戦略的DX推進と組織実行力の構造化――現場で機能する仕組みづくりで差をつける時代へ

事業

データを活用して事業を成長させたい、デジタル技術で業務を効率化したい、と思っても、実際にどこから着手すればいいのか分からないという声は多いのではないでしょうか。今回は、プロテリアル、オートバックスセブン、LayerXの3社の事例を基に、戦略的なDX推進と、それを実行に移すための組織力の構造化について解説します。

DX推進で直面する3つの構造的課題

日本企業がDXを進める際に直面する課題は、単に技術を導入すればいいという話ではありません。組織、データ、投資という3つの構造的な課題に着目する必要があります。

まず投資配分の問題です。多くの企業では、IT予算の大半が既存システムの保守運用に消えてしまい、新しい取り組みに回せる資金が不足しています。次にデータガバナンスと文化定着の課題です。データが部署ごとにバラバラに管理され、全社で統一的に活用できない状態が続いています。最後に戦略と実行の断絶です。経営層が描く構想と、現場で実際に動かせる仕組みとの間に大きなズレが生じ、属人的な対応に依存してしまいます。

プロテリアルの事例??データガバナンスの文化駆動型アプローチ

プロテリアル(旧日立金属)は、企業合併を重ねた結果、工場ごとに異なる原価計算方法を採用していたため、全社で統一した損益情報の可視化が困難でした。そこで2022年7月、経営戦略本部内にデータガバナンスグループを設置し、長期的な課題と短期的な成果を同時に狙う戦略を採用しました。

重要なのは、複雑な経営管理向けデータレイク開発を進める一方で、全従業員が使える情報探索ツールを優先的に開発したことです。具体的には、取引先企業情報の統合ツール「PARCO」や経費予実管理システム「XPEN」を早期に提供し、現場の業務効率化を実現しました。これにより、データ活用が「規制」や「負担」ではなく「便利なもの」として受け入れられ、全社的なデータ文化の醸成に成功しています。

さらに、毎週火曜日と木曜日に15分間開催される「朝イチデータ相談」を通じて、現在70人規模のコミュニティが育ち、社員一人ひとりが会社の状態をデータで把握できる「手触り感」を取り戻しつつあります。

オートバックスセブンの事例??IT投資の最適化と善循環モデル

オートバックスセブンは、2032年度に連結売上5000億円を目指す長期ビジョンの達成に向けて、IT投資のポートフォリオを抜本的に見直しました。2018年時点で「守りのIT」が約8割を占めていた構造を、2032年までに「攻めのIT」が6割を占める構造へと転換する計画です。

この転換を実現するため、レガシーシステムの第三者保守やモダナイゼーションなど7つのコストコントロール策を実行し、守りのIT予算を徹底的に削減しました。さらに、削減した予算を「攻めるIT」に回すだけでなく、グループ向けに開発したシステムを外部市場へ外販することで収益化し、その収益を再び技術力向上に還元する善循環モデルを確立しています。

例えば、整備状況をライブで確認できる「安心ピットカメラ」や、自動車保険の見積もり提示システム「ピポパ」などを、グループ外の企業にも提供することで、IT資産を事業資産としてマネタイズしています。

LayerXの事例??BizOpsによるスケーラブルな実行構造

急成長するスタートアップLayerXでは、優秀な社員の属人的な努力に頼った業務運営が限界に達しつつありました。そこで、BizOps機能を組織の核として設計し、戦略と現場のズレを解消する仕組みを構築しました。

BizOpsは「戦略と現場、構想と実行の間をつなぎ、構想を動く仕組みに変える職能」として定義されています。具体的には、複数チームにまたがる業務プロセスやシステム構造そのものを設計し、特定の個人に依存せず、誰がやっても一定の品質で動かせる仕組みを作ることに特化しています。

LayerXでは、BizOpsが施策を設計する際に、次の6つの問いを徹底的に自問自答する思考の型を実践しています。

  1. この施策の真の目的は何か
  2. 現状のボトルネックはどこにあるのか
  3. 理想のプロセスはどのような流れか
  4. このプロセスを再現可能にする要素は何か
  5. テクノロジーで代替・効率化できる部分はどこか
  6. 計測すべきデータは何か

この思考の型により、属人化を排除し、構造そのものが成果を生む仕組みが実現されています。

DX推進の基礎構造??成功に共通する4つの原則

3社の事例から導かれる成功要因は、業種や規模を問わず、DXを戦略として実行するための普遍的な4つの基礎構造原則に集約されます。

第一に、戦略と実行の統合です。プロテリアルがデータガバナンスグループを経営戦略本部に設置し、オートバックスがIT戦略とDX戦略の実行主体を経営と一体化させたように、IT機能を経営戦略の中枢に位置づけることが不可欠です。

第二に、投資規律の確立です。オートバックスの事例が示すように、レガシーシステムのコスト削減は単なる効率化ではなく、戦略的投資のための資金創出として定義されるべきです。

第三に、データ文化の草の根醸成です。プロテリアルのように、複雑な経営課題よりも現場の非効率を解消するクイックウィンを優先することで、データに対する信頼とエンゲージメントを高めることができます。

第四に、BizOpsによる戦略実行の構造化です。LayerXが実践するように、属人的な調整業務から脱却し、誰がやっても動く仕組みとして戦略を構造化する専門機能を設けることが重要です。

次世代のDX施策??さらに高度な競争優位性の確立へ

現在進行中の施策をさらに発展させた次世代の施策として、以下の4つの方向性が考えられます。

メタデータ主導型データ資産管理への進化

プロテリアルのコードガバナンスを、静的なコード統一から動的なデータ資産管理へと進化させます。データレイク内のデータを単なる生データの集まりではなく、品質、定義、更新頻度が保証された「データプロダクト」として定義し、社内利用者に提供することで、データ品質の分散責任化を実現します。

さらに、マスタデータ管理を、メタデータの自動収集とカタログ化に進化させます。データの発生源、利用履歴、品質スコアなどを自動的に追跡・可視化する環境を構築し、コード変更時の影響範囲を自動検知してAIが支援する機能を持たせることで、ガバナンスの自律性を高めます。

IT資産のプラットフォーム化による収益最大化

オートバックスの「攻めるIT」戦略を全社に展開し、IT機能をプロフィットセンターとして確立します。守りのITの効率化で捻出された資金と、「攻めるIT」で得られた外部収益を原資として、社内ベンチャーやイノベーションファンドを設立することが考えられます。

開発された効率化ツールやプラットフォームを部門間で利用する際に内部サービス料を設定し、IT機能がコストではなく収益に貢献する意識を組織全体に定着させます。同時に、特定の業界特化型ソリューションをSaaSとして切り出し、外部市場への提供を本格化することで、非連続的な成長の柱とします。

BizOps機能の全社展開とAI連携

LayerXのBizOps戦略を全社的に活用し、組織全体のオペレーションを自律的に進化させる構造を設計します。BizOpsを特定の事業部の枠を超え、サプライチェーン、人事、財務といった全社の基幹業務プロセス設計を担う企業変革オフィスとして機能させることで、部門横断的なプロセス統合が促進されます。

また、生成AIの活用を前提とした業務設計を行います。BizOpsの思考の型に基づき、プロセス内の判断、データ収集、リスク検知などをAIによる代替可能性を前提とした設計とすることで、自動化率と品質を同時に向上させます。さらに、生成AIが間違った答えを出すリスクを管理するため、AIが生成する情報や判断をどのように検証し統治するかのAIガバナンスの仕組みをプロセス設計の初期段階から組み込みます。

手触り感の経営指標化

プロテリアルが目指す「データを通じて会社の状態を把握できる手触り感」を、抽象的な文化目標に留めず、経営層が評価できる定量的な指標へと昇華させます。データレイク利用率、データインサイトに基づく意思決定速度、データ駆動型意思決定による事業成果への寄与度などをKPIとして測定し、経営報告の対象とすることで、データコミュニティの活動を最終的な事業成果へと結びつける道筋を明確にします。

実践に活かすプロンプト例??BizOps思考を支援する生成AI活用術

DX推進や組織実行力の構造化を進める際、生成AIを効果的に活用することで、思考の整理や施策設計のスピードを大幅に向上させることができます。以下、実務で使えるプロンプトの例をご紹介します。

プロンプト例1:施策の真の目的を明確化する

あなたは戦略コンサルタントです。以下の施策について、表面的な目的ではなく、本質的に達成すべき真の目的を3つ抽出してください。

施策内容:[具体的な施策内容を入力]

以下の観点から分析してください:
- この施策によって、最終的に誰のどのような課題が解決されるか
- この施策が成功した場合、組織や事業にどのような構造的変化が生まれるか
- この施策を行わなかった場合の機会損失は何か

出力形式:
1. 真の目的1:[目的とその理由]
2. 真の目的2:[目的とその理由]
3. 真の目的3:[目的とその理由]

このプロンプトは、LayerXのBizOps思考の型における「真の目的は何か」という問いを支援するものです。施策の本質的な価値を言語化することで、チーム内での認識のズレを防ぎ、優先順位の判断がしやすくなります。

プロンプト例2:業務プロセスのボトルネックを特定する

あなたは業務改善の専門家です。以下の業務プロセスについて、ボトルネックとなっている箇所を特定し、改善提案をしてください。

現在の業務フロー:[業務フローを箇条書きで入力]

分析の観点:
- 時間がかかりすぎている工程
- 属人化しており、特定の担当者に依存している工程
- 手戻りやエラーが発生しやすい工程
- テクノロジーで代替可能な工程

出力形式:
【ボトルネック1】
- 該当工程:
- 問題点:
- 改善提案:
- 期待効果:

このプロンプトは、「現状のボトルネックはどこにあるのか」「テクノロジーで代替・効率化できる部分はどこか」という問いに対応します。業務プロセスの可視化と課題抽出を効率的に行うことができます。

プロンプト例3:データ活用施策のKPI設計を支援する

あなたはデータ戦略の専門家です。以下のデータ活用施策について、適切なKPIを設計してください。

施策概要:[データ活用施策の概要を入力]

KPI設計の要件:
- 施策の成功を客観的に測定できる指標であること
- データ収集が現実的に可能な指標であること
- 経営層に報告できる分かりやすい指標であること
- 短期・中期・長期の3段階で設定すること

出力形式:
【短期KPI(3ヶ月以内)】
- KPI名:
- 測定方法:
- 目標値:

【中期KPI(6ヶ月~1年)】
- KPI名:
- 測定方法:
- 目標値:

【長期KPI(1年以上)】
- KPI名:
- 測定方法:
- 目標値:

このプロンプトは、「計測すべきデータは何か」という問いを具体化するためのものです。プロテリアルの事例のように、データ活用の価値を定量的に示すことで、経営層の理解と支援を得やすくなります。

プロンプト例4:再現可能なプロセスを設計する

あなたはBizOpsの専門家です。以下の業務プロセスを、属人化を排除し、誰でも一定品質で実行できる再現可能なプロセスとして設計してください。

現在のプロセス:[現在のプロセスを入力]

設計の要件:
- プロセスの各ステップを明確に定義すること
- 判断基準を客観的な指標で示すこと
- 必要なツールやデータを明記すること
- チェックポイントと品質担保の仕組みを組み込むこと

出力形式:
【プロセス名】
ステップ1:[具体的な作業内容]
- 判断基準:
- 使用ツール:
- 必要データ:
- チェックポイント:

ステップ2:[具体的な作業内容]
(以下同様)

このプロンプトは、「このプロセスを再現可能にする要素は何か」という問いに対応します。LayerXが実践するように、構造そのものが成果を生む仕組みを設計する際に有効です。

望ましい施策を実現するための必要事項

次世代施策を実現するためには、組織、技術、文化の三つの側面において、構造的な前提条件を整備する必要があります。

組織・人材の側面では、BizOpsを「構造設計の専門家」として明確に定義し、戦略とテクノロジーの深い知見を兼ね備えた人材を育成・採用することが求められます。プロテリアルの事例に倣い、情報システム部門と事業部門の人材が兼務を担うデュアルキャリア制度を制度化することで、経営とITの一体化を人材レベルで実現します。

技術基盤の側面では、オートバックスセブンが着手したモダナイゼーションを徹底し、レガシーシステムからクラウドネイティブなアーキテクチャへの完全移行を完了させます。さらに、データレイクやデータプロダクトの全社利用を前提とし、アクセス制御、監査、監視機能などのセキュリティ要件を初期のシステム設計段階に組み込むセキュリティ・バイ・デザインを徹底します。

文化・プロセスの側面では、プロテリアルが実践した「これだけはやらない」という選択と集中の規律を、全社的なルールとして経営層がコミットメントする形で徹底します。LayerXが採用する、成果を「構造の持続性・再現性」で評価する制度を導入し、属人化を防ぎ、組織のスケーラビリティを向上させます。損益可視化などの高度な経営管理指標を理解し、BizOpsやデータガバナンスグループの提言を迅速に意思決定できる経営層のデータリテラシー強化が、戦略的実行の速度を担保するために不可欠です。

今後の展望??変革を支える構造化の力

2025年以降のDXトレンドとして、生成AIの本格活用とサステナビリティとの融合が進むとされています。AIリテラシーの向上と、AIを活用した業務プロセスの再設計が重要な課題となる中、LayerXが実践するような「Bet AI」のバリューを掲げた組織運営が一層注目されるでしょう。

デジタル技術を活用して環境負荷を低減しながら、新たなビジネス機会を創出するグリーンDXの重要性も増しています。カーボンフットプリントの可視化や、サプライチェーン全体での環境負荷低減など、データとデジタル技術を活用したサステナビリティ戦略が競争力の源泉となるでしょう。

DX推進が単なる効率化で終わらず、持続的な成長を実現するためには、戦略を実行可能な構造として設計する力が不可欠です。プロテリアル、オートバックスセブン、LayerXの3社が示した道筋を参考に、自社に最適な構造化の方法を探ってみてはいかがでしょうか。


参考情報

注意

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