潜んでいるケースは少なくありません。

データで三つの満足度を継続的に追うことで、どの要素が崩れ始めているかを早期に把握できます。たとえば、やりがいスコアが下がり始めた社員に対して、担当業務の変更やプロジェクトへのアサインを検討する。給与への不満が高まっている社員に対して、評価の根拠を丁寧に説明する機会を作る。データはアクションの起点になります。

管理職が見落としがちな「飲み会参加頻度」というシグナル

ヒトログが収集する項目の中に「飲み会への参加頻度」があることは、多くの人に意外な印象を与えます。なぜこんな情報が必要なのか、と感じる方もいるでしょう。

しかしこれは、孤立や疎外感の早期発見という観点から見ると、合理的な指標です。職場の懇親会や非公式な集まりへの参加が減る現象は、職場への帰属意識の低下やメンタルの不調と相関することがあります。数字の変化を追うことで、表面上は変わらなく見える社員の内側で何かが変化し始めているサインを受け取れます。

管理職として、部下の飲み会参加を強要することは論外です。しかし、参加頻度の変化という事実を一つのシグナルとして認識し、声をかけるきっかけにすることは、まったく別の話です。データは行動の強制ではなく、対話を始めるためのヒントとして機能します。

退職リスクを「下げる」から「防ぐ」へ

従来の離職防止策は、退職の意思が表明されてから慌てて動く「後手」の対応がほとんどでした。引き留め交渉、条件の見直し、担当業務の変更――しかしそこまで状況が進んでいれば、相手の気持ちはすでに決まっていることが多い。

ヒトログが目指すのは、退職の意思が形成される前の段階で異変に気づき、先手を打つことです。満足度スコアの低下、スキルデータと配置業務のミスマッチ、将来の希望年収と現在の評価の乖離――こうしたデータの組み合わせが退職リスクを示すシグナルとして機能し、管理職や人事部門に早期のアクションを促します。

あなた自身の経験を振り返ってみてください。過去に辞めていった優秀な部下は、辞める前に何かしらの変化を見せていなかったでしょうか。それを当時の自分が拾えなかったとすれば、仕組みとしてのデータ収集が手元にあれば違う結果になっていた可能性があります。

「知ろうとする姿勢」が信頼の土台になる

ヒトログという仕組みが社員に与える影響は、データ収集という機能面だけにとどまりません。会社が450項目にわたって自分のことを把握しようとしているという事実は、社員に「自分は組織に見られている」という感覚をもたらします。

監視と関心は表裏一体のように見えますが、SHIFTがこの仕組みを社員の不満なく運用できているのは、データが「管理」ではなく「支援」のために使われているからです。退職リスクの検知も、最適な人員配置も、最終的には社員一人ひとりの働きやすさと成長を目的としています。

管理職としてのあなたに置き換えれば、部下の状況を細かく把握しようとする行為そのものが、信頼関係の構築につながります。「この上司は自分のことを気にかけてくれている」という実感は、どんな制度や仕組みよりも人の気持ちを動かします。仕組みはその気持ちを支える土台です。

ヒトログが体現するのは「知ろうとし続けること」の組織化です。個人の感覚に依存せず、継続的にデータを積み上げることで、優秀な人材が静かに去っていく組織の構造的な問題に正面から向き合う。その姿勢の深さを、『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』は丁寧に描いています。

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NR書評猫1825 飯山辰之介 SHIFT解剖_究極の人的資本経営

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