「売り方」より「寄り添い方」を先に教える会社 坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社2』が示す人間力育成の本質

プレゼンで相手の心に届かない。部下に何かを教えても、どこかうわべだけで終わってしまう感覚がある。コミュニケーション研修を受けても、職場での関係性がなかなか変わらない。こうした悩みの背景には、スキルの問題だけでなく、もっと根本的な何かが隠されているのかもしれません。

坂本光司氏の著書『日本でいちばん大切にしたい会社2』には、スキルを教える前に「人間としての土台」を育てることに注力し、圧倒的な成果を上げ続けている企業の実例が登場します。その企業が実践する研修は、一見すると無駄に見えるほど非効率なものです。しかし、その非効率さの中にこそ、技術では決して補えない力が育まれる秘密がありました。

部下の成長を支えたい、チームの力を底上げしたい、そして自分自身の関わり方を見直したいという方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。

『日本でいちばん大切にしたい会社』2 | 坂本光司 | 組織論 | Kindleストア | Amazon
Amazonで坂本光司の『日本でいちばん大切にしたい会社』2。アマゾンならポイント還元本が多数。一度購入いただいた電子書籍は、KindleおよびFire端末、スマートフォンやタブレットなど、様々な端末でもお楽しみいただけます。

「スキルを磨けば人は動く」という幻想

新しい部下を採用したとき、多くのマネージャーはまず業務知識を教えようとします。システムの使い方、顧客対応のマニュアル、会議での報告の仕方。これらは確かに必要な知識です。しかし、スキルを覚えた社員が必ずしも「動ける」人材になるとは限りません。

知識として知っていることと、相手の気持ちに寄り添いながら行動できることは、まったく別の能力です。マニュアル通りの対応はできても、顧客が本当に困っていることを感じ取れない。敬語は使えても、部下が何に悩んでいるかを察する力がない。こうしたギャップを感じたことは、管理職であれば一度や二度ではないでしょう。

本書が取り上げる企業の一社、高知県のネッツトヨタ南国は、まさにこの問題に真正面から向き合っていました。そしてその答えは、研修の内容を増やすことではなく、研修の「順番」を根本から変えることでした。

4泊5日、車の話をいっさいしない新人研修

ネッツトヨタ南国が行う新入社員研修は、一般的なものとはまったく異なります。自動車の知識も、接客マニュアルも、営業トークも、この段階では一切教えません。代わりに新入社員たちに課されるのは、地域に暮らす目の不自由な方などとペアを組み、4泊5日をかけて四国八十八箇所を一緒に巡礼するというプログラムです。

88か所の霊場を歩いてめぐるこの巡礼は、若い社員にとって体力的にも精神的にも決して楽ではありません。しかしそれ以上に、ペアを組んだ相手の立場に立ち、歩くペースを合わせ、段差を一緒に越え、疲れた表情に気づき、言葉をかけ続けるという経験は、マニュアルでは絶対に学べないものです。

相手が今、何を感じているのか。どんな言葉をかければ安心するか。何も言わずにそばにいることが大切な瞬間はどこか。こうした感覚は、頭で理解するものではなく、身体と時間をかけて体得するものです。

「共感力」はなぜ、研修で教えられないのか

コミュニケーション研修で共感の大切さを学んだ、という方は少なくないでしょう。相手の話をきちんと聞く、うなずく、反復する。これらのテクニックは確かに役立ちます。しかし職場に戻ったとき、あの研修で学んだことが自然に出てこないと感じた経験はありませんか。

それは、共感がテクニックではなく、経験から育まれる感覚だからです。

他者の痛みは、そこに身を置かなければ本当には分からない。

目の不自由な方と一緒に歩いて初めて、段差ひとつがどれほど大きな障壁になるかが分かります。ペースを乱すまいと気を張り続けることがどれだけ疲れるかも分かります。そして、そっと手を添えることで相手の表情がほぐれる瞬間の温かさも、言葉にならない形で心に刻まれます。

ネッツトヨタ南国が新入社員にまず与えるのは、この「他者の立場に身を置く経験」です。

非効率に見えるものが、最も深いところに届く

4泊5日の巡礼研修は、時間もコストもかかります。業務の観点から見れば、まったく生産性のない5日間です。「その時間があれば、もっと商品知識を教えられるのに」と感じる人もいるでしょう。

しかし坂本氏のフィールドワークが示すのは、こうした「一見非効率な投資」が、長期的に見て最も確実なリターンをもたらすという事実です。

社員がスキルだけを持つ状態と、スキルの土台に深い共感力を持つ状態とでは、顧客や同僚との関係の質がまったく違います。マニュアルの範囲内でしか動けない社員と、相手の状況に応じて自ら考え、動ける社員との差は、どんな評価指標を使っても歴然と現れます。

急がば回れ――人間力を先に育てることが、最速の成長につながる。

この逆説を、ネッツトヨタ南国は自社の研修プログラムとして体現しています。

部下の成長を支えるために、マネージャーができること

「うちの会社ではそんな研修は無理だ」と感じた方も多いかもしれません。確かに、四国巡礼をそのまま再現することは現実的ではないでしょう。しかし本書が伝えたいのは、研修の形ではなく、その背後にある思想です。

人材育成とは、業務スキルを積み上げることではなく、他者と深く関われる人間をつくることだという視点。この視点を持っているマネージャーと、そうでないマネージャーとでは、日々の部下との関わり方が変わってきます。

たとえば、部下が失敗したとき。原因分析や再発防止策を語る前に、まずその人が今どんな気持ちでいるかに目を向けているでしょうか。チームのミーティングで、発言の少ないメンバーが何を感じているかを、後から個別に聞こうとしているでしょうか。仕事の話をしながらも、その人の生活や体調のことが頭の片隅にあるでしょうか。

こうした関わりの積み重ねが、部下にとって「この上司は自分のことを見てくれている」という感覚をつくります。その感覚が信頼の土台になり、部下が主体的に動く力の源泉になっていくのです。

人間力が、すべての成果の土台になる

ネッツトヨタ南国の研修プログラムが示すのは、「人間力」とはビジネススキルの上に乗るオプションではなく、すべての成果の土台だということです。

技術力のある社員が必ずしも顧客から選ばれるわけではありません。知識の豊富な上司が必ずしも部下から慕われるわけではありません。プレゼンの上手な人が必ずしも提案を通せるわけではありません。人が人に動かされるとき、そこには必ず「この人は自分のことを分かってくれている」という感覚があります。

坂本氏が約6300社を訪問して見出した真実のひとつは、長く愛され続ける企業に共通しているのは、圧倒的な技術でも革新的なビジネスモデルでもなく、関わるすべての人への深い敬意と共感だということです。

それはどこか遠い話のように聞こえるかもしれません。しかし実は、今日の部下との会話から始められることです。相手が今どんな状態にあるかに、少しだけ意識を向けてみること。その小さな積み重ねが、やがてチーム全体の力を変えていきます。

『日本でいちばん大切にしたい会社』2 | 坂本光司 | 組織論 | Kindleストア | Amazon
Amazonで坂本光司の『日本でいちばん大切にしたい会社』2。アマゾンならポイント還元本が多数。一度購入いただいた電子書籍は、KindleおよびFire端末、スマートフォンやタブレットなど、様々な端末でもお楽しみいただけます。

NR書評猫1231 坂本光司 日本でいちばん大切にしたい会社2

注意

・Amazonのアソシエイトとして、双子のドラ猫は適格販売により収入を得ています。
・この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的・法律的なアドバイス等の専門情報を含みません。何らかの懸念がある場合は、必ず医師、弁護士等の専門家に相談してください。
・記事の内容は最新の情報に基づいていますが、専門的な知見は常に更新されているため、最新の情報を確認することをお勧めします。
・記事内に個人名が含まれる場合、基本的に、その個人名は仮の名前であり実名ではありません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました