「Webサイトのアクセス数は増えているのに、問い合わせが全然来ない」「営業部門からマーケティングで獲得したリードの質が低いと文句を言われる」「せっかくセミナーを開催しても、その後商談につながらない」──こんな悩みを抱えていませんか。
BtoBマーケティングの現場では、リードは獲得できても商談化率が低いという課題に直面する企業が少なくありません。その原因の多くは、見込み客との段階的な関係構築ができていないことにあります。栗原康太氏の著書「事例で学ぶ BtoBマーケティングの戦略と実践」では、この問題を解決する具体的な手法が豊富な事例とともに解説されています。
いきなり「商談申込」は失敗する理由
BtoB商材は高額であることが多く、顧客が購入を決断するまでには慎重な検討プロセスが必要です。にもかかわらず、多くの企業がWebサイトの問い合わせフォームに「商談申込」や「お問い合わせ」しか用意していません。
本書が指摘するのは、顧客との接点を持つことができても、いきなり商談の設定をすることはハードルが高く、失敗するリスクが上がるという現実です。興味を持った見込み客の多くは、まだ具体的な購入意思が固まっていない段階にあり、営業担当との面談というアクションには大きな心理的抵抗があります。
BtoC商材であれば、気に入ればその場で購入というケースも珍しくありません。しかしBtoBでは、社内の承認プロセスや予算確保、複数部署の合意形成など、購入までに多くのステップを経る必要があります。こうした購買プロセスの違いを理解せず、BtoC的なアプローチで顧客に接しようとすることが、多くの失敗の原因になっているのです。
段階的な接点を設計する「CVポイント」という考え方
本書が提唱する解決策が、商談に至るまでに複数の中間ステップを用意し、徐々に顧客の関心度を高めていくという「階段設計」の考え方です。これを本書では「CVポイント」の設計と呼んでいます。
CVとはコンバージョンの略で、Webマーケティングでは「成果」を意味します。最終的な成果は「受注」ですが、その前に「商談」があり、商談の前には様々な中間的な成果があるはずです。例えば資料請求、メールマガジン登録、ウェビナー参加、無料相談、セミナー出席、ホワイトペーパーダウンロードなどです。
これらの接点を階段状に配置することで、見込み客は自分のペースで情報を集め、理解を深めながら、自然と購入検討のステップを上っていくことができます。社会人であれば誰でも一度は目にしたことのある無料セミナーや資料DLの案内は、まさにこの「階段設計」の一部なのです。
本書では、このようなコンテンツ提供や無料トライアル等を通じて見込み客を育て、自然に商談へ誘導する仕組みの重要性が、実際の企業事例を交えながら解説されています。
M社の成功事例に学ぶリード獲得の実践
本書後半では、著者が支援したシステム開発企業「M社」のケーススタディが詳しく紹介されています。この事例は、CVポイント設計の威力を如実に示すものです。
M社は業界4位の売上を維持していましたが、テレアポ中心のアウトバウンド営業に限界を感じていました。新たなリード獲得チャネルの開拓が必要だと判断し、マーケティング主導のプロジェクトを開始します。
具体的な施策として、M社では以下のような段階的な接点を複数設けました。
- 新規Webサイトの立ち上げ
- オンライン広告の出稿
- ホワイトペーパーの提供
- ウェビナーの開催
- 無料相談窓口の設置
これらの施策により、見込み客は自分の関心度や検討段階に応じて、適切なタイミングで情報を入手できるようになりました。軽い気持ちでホワイトペーパーをダウンロードした企業担当者が、その内容に興味を持ってウェビナーに参加し、さらに詳しく話を聞きたいと無料相談を申し込むという流れが生まれたのです。
この取り組みの結果、M社は3年間でリード数を約30倍に増やすことに成功しました。従来型営業に頼らずとも事業成長エンジンを作れることを証明した代表例といえます。
「見込み客育成」という発想の転換
CVポイント設計の本質は、「いかに商談を獲得するか」から「いかに見込み客を育成するか」への発想転換にあります。
従来のマーケティングでは、リードを獲得したらすぐに営業に引き渡し、あとは営業担当の腕次第という流れが一般的でした。しかし、このアプローチでは多くのリードが「まだ検討段階にない」という理由で失注してしまいます。
本書が提案するのは、マーケティング部門が獲得したリードを段階的に育成し、購買意欲が高まったタイミングで営業に引き渡すというプロセスです。育成の手段として、メールマガジンでの定期的な情報提供、役立つコンテンツの配信、ウェビナーへの招待などを活用します。
この育成プロセスを経ることで、営業部門に引き渡されるリードの質が格段に向上します。すでに自社の価値を理解し、具体的な導入を検討している見込み客だけが商談の場に登場するため、営業担当の労力も大幅に削減できるのです。
実践のための具体的なToDoリスト
本書の実践的な価値は、具体的な施策リストが提示されている点にあります。読者が自社のリード獲得から育成、商談プロセスをデジタル化する際のチェックリストとして活用できるよう工夫されています。
例えば以下のような項目です。
- リード獲得プロセスのデジタル化に必要なToDoリスト
- リード育成プロセスのToDoリスト
- 営業・受注プロセスのToDoリスト
これらのリストには、Webサイトに設置すべきCVポイントの種類、各CVポイントで提供すべきコンテンツの内容、リードの行動履歴に基づいたスコアリングの方法、営業へのパス基準の設定方法など、実務に直結する内容が網羅されています。
マーケティングオートメーションツールの選定や活用方法についても触れられており、デジタル化の第一歩を踏み出す企業にとって心強いガイドとなるでしょう。
顧客視点で階段を設計する
CVポイント設計で最も重要なのは、顧客の購買プロセスを深く理解することです。本書が一貫して強調しているのは、「顧客理解」の重要性です。
顧客がどのような課題を抱え、どのような情報を求めているのか。検討の初期段階ではどんな情報が役立ち、中期・後期ではどんな情報が必要になるのか。こうした顧客の心理や行動を詳細に把握することで、はじめて効果的なCVポイントを設計できます。
本書では、顧客への解像度が高い人をプロジェクトチームに加えることを推奨しています。実際に顧客と対峙する営業担当やサポート担当者、顧客との対話経験が豊富な経営層を巻き込むことで、顧客視点の階段設計の精度が格段に上がるからです。
著者が支援したある企業では、経営者や執行役員が定例会議に参加し、新しいWebサイトや営業資料の検討には必ず現場営業も同席させたといいます。こうした体制により、「顧客は何を考えているか」「なぜその商品を導入したのか」といった洞察が戦略に反映され、施策が的外れになるリスクを減らせたのです。
失敗を避けるための注意点
CVポイントの設計にあたっては、いくつか注意すべき点があります。
第一に、階段の段差を適切に設定することです。最初のステップのハードルが高すぎると誰も上ってきませんし、逆に低すぎると質の低いリードばかりが集まってしまいます。自社の商材特性や顧客の検討プロセスに合わせて、適切な段差を設計することが重要です。
第二に、各CVポイントで提供する価値を明確にすることです。顧客は自分にとって価値があると感じなければ、個人情報を提供してまで資料をダウンロードしたり、ウェビナーに参加したりはしません。それぞれのステップで顧客が得られるメリットを明確に示す必要があります。
第三に、一貫したメッセージを保つことです。各CVポイントで提供するコンテンツやメッセージがバラバラでは、顧客は混乱してしまいます。自社の価値提案を一貫して伝えながら、段階に応じて情報の深さを変えていくことが求められます。
あなたの会社でも実践できる第一歩
本書の素晴らしい点は、大企業だけでなく、中小企業でも実践可能な内容が豊富に盛り込まれていることです。M社の事例のように、限られたリソースでも段階的な施策展開により、大きな成果を上げることは可能なのです。
まずは自社のWebサイトを見直すところから始めてみましょう。「お問い合わせ」しかCVポイントがないなら、資料ダウンロードやメールマガジン登録など、もっと気軽にアクションできる接点を追加します。既存の営業資料を編集してホワイトペーパーとして提供したり、社内の知見を活かしたウェビナーを企画したりするだけでも、大きな変化が生まれます。
デジタルマーケティングの経験がない企業でも、本書の具体的な事例とToDoリストを参考にすれば、自社に合った階段設計を実現できるでしょう。重要なのは完璧を目指すことではなく、顧客視点で小さな一歩を踏み出すことです。
栗原康太氏の「事例で学ぶ BtoBマーケティングの戦略と実践」は、見込み客を確実に商談へつなぐための実践的な知恵が詰まった一冊です。リード獲得に課題を感じているマーケティング担当者、営業とマーケティングの連携に悩んでいる管理職の方に、ぜひ手に取っていただきたい書籍です。

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