「人事に任せればいい」をやめた日──飯山辰之介/SHIFT解剖 究極の人的資本経営/採用と現場の協調

「採用は人事部の仕事だから」と線を引いていませんか。新しいメンバーが入るたびに「なんとなく求めていた人材と違う」「現場の実態を人事がわかっていない」と感じる、その違和感の正体は案外シンプルかもしれません。現場と人事が別々の言葉を話しているだけなのです。IT企業の中間管理職として、採用の成否はチームの戦力に直結します。欲しい人材を言語化できないまま人事に丸投げしていれば、ミスマッチは繰り返されます。

本書『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』が紹介するSHIFTのHRBP(人事ビジネスパートナー)という仕組みは、この問題への明確な回答です。人事担当者が事業部長の会議に同席し、現場が求める人材像を解像度高く描き出す。そして第二新卒などの「隠れた鉱脈」を泥臭く掘り起こしていく――著者の飯山辰之介氏は、その実態を丁寧に描いています。

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「管理部門としての人事」が生むミスマッチの構造

従来の人事部門は、採用要件をもとに候補者を集め、面接を設定し、入社後の手続きを管理する役割を担ってきました。この役割分担は一見合理的に見えますが、致命的な弱点があります。採用要件を作る段階で、現場の解像度が低いまま進んでしまうことです。

「コミュニケーション能力が高い人」「自走できるエンジニア」――こうした言葉は、現場の実態を知らなければ意味のある採用基準になりません。どんな顧客と向き合うのか、チームのどの穴を埋めてほしいのか、半年後にどんなスキルを期待するのか。その解像度なしに動き出した採用は、正確性よりも速度を優先した検索と同じです。

本書が描くSHIFTは、人事部を管理部門として切り離すのではなく、事業部の中に入り込ませることでこの問題を解決しました。

HRBPが会議に同席することで何が変わるか

HRBPが事業部長の会議に同席するということは、人事担当者が事業の文脈を直接聞くということです。今期の重点案件、来期の拡大方針、現在のチームの課題――これらを耳にしながら人材ニーズを理解することで、「次に必要な人材像」の精度が全く変わってきます。

これはあなたにとっても重要な示唆を持ちます。人事に対して採用要件を「出す側」から、人事と一緒に要件を「つくる側」に立場を変えることで、採用の成果が変わります。部下が欲しいときに「3名お願いします」と伝えるだけでなく、「このプロジェクトでこういう役割を担う人が必要で、既存メンバーとのバランスはこうなっている」と語れれば、人事は動きやすくなります。

会議での発言力を高めたいなら、まず相手が必要としている文脈を理解してから話す――そのコミュニケーションの原則が、採用の現場でも機能しているのです。

「隠れた鉱脈」を見つける発想が採用の幅を広げる

SHIFTが第二新卒という層に着目したことは、採用の常識を問い直す好例です。IT業界の経験がある即戦力を狙えば競争は激しくなります。しかし最初の就職先でうまくいかなかった人材の中には、環境が合わなかっただけで高いポテンシャルを持つ人が多数います。その鉱脈を誰よりも先に発見し、価値を引き出す仕組みを作ることで、SHIFTは採用競争の外側に出ました。

中間管理職として、この発想はチームマネジメントにも使えます。部下の中に「まだ本来の力を出せていない人」はいないでしょうか。今の役割や環境が合っていないだけで、適切な仕事を与えれば急に伸びるメンバーが見えてくることがあります。隠れた鉱脈を掘り起こす視点は、採用だけでなく、現在のチームの中にも有効です。

「司令塔として機能する人事」との連携が競争力を生む

本書が強調するのは、HRBPが採用の代行者ではなく、事業成長の司令塔として機能しているという点です。採用から戦力化までを一貫して伴走する存在として人事が動くことで、入社後のミスマッチが減り、定着率が上がり、採用への投資効果が高まります。

あなたのチームに新しいメンバーが入ったとき、3か月後に「思っていた仕事と違う」という退職を防ぐためには、入社前から入社後の具体的なイメージを候補者と共有することが必要です。それは現場を知っているあなたにしかできないことです。人事と連携しながら、入社後の仕事のリアルを誠実に伝える。その誠実さが、ミスマッチを減らし、長く働いてくれるメンバーを呼び込みます。

家庭でも「伝える解像度」が関係の質を変える

ここで視点を家庭に移してみましょう。「子どもがどんな習い事をしたいか」を配偶者から聞いて判断するのと、子どもと直接話して興味や不安を確認してから動くのとでは、得られる情報の精度がまるで違います。

家族との会話がうまくかみ合わないと感じるとき、それは情報の解像度の問題かもしれません。相手が何を求めているかを抽象的に理解するだけでなく、具体的な場面や言葉で確かめていく――HRBPが現場の会議に同席して解像度を上げるのと、構造は同じです。「どうしたい?」という漠然とした質問より「何が一番心配?」という具体的な問いかけの方が、子どもも妻も答えやすくなります。

現場と人事の橋渡し役になることが、あなたの価値を高める

本書が描くHRBPの姿は、中間管理職のあなた自身の姿とも重なります。経営の言語と現場の言語を両方話せる人間が、組織の中で最も大きな影響力を持ちます。上位職の方針を現場に伝えるだけでなく、現場のニーズを具体的な言葉で上位職に届ける。その翻訳役としての力を磨くことが、採用の精度を上げ、チームの定着率を高め、あなたへの信頼を積み重ねていきます。

人事に「任せればいい」をやめ、人事と「一緒に考える」関係に変えていく。その小さな一歩が、採用の質を変え、チームの強さを変え、あなた自身のリーダーとしての価値を変えていくのです。

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NR書評猫1825 飯山辰之介 SHIFT解剖_究極の人的資本経営

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